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不幸製造機の結末  作者: 緋 月海
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姉の呪い

このような不穏極まりないタイトルの小説を開いてくださり、ありがとうございます。

楽しんでいただけると幸いです。

「はぁ、はぁ」うなされて飛び起きる。咄嗟に壁にかけられている時計を見る。どうやら時刻は真夜中。広いベッドに俺は1人で横になっていた。べたつくような夏の暑さ。じんわり、と嫌な汗で少し寝間着が濡れている。窓にかけられた品のいいカーテンの隙間からは浮かんだ三日月と、未だ賑やかなのであろう街の夜景がチラチラ見えていた。サイドテーブルにおいてある、スマホに手を伸ばそうとしてやめる。夢に見ていたのは、自分のただ1人の姉弟(きょうだい)だった、姉のこと。姉はもう、とっくにこの世にいない。


---------ツイオク---------


姉と俺は、普通の姉弟だった。三歳上の姉は、のんびりとしていて、頭が良かった。俺は末っ子で、ずいぶんと両親にも可愛がられていた。自分で言うのもなんだが、俺はどちらかと言うと綺麗な顔立ちをしていたし、運動もできて、どちらかといえばトロイ姉とは違った。姉の友人たちにもよく、可愛がられていたように思う。

色々な人に可愛がられていたから、俺はずいぶんとわがままに育っていた。姉と何回めかわからない諍いを起こした日は、確か2人っきりで家の留守を預かっていた時だ。その日も、俺はわがままを言って、それを窘めようとする姉ともめた。俺が「母親にチクってやる!」と言ったら、姉は困ったような表情をして引き下がった。その後も何かを言っていたけど、負け犬の遠吠えのように思っていた。年上の姉を言い負かしたい気になって、いい気になってたんだ。


その次の諍いはいつだっただろう。何度も何度も、その事件が起きる日まで、諍いを重ねていた。その前の日も確か、もめていた。理由も覚えてない。些細なこと。大抵、姉が引き下がって収束する。その頃には俺の方が力があった。姉は、暴力をひどく恐れていたようだから、俺が年頃になった頃から、俺は喧嘩の手頃なツールとして暴力を使っていた。姉にほぼ毎日のように振るったが、時には母親にも振るった。対して罪悪感はなかった。

なぜなら、父親もそうだったから。父親は不幸で、哀れな人物だった。幼少期に与えられなかった愛を、自らの子供に求めた愚か者。俺はその愚か者に溺愛されていて、父親は大抵娘と、妻に愛を与えるよう強いていた。家族が最初に壊れた日は、俺がまだ小学生の頃だったように思う。その日も、父親は荒れていた。その強い拳を振るい、母を傷つけた。様々な毒を吐いた。母は、壊れてしまった。頭を掻きむしって、目を見開いて、涙を流して、悲鳴をあげていた。姉が、父親の前に立ち、何かを言う。すると父親は「生意気なっ」と叫び、手を振り下ろす。ぱしん、と乾いた音がした。姉は、そんな父を鼻で笑い、言葉を紡ぐ。それでさらに怒った父親が、今度は蹴る。姉はボロボロになっていた。俺は叫んだ。「もうやめてよ!」熱いものが頬を伝う。俺は父に駆け寄り、拳を抑え込んだ。なんども、突き飛ばされたけど、最後は父親の頭が冷えたのか、やめてくれた。

父親からこいつらを守ったのは俺なんだ。そんな自負があったから。何をしても許されると勘違いしていた。


中学三年の冬になると俺は、壊れたまま成立している家庭から逃げるかのように、様々なことをした。来るもの拒まず、去る者追わずで女子と交際した。最初は刺激的で、楽しかった。だけれど、元々そんなにマメじゃないから俺はだんだん適当になる。でも断るのも労力がいるから、拒まなかった。さすがに複数の女子といっぺんに付き合うことはしなかったけど。高校生になって、俺は初めて交わりを持った。その行為はものすごく刺激的で、現実を忘れられた。俺はすぐにそれにのめり込んだ。でもまぁ、責任をとるような事態にならないように、細心の注意を払ってたけど。相手が拒んだ時は暴力を振るったりもした。うざくなっても自分から切ることはしなかった。そんなことをする前に相手から去っていく。自分から告白したくせに、「ごめん、もう無理。」なんて、涙を浮かべながら別れを切り出して来るんだ。


俺が、大学生になって、今までで15人目の彼女と別れた頃、その事件が起こった。その日はなぜか姉に、近所の10階建のビルの屋上に呼び出されたんだ。妙に底冷えした日で、空は雪の匂いがしていた。ビルの屋上に着くと、制服のような形の服に身を包んだ、姉が立っていた。他に人はいなかった。彼女の中にそう言うのが趣味の娘がいたから知っていたのだが、確か、ゴスロリ、と呼ばれる部類の服だった。我が姉ながら痛いな、なんて俺は呑気なことを考えてたんだ。そんなんだから、彼氏ができるのが遅かったんだよとも思っていた。姉は、二十歳になってから初めての彼氏ができて、まだ付き合っていて、しかもキス以上の行為に及んでいない、と俺の幼馴染が言っていた。それに比べて俺は、なんども、何人もの女子と関わりを持ったことがある。だから、何が偉いのか知らないが、俺はそこでも上位に立ってるような気持ちになっていた。


「俺だって暇じゃないんだけど?」とっくの昔にずいぶんと父親似に変化した声で俺は言う。姉は苦笑いを浮かべて「そうだろうね」なんてのんびりと言う。俺の方が優位に立っている筈なのに、姉の方が満たされているように見えて、なんだかイラっときた。姉は少し悲しそうに笑うと、俺に背を向けて、空を見る。「ねぇ、最近彼女さんとどう?」姉がこんな質問をして来るのは初めてのことだった。「別に、最近15人目と別れたよ。」ぶっきらぼうに俺は答える。姉はが息を飲んだような音が聞こえ、その後に静かな「そう。」と言うつぶやきが聞こえた。だから、なんだと言うのだろう。姉はやはりどこまでも青い空を見つめながら言った。「やっぱ、君も不幸製造機になっちゃったね。」なんのことだろう。「君の彼女さんたち、私のところに来て、いろいろ相談するんだよ。」頭に血が上り、思わず姉に詰め寄る。姉が、腰あたりまでのフェンスギリギリまで下がる。「お前…」俺はつぶやき、姉を殴る。蹴る。「ぐっ…」姉は苦しそうな声を上げる。姉は傷だらけになって、倒れてしまった。俺が離れると姉はふらふらと立ち上がる。肌には、細かい傷がたくさん刻まれていて、口の端が切れていた。それでも姉は笑みを浮かべて「彼女さんたちに対してと同じように、私にもするの?」と問う。「ある子は、消えない傷が付いていた。ある子は、痛々しい青あざがあった。ある子は、男性恐怖症になった。」姉が、俺の暴力の、行動の結果を静かに告げる。「ねぇ、〇〇」姉が、俺の名を呼ぶ。「君もあの男と同じになっちゃったね。」あの男とは父親のことだろう。「1人さぁ、別れも告げずにいなくなった子、いたでしょ。あなたが一番手酷く暴力を振るった子。その子は壊れちゃったんだよ。」確かに1人、別れも告げずに去って行った娘がいた。手紙が届いて、海外に行くためだと震えた字で書いてあった。そうだったのか。「君も、あいつと同じようにいろんな人を不幸にしちゃってんだよ。」姉は、フェンスの上に座り、愉快そうに笑う。俺は、驚きに立ち竦み、動くことができなかった。きっと姉は、それも見越していたんだろう。雪が降り始める。「じゃあね、不幸製造機。せいぜい、足掻くといいよ。幸せになれるわけないけどね。」そう行って、姉は空を見上げ、ひっくり返る。フェンスの向こう側に姉の足が消える。動かない足に鞭打って、駆け寄った頃には姉にはもう、届かなくて。姉は、唖然とする俺を笑っていた。雪が薄く積もり始めた道に、姉の体が打ち付けられる。人々の悲鳴が響く。


姉の飛び降りは普通の自殺として処理され、俺が罪に問われることもなかった。俺はあの場にいたのに。原因を作ったのは俺だったのに。姉の葬式には、姉の彼氏も来た。どうやら、姉と婚約していたらしい。とても孤独そうに、涙を流していた。なぜ、自分の愛するあいつが、と呟いていた。しかし、自分の所為では、などとは呟いていなかった。「弟くん。」姉の彼氏が俺に声をかけた。「○△のことは、突然のことで、未だに信じられない。弟くんも、たった1人の姉だったんだ。胸中お察しします。これから大変だろうから、いつでも自分を頼ってくれていいからね。」そう、側からみたら自らも婚約者を喪い、辛い思いをしていると言うのに、その失くなった婚約者の弟を気使ってる台詞を言っているそいつの瞳には、確かに俺への憎しみが滲んでいた。きっと、こいつにだけは言っていたんだろう。


---------キリトリ---------


あれからしばらく…姉の年齢を俺が越すまで、姉のことを思い出さないようにしていた。罪悪感を感じないように。それで平和に人生を満喫していて、素敵な彼女もできた。姉の彼氏だった男も葬式から一カ月後以来あってない。なのに、姉の年齢を越した日の夜から、毎晩悪夢を見るようになった。夢に、姉が出る。彼岸花の花畑の中で、洋風の喪服を見に纏い目元をベールで隠して、笑みを浮かべ「あなたが不幸製造機だってこと、忘れてない?」と聞いて来る。時には、姉の彼氏だった男も共に出てきて、姉を庇うように、励ますように、穏やかな表情でそこにいる。眠ると、姉が出て来るから、眠ることができず、どんどん体が壊れて行く。今は、必要な時に一緒に寝る相手はいるが、彼女はいない。ひとりぼっちだ。天井をにらみ、俺は呟く。

「なんの贖罪だよ。それに、あんただって不幸製造機じゃん。婚約者を不幸にしてさ。俺を呪って、悪夢を見せて。俺のことも不幸にして。こんなことをするために死んだのかよ。」

だんだんとそれが真実味を帯びていく。俺の精神は、蝕まれて行った。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。作者は筆不精かつ語彙力皆無ですが、今後も読んでくださると幸いです。

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