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白石は都会の病院の一室で、パソコンの画面をじっと見つめていた。
彼女は遠隔で連絡を取り合う小宮に、陽子の症例について報告を始める。
「小宮先生、島の診療所から新しい症例が入りました。性交渉歴のない女性の妊娠と流産です。流産した胎児は“奇跡の子”の可能性があります」
電話の向こうで、小宮はすぐに反応した。
「了解しました。今、我々のもとに集まっているデータと照合してみます」
小宮は資料を開き、慎重に言葉を選びながら説明を続けた。
「島の中で何らかの遺伝的変異が起きている可能性があります。これまでに確認された奇跡の子は十数例あり、特徴的なのは母親のSRY遺伝子の転座があることと、通常の生殖過程では説明できない自然妊娠の報告が相次いでいる点です」
「さらに、結婚している男女の間でも、性交渉があってもなお単為生殖によって子どもが生まれている可能性が示唆されています。これは出生の男女比率にも影響を及ぼしているかもしれません」
「男児の一部には特定の遺伝子異常が見られ、早老症に似た症状が現れるケースも報告されています。健太の場合もその可能性を否定できず、特に注意深い観察が必要です」
白石は言葉を飲み込み、しばらく黙り込んだ。胸の奥で冷たい衝撃が走った。
「健太も……まさか」
彼女の手が震えた。医師として、母としての責任と不安が交錯し、心が揺れ動く。
「彼の未来はどうなるのか。何とかして守らなければ——」そう強く思いながらも、どう動けばいいのかが分からず、深い戸惑いに襲われた。
小宮は沈黙を破り、低く語った。
「この問題は単なる医学的な課題を超えています。国家プロジェクトとして動いている以上、慎重かつ迅速に対応しなければなりません」
二人は重苦しい空気の中、これからの調査と対策を静かに見据えた。




