見えない未来
家に帰ったら、伯父さんがくれた紙袋の中身を出した。
タッパーにはハンバーグが入っていた。他のタッパーにご飯、サラダもそれぞれ入っていた。
「ランチの残りだって」
お母さんはダイニングテーブルに並んだタッパーをじっと見た。
「最近よくお店に行くね」
「ああ、ちょっとね」
進路の事で伯父さんと少し揉めた、何て言えない。
そのまま温めて、タッパーのまま食べたいところだったけど、ハンバーグが超おいしそうだったので、お母さんがお皿に盛り付けた。
そして、お母さんと向かい合って「いただきます」と食べ始めた。
ハンバーグは豆腐ハンバーグで、照り焼き風だった。大根おろしが入っているせいか、さっぱりしていて、後味に醤油の香ばしさが後を引く。それで、ハンバーグ自体がそんなに大きくなかったせいか、珍しく、お母さんはハンバーグを完食した。
「今日は調子いいね」
「うん……最近はちゃんと眠れてるし」
「そっか……良かった」
お母さんの表情が、ここ数日で明るくなってきたような気がした。
今、進路の事を話して、高校へは行かないなんて言ったら……多分またおかしくなっちゃいそうだから、タイミングをみて話そう。そうだ、トシさんなら、お母さんを説得してくれるかな? でも今日バスの中で、やっぱり高校へ行った方がいいって言ってたし……。ま、よく分かんない人だ。トシさんの事を思い出していたら無意識に、フッと笑った。
「どうしたの? 急に」
「別に……」
「何か面白いことあった?」
「ない!」
思わず即答したら、お母さんはちょっと寂しい顔をしたので、私は慌てて話題を変えようとした。
「あっ、おばあちゃんが死んじゃったのって、私が1年生の頃だったよね?」
「何、急に」
し、しまった……誰かが死んだ時の話って、しちゃまずかったかな。
「そうそう、明日香が小学校に入ってすぐだったね。おじいちゃんの三回忌が終わった頃だったっけ……」
考えすぎだったか、別に普通に答えてくれた。
お父さん方のおじいちゃんは、私が生まれてすぐに、おばあちゃんはお父さんが高校生の頃に死んじゃったみたいだ。だからうちの仏壇には、おじいちゃんとおばあちゃんもいる。写真でしか知らないけど、もし生きてたらどんな話をしたんだろ。
「どうしてそんな事聞くの?」
「最近ね、伯父さんの店で知り合ったおばあさんと話してたらね、何となく? うちのおばあちゃんの事思い出して」
救命救急センターで知り合ったおばあさんとは言えなかった。やっぱりあの夜の事を思い出させちゃいけないような気がしたから。
「ああ、明日香が成人するまで絶対元気でいるって張り切ってたのにね」
「そうだっけ?」
「時間が過ぎるのは早いものね。明日香、来年は高校生だもんね」
ドキッとした。
「あっ、食後にアイス食べる?」
そうだ、話題を逸らそう。でも、アイスなんてなかったよね? 食べたいって言ったら「ああ、なかったっけ」とか言って買いにいけばいいか……。
「もう少し勉強頑張んないとね」
話を逸らすの失敗!
「まぁね、お母さんもあんまり勉強は出来なかったけどね」
「私よりいいでしょ? お母さんは短大まで行ってるし」
「そんなにいいとこじゃないわよ。付属だったしね。それに、就職するのにせめて短大くらいはって、昔はそんな感じだったのよ」
「就職って? どんなとこで働いてたの?」
「文房具を扱う会社でOLやってたの。5年で寿退社」
「へぇ、OLからの寿退社か……」
「でも、まさかこの年で未亡人になっちゃうなんてね」
ヤバい! また泣き出しそうなパターンになりそうだ! でも、お母さんは食器を流しに運び、洗い物を始めた。
「私がやるよ」
「大丈夫、明日香はアイスでも食べててよ」
「うん……」
お母さんの痩せた後ろ姿を見る。このまま前みたいに元気な姿になってほしいな。きっとお父さんもそう思ってるにきまってる。だって二人は、すごく仲良しだったもんね。
そうだ、お父さんとお母さんは友達の紹介で知り合って結婚したって聞いた事がある。結婚して半年後に私が生まれてるから、ひょっとしてデキ婚?って聞いたら、二人とも真っ赤な顔して否定してたよね。
お母さんみたいに、どこかの学校を卒業して就職して……誰かを好きになって結婚? 私って誰かを好きになれるのかな? そもそも好きになってもらえるのかな? ああ私の未来ってどうなるんだろ。今は明日の事すら考えられないのに。お母さんに聞こえないように小さく溜息をついた。




