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幼女とオオカミ男のお話  作者: 金剛陸奥
あくとⅤ  ちょっぴり怖くて意地悪なオオカミ男さん、やっと会えましたね
33/37

ちゃぷたーⅢ  幼女、純潔の愛を誓った  R-15注意

注意

このお話には表現をぼかしてはいますが、R-15に相当する残酷描写が含まれています。

苦手だという方はバックしてお戻りください。

大丈夫という方はこのままスクロールどうぞ。



森の奥深くにある小屋で、赤ずきんをかぶった女の子がひとり、ひっそりと暮らしてた。わたしはその女の子の横に立って、女の子に話しかけることも出来ずに、傍でずっと赤ずきんの女の子を見守ってた。女の子の顔を確認しようとしても、ずきんに隠れて見ることさえかなわない。


名前がわからないので、その女の子のことを赤ずきんちゃんと呼ぶことにする。


赤ずきんちゃんの日課はわたしと少し似ていて、朝は庭のお花にお水をあげて、一通りの家事をして、後の時間は本を読んだり、動物たちと遊んだり。家族は居ないのか、お家には赤ずきんちゃんひとりだけだった。


赤ずきんちゃんはいつもたくさんの森の動物に囲まれて、陽気に踊ったり、歌ったり、顔が見えないから表情はわからないけど、楽しそうに暮らしていた。…ときどき、寂しそうな雰囲気を漂わせてはいたけれど。


わたしから話しかけても、真正面に立っても、何の反応も返ってこないので、赤ずきんちゃんにわたしの姿は見えなければ、声も聞こえないのだろう。自分の姿を見てみると、寝る前に見たのと同じパジャマなので、ああやっぱりこれは夢なんだと実感させられる。


童話の赤ずきんちゃんがそのままわたしの夢の中で再現されたのかなと思ったけど、この赤ずきんちゃんは確かにこの小屋で生活して、あんまりにリアルすぎる程に存在が濃かった。










ある日、赤ずきんちゃんは大きな木の下で本を読むのを止めて、思い立ったように立ち上がり、小屋から持ってきた真っ赤なマントを来て、ちいさな籠を手に小屋を離れて行った。どこへ行くんだろうとわたしもこっそり、いや、あの子には見えないけど、ついていってみることにした。


赤ずきんちゃんの後を追ってしばらく歩いて見えてきたのは、広い草原に咲き誇るお花畑だった。色とりどりのお花がたくさんあって、そこからたちこめるお花の香りが心を朗らかにさせた。どこからか川のせせらぎも聞こえてきて、まさに童話赤ずきんちゃんの代表的なお花畑に相応しい場所だった。


わたしが目の前に広がる光景に見惚れて立ちつくしていると、赤ずきんちゃんは、赤・青・ピンク・白・黒といった色とりどりの薔薇が綺麗に咲き誇る場所の近くに座って、持ってきていたハサミで棘に触れないように気をつけて何本か摘み取り始めた。


手慣れた様子ではあったけれど、グローブもしないで大丈夫かなぁと心配しつつ黙って見守っていると、やはり赤ずきんちゃんは直に棘に触れてしまった。わたしはそれを見て、隣であわわわと慌てていたけれど、指から流れる血を赤ずきんちゃんは拭うこともせず黙って見ていた。ばい菌が入らない内に消毒して手当したほうがいいよ! と聞こえないことはわかっていたけれど、そんなことも忘れてひたすら赤ずきんちゃんに訴えていたわたしだったけど、彼女は血を拭うこともせず、作業を再開させた。


でもさっきと少し違っていたのは、ずっと満開の薔薇を摘み取っていた赤ずきんちゃんだったけど、今度はまだ咲き誇ることのない赤い薔薇と白い薔薇の蕾を交互に集めだした。生け花のことを考えると、それは別に不思議なことではないんだけど、赤ずきんちゃんはただただ、蕾の薔薇だけを摘み続けている。ずっと、ずーっと、綺麗に咲いた薔薇には一切手を出すことなく、蕾だけををずっとずっと。


不気味すぎる程だった。


わたしは蕾だけを摘み続ける赤ずきんちゃんに声をかけることも止めることも出来ずに立ちつくしていた。


すると、後ろから獣の唸り声が聞こえてきた。振り向くと、牙を剥き出しにしたオオカミが薔薇の蕾を摘み続ける赤ずきんちゃんの背中に唸り声をあげていた。そのオオカミには見覚えがあった。



「…ワンくん?」



大きくて真っ黒なオオカミ。青のかかった灰色の綺麗な瞳。そのオオカミは2日前にお家にお迎えしたワンくんそのものだった。


でも彼はこれほどまで血走った目を、鋭い歯を、この花畑を荒さんとする研ぎ澄まされた爪を、持っていただろうか。目の前にいるのはただの獣だ。全てを食い荒らそうとする、獰猛な獣だ。


わたしがワンくんに似たオオカミを見て驚きで突っ立ていると、後ろで薔薇の蕾を摘んでいた赤ずきんちゃんがオオカミに気付いたのか、ゆっくりと振り向いた。赤ずきんちゃんは立ち上がって、わたしの隣まで歩いてきた。そして未だに唸り声をあげ、その大きな口から涎を垂れ流しているオオカミに向かい合った。


そこで、赤ずきんちゃんの唯一見える口元が小さく、弱々しく笑っていたのに気づいて、声をかけようとした瞬間…―――



赤ずきんちゃんの姿は勢いよく、黒い何かに覆われた。



倒れ込んだ赤ずきんちゃんに興奮して覆いかぶさるのはワンくんに似たオオカミ。オオカミは抵抗しない赤ずきんちゃんの頭に、腕に、手に、足に、お腹に、腸に、内臓に、胃に、心臓に




赤ずきんちゃんはずっと、赤い薔薇の蕾をその手に握っていた。









ふたり、いや、ひとりになった空間で、わたしは今まで見ていた光景が頭の中でリピートされていくのに足がガクガクと震えだして、ついには立っていられなくなった。


わたしの足元にあるのは、もう人間とは言えない“何か”だった。わたしが動くとびちゃびちゃと水音がする。オオカミは赤ずきんちゃんを“食べた”あと、どこかへ走り去ってしまった。


赤ずきんちゃんのずきんはずたずたに破られて、唯一食い荒らされることのなかった顔の口と鼻が見えた。このままずらせば、赤ずきんちゃんの顔を見ることが出来る。でも、わたしの中のどこかで、その赤ずきんを取ってはいけないと警報が鳴っていた。わたしは震えの止まらない手のせいで、赤ずきんを何度もつかみ損ねながら、やっとの思いで取り去ることが出来た。










赤ずきんの下に隠されていた血にまみれた顔は、わたしだった。










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