表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

シリウスside

思ったよりシリウスsideが難産で時間がかかってしまいました。

これなら両方書き終わってからupすれば良かったかもと反省しております

彼女と初めて出会ったのは国にウィルス性の流行り病が蔓延していた時だった。

他の地区に比べて極端に病人の発症が少ない王都近隣の伯爵領へ視察に行った際に病院というよりは診療所と言った方が良い小さな施設での事。

その施設で目に付いたのは、医師、看護師が装着している見たことのない手袋だった。しかしこの手袋だけでそんなに効果があるものだろうかと疑問に思っていると、元々この街では衛生管理が行き届いていたという医師からの話を聞き、そのきっかけであり手袋の制作者でもある魔道具士の家を訪ねると、何故かその家の主と共に当時13歳の少女がやって来た。

彼、現在のモデレイト男爵が彼女を伴ったのは実は手袋の発案者が彼女だからのみならず、その衛生管理についての発案者も彼女だったからなのだけど、ステラと呼ばれたその少女は突然訪問した私たちとも屈託なく話し、私が誰であるか気づいている周囲の大人たちをはらはらさせていた。

何しろ、手袋の詳細を聞こうとする私たちに制作者としての権利を主張しだしたのだから。

後に王立学園で手袋男爵令嬢などと揶揄されたりもしたようだが、男爵家の功績は手袋だけでなく、マスクや手洗い・うがいなど衛生管理についての情報提供も含まれているのを知っているのは国でも上層部の人間だけだ。

それは何故かと言うと、ステラは希人まれびとの可能性があると私が判断したからだ。希人こそ王家と宰相クラスの高位貴族しかその存在を知らない為、はっきりするまでは悪目立ちさせたくなかったのだ。

希人まれびととは、こことは別の世界の記憶を持つものの事なのだが、公にしてないのは、本当にそうかどうかを我々に確認する術がなく詐欺師が山ほど現れる危険があるからだ。


まあそんな訳で、流行り病が収束しモデレイト家が叙爵されて以降、彼女には密かに護衛兼監視をつけていた。王立学園へ入学した際は同級生から役に立ちそうな人物を密かに監視役にして学生しか見えない部分もフォローさせたところ、庶民上がりという事で侮った貴族令息から不埒な真似をされそうな危機もあったという。もちろんそんな不埒な学生は即刻謹慎処分を学園に指示したが就学が貴族の義務でなければ退学にしたかった位だ。

学園内にも影から護衛はさせていたが、表立ってフォロー出来る人物も必要だと思い、没落しかかった伯爵家の令息に白羽の矢を立てた。カストル・アニマンドという名前の彼を指名したのにはいくつか理由があったのだが、まずは彼女に無用な興味や好意を持たない事。その点彼には想い人がいた。幼なじみでもある侯爵令嬢に一筋で彼女を妻に迎える為に伯爵家を建て直したいという野望があり、私からの密命を受けることで私の側近の座を狙いたいという明確な目的があった。

そして彼の暗躍があったのか偶然かは不明だが、彼の想い人、フーガ侯爵令嬢がステラとかなり親しくなった事で一層彼女の情報を得やすくなっていった。

カストルにかなり細かく彼女の学園での様子を報告させたところ、やはり彼女の意見は斬新で面白かったし、周囲の意見に流されない確固たる信念が見て取れて非常に興味をそそられた。

毎年学園の卒業式には王族の代表として参列するのだが、その際に見かける彼女はどんどん魅力的に成長してきてちょかいをかける男子学生が多いのも頷けた。だが彼女自身は他の貴族令嬢たちの様に結婚相手を探すつもりはないようで、仕事を探していたらしい。

そうこうするうちに、彼女が親しくなったフーガ侯爵令嬢に侍女の職を世話してもらおうとしている事を知りこれ幸いと王城の、それも私付きの侍女として召し上げる事にしたのだ。まあ、それにはカストルとフーガ侯爵令嬢との密約もあったわけだが。

カストルが私の側近になれば、侯爵家も彼らの婚姻に反対はしないだろうし私も口添えする約束をした。一方、ステラが私の妃になった場合に侯爵令嬢が彼女の心強い味方になってくれるだろうからお互いに利がある。


そうして無事に私の専属侍女に迎え、少しずつ距離を縮めて行く計画だったのだが彼女はどうやらこの仕事に不満があるらしい。

専属侍女とは言っても顔を合わせられるのは起床後と就寝前のほんの少しの時間で、執務が立て込んだ時など寝酒の準備がされた部屋に彼女の姿はなく呼び出す理由に頭をひねる日々だ。

しかし少しでも顔を見ようとベルで呼ぶとかなり気を付けて隠してはいるものの機嫌の悪さが見て取れて親密度を上げるどころか下がっていっている気がする。

そして寝酒やら夜食やらを頼むのを口実にしていたら、どんどん部屋に用意されるものが増えて来るにあたって覚悟を決めた。

今日はステラに話を聞こうと決めて部屋に戻ると丁度廊下でステラが護衛の騎士と話しているところだった。あの騎士は確かレオニス・モルデントだったか。ちょっと距離が近いんじゃないのか。まさか特別な仲だったりしないだろうな。聞けそうならその辺も後で聞こうと決めてステラを部屋に呼ぶ。

「ああステラ、ちょっといいかな」

ワインでも飲みながら話が出来ればと思ったけれど、どうやら今日も飲み物は部屋に準備万端の様なので用向きは言わずに部屋に呼びつける事にした。

侍従には外すように目線で指示を出し、彼女にはソファを勧め、彼女の好きな白ワインを2つのグラスに注ぐ。

白ワインこそ彼女が希人であると確信するきっかけだった。

護衛として近くにつけた影が報告して来た彼女の独り言。

「どうせワイン飲むなら白が飲みたかったなぁ。白っぽい葡萄ってそう言えば見かけないからダメか。普通の葡萄でも皮剥いたら良いんだっけ?まあ、この年でお酒飲めるだけありがたいのかな」

これをきっかけに領地の葡萄から白ワインを試作させたんだけど、皮を剥く手間のせいでかなりな高級品になってしまい中々彼女の口に入る事はないだろうからきっと飲んでくれるだろう。

そしてその言葉には、彼女が17歳ではお酒を飲むことが禁じられている所に居た記憶があるという証左に他ならなかった。

白ワインは魅力的だったと見えてステラの顔が部屋に入ってきた時より緩んだ気がする。今がチャンスだと直截に切り出すことにした。

「私の侍女の仕事に不満がありそうだよね。この際だからどういう所が不満なのか聞いてもいいかな」

「あの、そういうのって侍女長様が聞かれるものではないのでしょうか?」

「だって、私の専属の侍女なんだから不満は直接聞いた方が早いよね?ああ、もちろん不敬罪に問うような事はしないから正直に話して。この際敬語もなしでいいから」

彼女に関する事を侍女長任せになんてする訳がないのに、少しでも彼女と話したい私の気持ちに気づいて欲しいと思い表情も意識して笑顔を作る。

そこで彼女も腹を括ったのかワインを一口煽るとキッとこちらを見上げて話し始める。

「決して殿下個人に不満がある訳ではありません。ただ専属侍女の長時間労働に不満があるだけです。勤め始めてから今までにお休みだって殿下が視察で出かけている間の2日間だけです!」

「なるほど、言われてみればその通りだね」

彼女を手元に置いておきたいと思うあまりお休みが必要だというのを失念していた。確かに他の侍女たちは交代で顔を見ない日もあるからきっとお休みしているんだろう。

「護衛騎士の方々は3交代制だとおっしゃっていました。専属侍女も3人くらいのローテ、あ、いえ、交代制にして頂けないでしょうか」

いいかけた、ローテという言葉は交代という意味なんだろうか。確かに侍女ならお休みは必要なんだろうが、王族である自分には決まったお休みなどない事を思うと、ステラに会えない日が出来るのは今一つ納得がいかない。

「ねえステラ、侍女が不満なら愛妾なんてどう?王子妃の方が私としては嬉しいんだけど、それでもいいのかな?」

少し早いかと思ったけどこの際だから一気に彼女の囲い込みに舵を切ると、大きな瞳とかわいい口をぽかんと開いてこちらを見つめているのがなんとも可愛らしい。

「成り上がりの男爵令嬢がそんなものになれるわけがないと思いますが」

ようやく立ち直ったらしい彼女からそんな言葉が出るけれど、実は希人の彼女の場合身分はまったく問題にはならない。ただ、希人であることは秘匿する必要があるから王弟でもあるピアチェーレ公の養女にする予定だ。

彼女の座るソファーへ移動し私の方を向くように肩をひく。

「問題にしてるのは家柄だけ?だったらそろそろ本腰入れて口説いてもいいのかな?」

そう聞きながら瞳を覗き込む。

「何をなさるんですか、殿下!」

「まずはその呼び方を直さないとね。私の名前覚えてる?」

「勿論です」

「じゃあ呼んで?」

彼女の唇から自分の名前が紡がれるのを期待して思わず顔が緩むのがわかる。

「シリウス王子殿下、一体どうされたんでしょうか?」

確かに名前は呼んでくれたけど、それは期待したものとは全然違って、無表情に叱責して欲しいなんて言ってないんだけど。そんな顔されるほど嫌がられてるのか?まさか誰か好きな男がいるのか?影からはそんな報告は一度もなかったはずだが。

「ひょっとして先ほど話しかけてた騎士、確かレオニス・モルデントと言ったかな、彼の事が気になってたりするの?付き合ってたりはしないよね?」

「まったくそのような事はございません」

相変わらずの敬語にいら立ちを覚えてそのまま彼女を押し倒すように圧し掛かる。

「そう言えばステラはよく近衛騎士に話しかけてるような気がするね。騎士たちにも迂闊に君に近寄らないように言っておかないといけないかな」

彼女の髪をひとふさ掬い上げて口づけを落とすと、青ざめた顔で言葉もない。しまった少しやり過ぎたか。

「あまり脅かし過ぎて嫌われては困るから今日はここで許してあげるけど、私が言った事をちゃんと考えて。本当は妃にしたいんだけど、お休みがないのが不満だと王族は不利なんだよね。そこが譲れないなら愛妾って方法もあるから」

まあ愛妾といいつつ正妃を迎えなければ結局妃と変わらないけどね。王位は兄が継ぐのだから特に問題はないし、叔父であるピアチェーレ公の様に臣下に下れば妃と呼ばれる事もない。流石に兄上に跡取りが出来るまでは臣籍降下は無理だろうが。

ステラの手を取り体を起こしてあげると、なんだかとても思いつめた顔をしているのに気づいた。

これは一応釘を刺しておいた方がいいかもしれないね。

「王城からこそこそ逃げ出すのは間者か、泥棒か暗殺者くらいだからね。誤解を受けるような行動は慎んだ方がいいよ。王城に勤務するからには身元もはっきりしてるから家族に心配をかけることにもなるし」

もちろん影がついているから逃げ出すのなんて当然無理なんだけど、流石にこれはまだ当分は教えられないよね。

そう言えばもう1つ言っておくことがあったっけ。

「ああそれと、ステラが私との結婚を了承してくれたらピアチェーレ公爵が後ろ盾になってくださるから何も心配はいらないよ」


まず明日、私の宮に彼女の部屋の準備をするように言っておくか。

さて、ステラは妃と愛妾どちらを選ぶのか、楽しみだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 彼女にとっては、仕事を増やすだけのバカボンにしか見えなかったのが王子の敗因でしょうか。 パワハラ、セクハラ、モラハラ上司と認識されている以上、イケメン効果も薄いだろうし。 現状「ストーカーに…
[良い点]  シリウス視点だとステラに色々なものを費やしていますが、ステラ視点だと全く解りませんでした。そしてシリウスsideを読んで疑問が解決してもステラsideを読んだ感情があるから、シリウスのや…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ