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04_第4話

午前の授業が滞りなく終わり、お昼の時間を迎える。

なんとなく浮つきだすような、にわかに騒がしくなる周囲の中、蒼矢は席に座ったまま通学バッグからコンビニの袋と文庫本を引っ張り出し、パンとおにぎりを机に転がす。そのまま本を開き、おにぎりを片手に読書にいそしみ始めた。

同時に、教室外に他クラス・他学年生徒の人だかりが出来始める。お昼休みということでフリーで動き回れるようになり、昨日の式で会場を席巻した蒼矢を見に来ているのだ。もちろんクラス内にも同じような視線があり、彼を昼食に誘おうとする動きを見せた同級生も何人かいたが、声を掛ける前に当人がひとりご飯を始めてしまったのでタイミングを逸し、遠巻きに様子を窺うまでにとどまっていた。湧き立っているのはおおむね内部生だけではあるが、なにしろ在校生の九割近くに上るため、今いる周囲のほとんどが蒼矢に注目していると言ってもいい状況だった。

当然中には蒼矢の容姿目当てに、小声で何事かを話しながら値踏みするように眺めている輩も数多くいた。

そんな彼らを気にとめる風もなく、蒼矢はただ本へと目を落とし、相性の悪い牛乳でおにぎりを喉の奥へ流し込んでいた。

――そんな中、一人の生徒が廊下で停滞している人波をかき分けるようにまっすぐ当該教室へ向かい、躊躇なく室内へ入っていく。その生徒の容姿に、更に教室内外がざわめいた。

「よう」

「…! 影斗先輩」

意識を本に集中させていた蒼矢は、自分の目の前に人影が出来て初めて気がつき、顔をあげて影斗がいつの間にか至近距離に立っていたことに驚く。

やや動揺している蒼矢を尻目に、影斗は眉を寄せて彼のパンを手に取った。

「…お前、シケた飯食ってんな~… ちょっと来い」

「っ、えっ」

そう言うと、影斗は蒼矢の腕を引っ張り上げ、戸惑う彼を引きずるように教室外へ連れ出した。

二人の様子を見ていた周囲の生徒達はその急展開に蒼矢と同じく動揺し、ドアを開けて出てきた二人に譲るように道を造っていく。

「ちょ、先輩…何…」

「まぁ任せとけって、いいトコ連れてってやるから」

二人の姿はあっという間にフロアから消える。

残されたギャラリーは目的を失い、変な空気に包まれていた。

「…今の…宮島さん、だよな?」

「…うん。 …あの人、男もイケたの?」

「…わかんないけど…そうだとしたら勝ち目なくね? 顔面完敗してるじゃん…」

「だな。…マジかよ~」



影斗は蒼矢を連れ、一学年の教室棟から外に出る。しばらく歩いて行き着いた先は、学校敷地内の片隅にある温室だった。

温室内には作付けを待つ野菜の苗が並べられ、それらを横目に中を進み、コーナーに据え付けられた木製のテーブル一式に蒼矢を座らせた。

「ここ、俺のお気に入りの場所。今の時期が一番最高だな、適当に温かいし、空気も良いし。冬はそこのプレハブ小屋ん中にストーブ置いてあるから、そっちで食ってる。夏はパソ室。あとはまぁ…化学準備室とか」

影斗は手に持っていた蒼矢のお昼ご飯であるパンを投げて寄越す。受け取った蒼矢は、かろうじて持ってきていた紙パックの牛乳をテーブルに置き、小さく溜め息をついた。

「いいだろ、ここ。絶対飯も美味く感じるから」

「…そうですね。でも、あまりに急過ぎて、ついていけません」

頬杖をついて笑いかけてくる影斗に、蒼矢は少しむっとした表情で見返した。

影斗は、諦めてパンをかじりだす蒼矢を改めて観察し始める。

相変わらず、容姿のどこを取っても今までに見ないレベルで美麗なのだが、初対面の時から伝わってくる野暮ったい雰囲気はやはり変わらなかった。制服はきっちり着ているが、用意されたものをそのまま"着させられている"感が強く、髪も代表挨拶という大役を任されたにもかかわらず切り揃えた形跡が無い。そして影斗が何よりも目ざわりに思ったのが、端正な顔に乗っかっている大きな眼鏡だ。何故このビジュアルを持ってして、コンタクトにしないのか。

自分の容姿に絶大な自信を持つ影斗は、蒼矢のこの(なり)に理解が出来なかった。

結論付けるとしたら…おそらく影斗とは、考え方が根本的に違うのだ。

真顔で牛乳を飲んでいる蒼矢に声をかける。

「…蒼矢さぁ、俺昨日お前に興味湧いたって言ったじゃん? あれ、お前の顔への興味って意味だったらどう? 嫌なの?」

唐突な影斗の質問に、蒼矢は少し目を見開いて…視線をテーブルに落とした。

「…嫌です」

「…うん、OKOKわかった」

その重い表情に、影斗はぱっと笑ってみせる。それきり少し二人の間に沈黙が流れ、蒼矢はうつむいたまま牛乳を口に運ぶ。

影斗はその均整の取れた横顔を見つめ、ぼそりと口を開いた。

「…背ぇ伸ばしたいのか?」

「……」

蒼矢は影斗を横目で見…頬を少し赤らめて、小さく頷いた。

「…そっか」

影斗の中で彼なりに合点がいく。そしてそのまま黙って、柔らかな視線で蒼矢を見守った。


あと数分で予鈴が鳴るというところで影斗は席を立つ。

「そろそろ行くかー」

続いて席を立ちあがった蒼矢の背中に手を置き、温室入口へと促した。外へ出ると、影斗は一旦足を止めた。蒼矢が軽く振り返る。

「…あのさ蒼矢、さっきの意味、本当だから」

「? さっきのって…」

「"お前の顔に興味湧いた"ってこと」

「っ!」

「だってお前綺麗なんだもん。それは俺にとっちゃ変えられねぇよ。…お前は嫌だろうけど、隠しておきたくねぇからさ、正直に伝えとくわ」

「……」

そんな唐突な影斗の"告白"に、戸惑った様子を見せていた蒼矢は見る間に表情を曇らせ、徐々に顔が下がっていく。

しかし、影斗は構わず続けた。

拒絶されるかもしれない。でも…関係を続けていきたいなら、今言っとかなきゃ駄目だ。

影斗は昨日蒼矢が見せた、あの真っ直ぐな視線に賭けていた。

口調に軽さを残しつつもふざけた調子を出さないよう、率直な思いを伝えた。

「…お前のこともっと知りたいと思ってる。外見だけじゃなくてさ。最初はそりゃ見た目から入ったけど、今は中身の方がすげぇ興味あるよ」

そう続ける影斗の言葉に、蒼矢の顔が少し上を向き、上目遣いに影斗を見上げた。

その表情に、影斗は少し安心したように息をつく。

「…それを踏まえて、また会って話してもいいか?」

「……はい」

見上げていた蒼矢は視線を落とし、返答しかねるように沈黙した後…小さく頷いた。

影斗は満足そうにニッと笑う。

「明日もここな。迎えに行くから」

「!? いっ、いいです…!」

「良いの?」

「っ遠慮します!! ひとりで来れますから…!」 

「冗談だよ。了解!」

*裏話*

蒼矢は全くと言っていいほど食に興味がありません。

腹がある程度満たされればそれでいいと思っています。

が、自分が美味しいと感じるものには素直に嬉しさを顔に出しますし、よく箸が進みます。

とりあえず手作りであれば概ね喜びます。

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