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19_第19話

三日後、久し振りに自宅へ帰って大人しく謹慎していた影斗は、クラス担任の教諭から連絡を受けて登校することになった。

次に学校へ行く時はおそらく退学を言い渡される時だろうと思っていた影斗は、予想外の早い呼び出しに半信半疑になりながらも学校へ向かう。

生徒指導室へ入ると、担任と三年の学年主任、そしてこの間事情聴取を受けた猿渡という豪華メンバーで、影斗を待ち受けていた。

「処分決まったんすかぁ?」

促されて座った影斗は軽いトーンで猿渡へ話しかけるが、猿渡は不機嫌そうにじろっと睨み返す。

「…黙ってろ!」

「へーい」

よく見ると、室内に集まった教諭陣はいずれもどこか浮かない顔をしている。ふざけられない雰囲気を感じ、影斗は言われた通り黙って、少し肩をすくめた。

猿渡はこめかみに手を当て、深く息を吐き出しながら口を開いた。

「――宮島、お前の処分だが…一週間の停学だ。今日までの自宅待機の日数を合わせて、来週の火曜まで。いいな?」

「……え?」

「なんだ、不満か?」

「あ、いや…」

言い渡された処分にぽかんとなっている影斗に、猿渡はじろりと視線を向ける。

「この件の別の当事者(・・・・・)から言質が取れた。…それを踏まえた上での今回の処分だ。理由はどうあれ、他校生との暴力沙汰は捨て置けんからな」

猿渡が話す後方で、一年の学年主任が指導室へ入室してくる。

その挙動を視線で追い、何かを察したように目を見開いてこちらへ視線を戻す影斗に、猿渡は溜め息をついた。

「…休んでた髙城が昨日、大体の事情を話した。全くお前は…R高(相手方)に再確認する羽目になったわ、手間を掛けさせて…!」

二の句が継げず、視線を下げて沈黙してしまった影斗を、一年の学年主任はどこか冷たい表情で見下ろしていた。

「…髙城を庇ってたみたいだな。…お前は退学するつもりだっただろうし、我々もそれを望んでいたが、当てが外れたな」

「……」

「…今回の件は、彼にも咎がある…髙城は、昨日付で風紀委員を解任した。が…元を正せば、この処分はお前に起因するということを忘れないように。…何にしても、彼に感謝するんだな」

そう言い捨てると、一年の学年主任は先に退室していく。

うつむいたままの影斗を窺いつつ、猿渡は残った教諭達にアイコンタクトした。

「…以上だ、今日は帰って良し。引き続き粛々と謹慎しているようにな。課題も出すからやれよ、ちゃんと!」



登校することを鹿野に伝えていたので、影斗は帰りがけに化学準備室へ寄った。

扉を開けると、鹿野が入口で立って待っていた。

「やぁ、お疲れ様。どうだった?」

「来週まで停学ー」

「あら、良かったじゃない。…彼も喜ぶと思うよ」

そう言うと、鹿野は視線を室内へと向ける。それに導かれるように影斗も室内奥を見ると、窓際に眼鏡をかけた小柄な生徒が座っていた。影斗と視線が合うとすっと立ち上がり、ぺこりとお辞儀をする。

「…蒼矢」

「じゃ、僕は一旦出るね。…ごゆっくり」

そう言うと鹿野は影斗の肩に手を置き、準備室から出ていった。


鹿野が出ていき二人きりになった空間に、沈黙だけが流れる。

いつものように何か軽く言葉を発したいのだが、影斗は言い淀んでしまっていた。

蒼矢はそんな彼を同じく黙って見つめていたが、やがて口を開く。

「…せんぱ…」

「!!」

が、その呼び掛けを聞いた瞬間、影斗はそれを遮るように手のひらを蒼矢へ向けた。

…今度こそ、蒼矢からしゃべらせちゃいけねぇ…!

「…っ…、頭、大丈夫か」

「! あ、はい…病院で検査を受けましたが、初見では何も。今診断待ちです」

「…痛むのか?」

「…少し」

「そっか…」

変わらず静かに見つめてくる蒼矢にようやく影斗は視線を合わせ、頭を下げた。

「…ごめん。頭のことも、連中に絡まれちまったことも…全部俺のせいだ」

「……」

「…風紀委員辞めさせられたことも、さっき聞いた。…本当にごめん」

いつもの軽い調子は鳴りをひそめ、抑え気味のトーンになっている影斗の言葉を受け止めてから、蒼矢は少し息をついた。

「…いいんです、それは。風紀委員は、元々先生方の薦めで頂いたお役だったし…自分で納得して就いたものではなかったので」

「いやでも、お前の経歴に傷がついちまったっていうか…怪我だって、俺といなきゃそんなもんしなくて良かったじゃ…」

「…先輩、俺があなたから聞きたいのは、そういう言葉じゃないんですが」

慌てた風に並べたてる影斗をぴしゃりと制し、蒼矢はうって変わってじとっと彼を見る。

「先輩が先生方に言われて俺に会えなくなったこと、何で話してくれなかったんですか?」

「…!」

驚いた風に目を見開く影斗に、蒼矢は淡々と続けた。

「一昨日登校した時、鹿野先生が声をかけて下さって…そこで理由を初めて知りました」

「……」

「確かに先輩と知り合ってなかったら、あの日…あんな風に巻き込まれてなかったかもしれません。けど、そもそもああいう所へ制服のまま行くことはモラルに反しますし、暗くなる前にさっさと帰るべきだったんです。…俺の不注意以外のなにものでもありません」

「…お前…」

「…少しずつ理解していたんです。ああいう繁華街で遊ぶ先輩と自分とでは、だいぶ趣向に差があるって。だから、どこかで線引きしないといけないなと思っていました。…でも、それを伝える前に先輩は離れていってしまった」

真っ直ぐ見据えてくる蒼矢に、影斗は黙ったまま息を飲んだ。

「…こう見えて結構怒ってるんですよ? 先輩は気を遣って下さったのかもしれませんが、大事なことを隠してまでそんな風に扱われたくありません」

蒼矢は、影斗へゆっくりと近付いていく。

「俺、大変傷つきました。…頭よりも、ここ(・・)が」

そしてそう言いながら、蒼矢は自分の胸に手を当て、その仕草を黙ったまま眺めている影斗へ向けて上目遣いに見つめると、やや悪戯気に微笑(わら)った。

「…どう責任取ってくれるんですか? 影斗先輩」

…こんなん、どこをどうやったら惚れずにいられんの?

*裏話*

影斗の前では割と平然としている蒼矢ですが、裏では父親に結構怒られていました。

が、息子の意外過ぎる行動に蒼矢父も心配になり、これを機にスマホを持たせています。

以降は常に某A社製の最新式を買い与えるようになります(厳しいのか甘いのか…)

余談の余談ですが、烈が携帯を持つようになるのは社会人になってからです。

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