ちゃぷたーⅡ 幼女、新たな運命の出会いをする
「あんらぁー大きな犬ねえ。すんごいわねぇー。ウチのヘレナちゃんとは大違いだわぁ~。ね~ヘレナちゃ~ん」
「へー、ウルフドッグ! 珍しいねえ。やっぱり遠吠えとかするの?」
「ひいいいやあああハイブリッドウルフかっけえええひゃああああ」
「やだ…。なかなかイイ顔つきしてるじゃない…。うちの店で働かない? 新宿2丁目にあるんだけど…」
「えっオオカミと犬のハーフなの? 大人しいし、おりこうさんだねー」
う、うわあ。目に見えてげっそりしておられる…。
「わ、ワンくん。よ、良かったねー! すごく人気者だよ!」
「…」
最初は大きな犬だオオカミだと怖がられるんじゃないかと少し心配していたんだけど、予想外なことにワンくんはすぐにドッグランの人気者になった。
まず、受付のロビーで囲まれ色んな人とお話しして、広場に出てすぐにワンくんはたくさんのワンちゃん達に囲まれ、結果的に飼い主さん達も集まってたくさんお話しして、のエンドレス。ウルフドッグを飼っている人は日本ではそんなに居ないということもあって、珍しいねと声をかけてくれるひとや、普通の大型犬よりも大きいことに驚いて話しかけてくれるひと、あまり見ないウルフドッグに興奮してワンくんをよく見てみたいというひとや、他にもたくさん居た。と、とにかくワンくんを怖がる人は全然居なくてほっとした。
普段あまり人の多いところに行かないワンくんは、慣れない人だかりを体験して、広場で遊び回る前から少し疲れてしまったみたい。わ、わたしもちょっと疲れちゃったかも。
というわけで、ドッグランに来てそんなに時間は経ってないけど、広場の隅に備え付けられた木製のガーデンベンチに座って休憩をとることにした。
「ワンくん、お水飲む?」
わたしの足元にうずくまって動かないワンくんはやっぱり疲れているのか、ゆっくりと頷いた。そ、そりゃあ、あれだけ囲まれればそうなるよね。道行く人に握手を求められる芸能人みたいになってたんだし…。
持ってきた容器にお水を入れてワンくんの方に差し出してから、わたしも伸びをして休憩後に遊び回るための体力を注入した。改めて広場を見渡してみると、ほんとうに色んなワンちゃんが居るんだなあ。気さくでお話ししやすいひともたくさん居るし、千夏さんの言ってた通り、ワンちゃんを飼っているひととのご縁も見つかるかもしれない。なにより…。お水を少しずつ飲んでいるワンくんをちらっとみて、それを期待した。
ワンくんにも、新しいお友だち、出来ると良いなぁ。
身体のおっきなワンくんが身体の小さいチワワや、てとてと歩き方の可愛いミニチュア・ダックスフンド、くりっとしたお目目のコーギー、ふわふわもこもこのポメラニアンと戯れている姿を想像して一人で癒されていると、わたしの隣に誰かがすっと座ってきた。は、はう?
わたしの隣に座った人物は、おっきなピアスをたくさんつけた、ちょっと、こわい、いや、…ふ、普段あんまり関わらないタイプのお兄さんだあああ。う、うわあちょ、ちょっとどころか結構こわいいい。
え、ど、どうしてこっちに来たの? 他にも空いてるところいっぱいあるよ? い、いや、そ、そりゃあどこに座ろうがその人の勝手でわたしが口出しすることじゃなくて、でも、ええええ。み、耳どうなってるの? 痛くないの? 耳たぶすっごくおっきな穴開いてるんじゃないのかなそれ!?
いや、人を見た目で判断しちゃだめだ。ワンくんは水を飲むのを止めて、隣に座っているお兄さんをじっと観察していた。
お兄さんは何も話さずにただ黙って飼い主さんたちとワンちゃんが遊び回る目の前の広場に目線を向けていた。…あ、あいさつぐらいしておこう。なけなしの勇気を振り絞って、軽いあいさつの一言を言いだそうとした瞬間、意外にも先に切り出したのは、お兄さんのほうだった。
「それ、狼犬?」
「…こ、こんにちっ……はう?」
「…せやから、そいつ、狼犬かって聞いとんやけど」
「は……はいっ! そ、そうです!! ウルフドッグです」
いつの間にか広場から目線を外していたお兄さんは、警戒してお兄さんの様子をうかがっているワンくんの姿を眺めていた。お兄さんはそんなワンくんから目線を外すことなく、しばらく見つめあったかと思うと、お兄さんは少し筋肉質な腕を伸ばしてワンくんの頭をわしゃわしゃと撫でた。…えっ!? ワンくんが大人しく撫でられてる! えっ!! わたしがそのことに驚いている間もワンくんは目をつむって抵抗せずに頭を撫でられていた。ど、どうしたんだろう、知らないひとはともかく、お父さんやセシルさん、千夏さんにすら触られるのは嫌がるのに。
す、すごい。これはハンドパワーかなにか!? あの手からマイナスイオン的な何かが発生してるのかな!? とワンくんを撫でるお兄さんの大きな手をまじまじと観察していると、お兄さんはそのまま話しだした。
「じゃあ、親父が言ってたのはコイツのことか」
「…? 親父?」
「明石屋のうっさいおっさん知っとるやろ。俺、あそこの息子」
「え、あ、明石屋のおじさんの、息子さん!?」
…あ、だから関西弁なんだ! そっか、明石屋のおじさんの息子さんなんだ。だから私達のこと知ってたんだ。さっき狼犬か尋ねてきたってことは色々おじさんからわたし達のお話聞いてたのかな。
「明石屋さんにはいつもお世話になってます。白附真綾です。えっと」
「よう知っとる」
「へ?」
「ちっこい癖に、でっかいこいつの面倒見て、いっつも頑張っとる子がおるって、しつこいぐらい聞かされとる」
「は、はう。…あの、お名前うかがってもいいですか?」
そして、ようやくこっちを向いてくれたおかげで、おじさんの息子さんのお顔を、ええと、はいけんすることが出来た。ワンくんほど目つきは鋭くないけど、ちょっと切れ長の目に、眉毛は薄く剃られていて、この例え方はあんまりよろしくないかもしれないけど、ちょっと不良っぽい感じがした。何よりも印象的なのは、やっぱりその耳を飾っているおっきなピアス。もう少しで耳たぶのところがちぎれちゃうんじゃないかってぐらい丸く大きなピアスに、他にも全体的にいっぱいピアスが耳を飾り立てていた。す、すごいなあ。あんなにたくさん耳に穴を開けるのって痛くないのかな。
「明石屋葵。よろしく」
「あおいさん? こちらこそ、よろしくお願いします!」
「俺、ちゃん付けとか苦手なんやけど、真綾って呼んでもええ?」
「はい!」
さっきからあんまり表情を変えないところがちょっと凛さんと似てるなあと思った。見た目はちょっと怖くて、最初はちゃんとお話し出来るか不安だったけど大丈夫そう。わたしはせっかく結びついたご縁なので、葵さんに色々お話ししてみることにした。
「葵さんはおいくつなんですか?」
「十七。高2」
「はう!!? こ、高校生!?」
「なんやねんその反応」
「あっ、ご、ごめんなさい! 大人っぽいから、てっきり大学生かなと思って…」
「真綾は小学……」
「……」
「…小学生?」
「四年生です」




