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幼女とオオカミ男のお話  作者: 金剛陸奥
あくと、ばんがいへん!  ちょっぴり怖くて意地悪なオオカミ男さん、発情期です    *ネタバレ注意
29/37

ちゃぷたーⅥ  幼女、はじめての  R-15注意

注意!

このお話にはR-15表現が含まれています。

苦手だという方はバックしてお戻りください。

大丈夫よ! という方はこのままスクロールどうぞ。



お家に入った途端、ワンくんは走って上の階に行ってしまった。は、はううう置いてかないでよう! わたしは今のセシルさんが少し怖くて、あまり二人きりにはしてほしくなかった。なので、わたしもセシルさんに「セシルさん!!! わたし、漏れそうなのでトイレ行ってきます!! さ、さらば!!」と叫び、リビングに居るお父さんにただいまと言ってからお部屋まで急いだ。わ、ワンくんめえええ。



「ワンくん! 置いてくなんてひどい……ってあれ?」



もうお部屋でくつろいでいるだろうワンくんにちょっとだけ抗議しようと思って勢いよくお部屋を開けたんだけど、散歩から帰ったらいつもわたしのベッドを陣取るワンくん本人が居ない。…変だなあ。いつも疲れただの汗が気持ちわりーだの文句を言ってベッドにダイブするワンくんをわたしが必死で引き止めるってパターンなのに。



「…自分のお部屋に行ったのかな」



いつもと違う状況を不思議に思いながら、わたしはワンくんのお部屋に向かうことにした。









ノックをしてからワンくんのお部屋をそっと開けると、ワンくんは中に居た。けれど、ウルフドッグさんの姿ならともかく、ひとの姿になって部屋の隅にうずくまるワンくんは様子がおかしかった。その姿は何だかワンくんがやってきたばかりの頃に似ていてすこし懐かしく思ったけど、あの頃に比べてずいぶん仲よくなったから、今のワンくんを見るのはちょっと寂しい。


…なんだか、セシルさんもワンくんも、ちょっと、へん。



「…ワンくーん?」



そっぽを向くワンくんのおっきな背中を軽くつんつんと突いてみても何の反応も返ってこない。昼間のこと気にしてるのかな…。



「わ、ワンくん! き、気にしないでっていうのは難しいけど、あんまり、その、…やっぱり気にしないほうが……」

「……」

「じゃ、じゃあね、ワンくんが女の子じゃなくて良かったって考えようよ!! ワンくんが女の子だったら今頃たいへんだよ! 流石のわたしも黙ってられなかったよ!! あ、あはははは」

「……」

「あはは…はぁ…」



反応は、無い。そうだよね。初めてのドッグランであれはちょっとトラウマものだよね…。わたしも思い出すのがちょっとこわい。


ワンくんにそれからも他愛のないことをお話しして気を紛らわせようとするけど、やっぱりお返事はない。反応の返ってこないワンくんの背中を見ていると、何だが胸のあたりがぎゅうってなってきて、わたしもお話しする気力を奪われかけていると、ワンくんの垂れ下がったしっぽが目に入った。


……ええい、時には実力行使も大事だって、葵さんも言ってた!!! ワンくんのもふもふのしっぽをぎゅっと掴んで、そして、一気に引いた。

 

わたしにしっぽを引っ張られたワンくんは、不意打ちだったのか、そのまま何の抵抗もすることなく目の前の壁に思い切り頭を打ち付けてしまった。あっあああ、ゴンッていった。ゴンッていった!!! ワンくんは頭を押さえて痛みに苦しみ、こっちを向いて少し涙目になってわたしを睨んだ。



「……いッ………」

「あ、あわわわわわこ、これは予想外」

「痛ッてえな!!! 昨日といい今のといい、ちッたあどうなるかぐらい考えろよバカ!! こンのバカ!!」

「は、はうう。ごめええん! ほんとに今のはごめえええん!! だっだいじょうぶ!? すごい音したけど変なとこ打ってない!?」



頭を押さえるワンくんの手に、刺激しないように上から手を重ねると、ワンくんは思い切り顔を真っ赤にしてわたしの手を思い切り振り払った。ワンくんに振り払われたことでわたしはひどくショックを受け、わたしまで涙目になりそうだった。


そんなわたしを見たワンくんは慌てて何か言おうとしたけど口ごもってしまい、イライラを撒き散らすかのように頭をガシガシと搔いて、わたしと目を合わせることなく叫んだ。



「さッさと便所行ッてこい!!!」

「は…。と、トイレ? なんで? さっき手洗いうがいしてきたとこ…」

「いいから!! 匂いが気になッて仕方ねえんだよ!! くッそ! こッちがどんだけ抑えてるかも知ンねーでオメーはよぉ!!!」

「え、ええええ」









真っ赤なお顔のワンくんに半ば強制的にお部屋から追い出されてしまい、ワンくんが一体何のことであんなにわちゃわちゃとしているのか理解できないまま、とりあえず言われた通りにトイレに入った。お昼のことを気にしてる訳じゃなさそうだったけど…。


そしてわたしは、パンツを下ろしたときに、ワンくんがずっと気にしていた匂いというものを、やっと理解した。









飼い主サマの甲高い悲鳴が聞こえた。耳を澄ませてみると、部屋の前を飼い主サマが走り抜け、下に降りて行く音がした。が、すぐに上に引き返す足音が聞こえてきた。待て待て待てアイツバカか!! 


飼い主サマは自分の部屋に向かわず顔を真っ赤にさせてオレの部屋に飛び込んできた。



「わ、わわわ、ワンくん!! ど、どうしようどうしよう!!」

「ンで戻ッて来たンだよアホ! ボケ!!」

「ち、ちちち血が!」

「わわわわわかッてンだよバカだからさッさとどうにかしろ!!」

「だっ、だから持ってない!!」

「あ!!?」

「準備してなかったの! ま、まだまだ先のことだと思ってたからあああ」

「はあああッ!?」



初潮だったのかよ!! どうしようどうしようとパニックになっている飼い主サマが半泣きになって近付いてくるので、オレは慌てて足を止めさせた。何のために部屋から出て行かせたと思ってンだこのバカは!! 飼い主サマの匂いがオレを刺激して、下腹部の辺りが熱くなってくる。まずい。



「ど、どうじようううワンくんん」

「お、親父さんとこ行け親父さんとこ!!」

「お買いもの行っちゃっでだあああ」

「あああ近寄るンじゃねえええ!!!」



顔から涙やら鼻水を垂れ流す飼い主サマは非常にブサイクだ。血を見るのは苦手だと言っていたし、おそらく初めて自分から吐き出された血にビビッたンだろう。


スカートを押さえてえぐえぐと嗚咽を上げる飼い主サマが不憫になってきた。このまま放っておくわけにもいかない。し、仕方ねえ。オレがどッかでそういう備品を調達してくるしか…。その間にオレも色々と鎮められる!! 

そのことを飼い主サマに伝えようとした瞬間、部屋のドアがノックされた。飼い主サマの名前を呼ぶ声はあの優男だ。それがわかったオレは急いでウルフドッグの姿に戻り、その直後に扉は開かれた。


部屋に入ってきた優男を飼い主サマは茫然とした顔で見ていた。



「真綾ちゃん、大きな声が聞こえたけどどうかし……真綾ちゃん?」

「せ、せ、せしるさっ」

「…どうして泣いてるの。何か……」



優男が様子のおかしい飼い主サマを見て固まった。オレも思わずその光景を見て頭が真っ白になった。


飼い主サマの足に、一筋の血が伝っていた。


飼い主サマはこれでもかと目を潤ませて、顔を真っ赤にし、手で顔を覆ってその場にしゃがみこんでしまった。そして聞こえてくる小さく押し殺したような泣き声。


優男は目の前で足を抱えしゃがみこんでしまった飼い主サマをしばらく目を見開いて見つめていたが、すぐに真剣な顔になって、着ていた上着を脱ぎ、飼い主サマに被せた。そして安心させる様に飼い主サマの背中を撫で、声をかけた。



「真綾ちゃん」

「…っ」

「真綾ちゃん、ごめんね。恥ずかしかったね。さ、ほら。オレの上着腰に巻いて。お風呂場行こう」

「ご、ごめんなさい…っ」

「何で謝るの。大丈夫だよ、オレがちゃんと色々用意してあるから。洗面台に置いとくから、お風呂入ってきな」



そのまま優男は飼い主サマを立たせて肩を抱き、部屋を出る様に誘導していくのをオレは何ともいえない気持ちでただ見送るしかなかった。何でテメーがキッチリ準備してンだ、とか色々突っ込むところもあった筈だ。


でもオレは、自分がいかに無力かをただ思い知らされていた。こンな時こそ、飼い主サマの力になってやらねばならなかッたのに。飼い主サマはオレに助けを求めてここに来たのに。


何やッてンだ、オレは。



ドアが閉まる寸前、飼い主サマを連れて行く優男がどんな顔をしていたのかも、オレは気づくことが出来なかった。









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