表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

7

 リリーナは、王宮へ行く為に外出届を出し、学園を後にした。そのことでリチャードの心は、アイリスに向けられているようだった。

 ところ構わず睦みあう二人には、悪い噂が多い。それに対し、リリーナを擁護する声も、同じくらいあって、不思議なものだなと思った。そんな時だアイリスへの苛めが始まったのは、足をひっかけるのはまだ甘い方で、階段から突き飛ばされたりと多々ある。アイリスはそれをリチャードに逐一報告し、リリーナの仕業だとした。リチャードの心はリリーナからアイリスに傾きつつある。

 これは望んでもいない好機で、オレはアイリスが、もっと喚いてくれないかとさえ思っていた。そうすればリチャードはアイリスに、どんどんのめり込んでいくからだ。

 彼女との恋愛は障害があればあるほど盛り上がる。そして気付かぬうちに彼女に夢中になってしまうのだ。それはまるで病気のようで、今リチャードはその病気にかかっている。傾国の乙女に夢中な取り巻き達と競い合いながら、彼女の気を引こうとしている。その姿はあまりに滑稽で、こんな時に彼女が居なくて良かったと思った。きっと優しい彼女は傷ついていただろうからだ。

 リリーナ以外に優しくないオレは、彼女の無実である証拠を逐一集めては、管理を始めた。実際のところ、今ここに居ない彼女が、アイリスを苛めるのは不可能だ。だから、リリーナに命令されてやった。と言う輩を家の力を使って黙らせた。

 王宮主催のパーティが近いことに気が付いた。ことが起こる日はここに違いない。リチャードは一体どんな弁明をするつもりなのだろうか。今のところアイリスが好きだという彼の頭には彼女は居ない。リチャードはきっとまた彼女ではなくアイリスをパートナーにして参加する可能性がある。なら今度はオレから彼女にドレスを送ろう。そして彼女のパートナーとして出席しようと決めた。


 数日して戻ってきた彼女は満面の笑みを浮かべていて、王妃様との話し合いが上手くいったのだと気付いた。早速生徒会室で彼女の為にお茶を入れる。


「どうだった?」

 

「王妃様は私の味方よ。好きな殿方ができたと言ったら喜んでくれたわ。それから殿下の悪評は、どうやら王妃様どころか陛下の耳にも入っているみたいで、お二人とも、私を愛娘のように思ってくれていたからか、今回の話は破談が決まったわ」


 嬉しい半面少し彼女の顔に陰りが見えた。


「この婚約が破棄されたら私、公爵家に泥を塗ることになる。それに私をめとる人はきっと居ない。でも何故か嬉しいのよ。不思議なくらいに、そしてスッキリしたわ。それもこれもイルーゼのおかげね」


 そう言った彼女は息を呑むほど美しかった。


「リリーナ、もし良かったらだけど、王国主催のパーティ、君のエスコートをオレにさせてくれないかい?」


「勿論、貴方ならそう言ってくれると思っていたわ」


 二人でクスリと笑いあう。

 パーティまでに諸々の書類を片付けなくてはと、生徒会の活動にせいを出した。

 リチャードを避けて行動しているおかげで、リリーナにリチャードが靡くことはなかった。


 そしてダンスパーティ当日オレは女子寮のエントランスで待っていた。彼女は落ち着いた純白のドレスに、瞳の色のリボンを絡ませた編み上げの髪をしていて、花をさしており、まるで女神のような美しさだった。


「どうかしら?」


「とても似合っているよ」


 彼女はオレの腕に手を絡ませると深呼吸する。さあ夢の世界へ。彼女とオレはホールに踏み出した。

 するとダンスが始まり、オレと彼女の優雅なダンスに、女の子達はほうっと息をつき見つめる。誰もが二人は恋人なのではと伺いたくなるくらいに、二人の呼吸はあっている。

 隣で踊るリチャードとアイリスが霞むくらいに、ダンスを楽しむオレ達は幸せで満たされていて、一曲踊り会釈をする。すると嫉妬にかられた。リチャードから声が上がる。


「リリーナ、なぜオレを愛さない」


「私、貴方のそういった傲慢なところが嫌いなのよ」


「傲慢? それは君のような人に使う言葉だ。アイリスを苛めていたお前は最低の人間だ。今ここで君との婚約を破棄する」


 その言葉にイルーゼは顔には出さないが、心の底から歓喜した。これでもう彼女を縛るものは何もない。後は彼等を追い詰めるだけ、彼女を泣かせた分だけ彼等を痛めつける為に口を開いた。


「殿下は先程アイリス嬢を苛めていたと申しましたが、彼女の側に居ないリリーナ嬢にはたしてそれは可能でしょうか?」


「リリーナが誰かに頼んでそうさせたのだ」


「その証拠は?」


 すると途端に口をつぐむリチャードに、イルーゼは内心でほくそ笑んだ。本当に下らない茶番だ。すると陛下が立ち上がり、リリーナに視線を向けたので彼女は礼をした。


「リリーナよ。こたびは我が愚息がそなたを辱しめ、勝手に婚約破棄を口にしたこと、真にすまない。

その代わりと言ってはなんだ。そなたの望む者との婚約を認めよう」


「陛下、私の望む方はただ一人、このイルーゼとの婚約を望みます」


「イルーゼそなたは構わないか?」


「はい! 私は彼女を望みます」


 その言葉を口にした瞬間リチャードは激昂した。


「この尻軽女め! 私を欺きその男と浮気していたのだな!」


「そうよイルーゼは私のものなのに返してよ!」


「口を慎め! そして我が子といえど、余の言葉を遮る事は許さん! お前には心底呆れた。お前は廃嫡とする」


 強引に連れ出されたリチャードとアイリス。アイリスは最後まで叫び続けた。


「なんで私がこんな目にあわされるのよ。それもこれもリリーナあんたのせいよ!」


退場させられた二人にため息をつき、彼女に向き合う。そして二人は幸せそうに笑った。

これにて完結となりました。皆さまこれまでお読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ