14_第14話
その日影斗は、化学準備室で昼食をとった後、夕方までネカフェで漫画やネトゲで時間をつぶし、頃合いを見て泊まる友人宅へ向かっていた。
最寄りのよく行くコンビニへバイクを停め、店内へ入りかけたところで、見覚えのある色の薄い猫毛頭が車停めに座り、こちらを見上げているのに気付いた。
「…烈!」
「よー」
影斗の目線がこちらに向くと烈は立ち上がり、ニッと笑ってみせる。
「おー、しばらく振り! すげぇな、またココでかよ」
「…ココで待ってれば会えっかなと思ってさ。待たせてもらった!」
「は? 今日は偶然じゃねぇの?」
「うん、偶然じゃねぇよ」
呆けた顔をする影斗に、烈は笑顔を見せつつも、真剣な視線を向けていた。
「エイト、ちょっと話さねぇか?」
二人はそのままコンビニの駐車場隅へ移動する。
影斗が買ってあげた紙カップコーヒーを烈へ手渡すと、二人並んで縁石に腰かけた。
「…蒼矢のことなんだけど」
どこか神妙な様子で烈からコンタクトを取ってくるということは、おそらく蒼矢のことだろうと察しがついていたので、影斗は黙って烈の話を聞いてやる。
「学校で仲良くしてくれてるらしいじゃん? まぁそれは、蒼矢ん家で見たからわかってるけど…でもここんところ急に、学校で顔合わせなくなったって」
「…ふーん」
「思い当たることねぇのかって聞いたら"わかんない"って言ってて、理由聞いてみればって言ったら"会えないから聞けない"って言ってた」
「……」
「…影斗からズラしてんの?」
「さー」
影斗の顔を覗き込みながら問いかけるが、視線をそっぽへ向けたまま適当に返され、烈は手元へ視線を落とす。
「…二人の間のことだってんなら、俺はもう何も聞かねぇけどさ…影斗の方で何か理由があるなら、蒼矢には話してやってくれねぇかな。原因がわかればあいつも納得するだろうし…わかんねぇままだと、何かお互い気持ち悪いじゃん?」
「…まぁ」
「…あいつ結構自分責めがちなタイプでさ。あんまりテンション上がったり下がったりしねぇんだけど、一度ハマるとどんどん悪い方向に考えちまうんだよ。こないだ会った時も、まぁ元気無かったんだけど…弁当作ってきててさ」
「…弁当?」
「うん。俺が知る限りあいつが自炊してるのなんて初めてだったんだけど…全然食ってねぇまま持って帰ってきてるのよ」
「……」
言葉を重ねる烈に、そっけない風だった影斗がやや驚きの混ざったような表情を向ける。
「あんまりはっきりとは言ってなかったけど…エイトに見て貰いたかったんじゃねぇかって俺は思う」
そう言うと、烈は影斗の方へ向き、頭を下げた。
「…頼むから、会って話してやって欲しい。あいつの中で、エイトはもう大事な先輩になってるんだ。…あいつの気持ち、汲んでやってくれねぇかな」
烈のつむじを眺めていた影斗は、我に返ったように顔に手を当てた。
「…蒼矢、俺のこと何も言ってなかったのか?」
「ん…特には。ただ、何かしちゃったのかもしれないから、謝りたいってだけ」
「……!」
影斗はその言葉に、決意を決める。烈の肩に腕をかけ、ぐいっと引き寄せた。
「…悪かった…蒼矢にも、お前にも。ちゃんと話してくる」
「…うん!」
真剣な影斗の面差しに烈は嬉しそうに笑って返し、みずからも影斗の腕に手をかける。
「蒼矢さ、見た目小さめであんなだけど、中身割と強いから。正直に話してやってな、きっと受け止められるから」
「…わかった」
影斗は烈の肩を叩いてから、すっと立ち上がる。
「学校戻ってくるわ。まだいるかもしれねぇし」
「おう! 俺またエイトの飯食いたいな」
「いくらでも作ってやる。今度三人で遊びに行こうぜ」
「了解!」
烈に見送られ、影斗はバイクへ駆け寄り飛び乗った。
影斗と烈の再会から少し時間が戻る。
鹿野から帰宅するよう促された蒼矢は、素直に学校を出、帰りの電車に乗っていた。
「……」
影斗と会えず、意を決して動いてみたその結果鹿野に諭され、蒼矢はひどく落ち込んでいた。
…何やってるんだろう、俺…
ドアポケットの壁に寄りかかり、ぼーっと車内を眺める。
すると、何気なく見ていた視線の先に、電車の経路図が映る。
「……」
蒼矢を乗せた電車はそのまま自宅最寄り駅を過ぎ、どんどん景色が変わっていく。
そして、とある駅に降り立つ。家から比較的近くはあるが、用が無いし人の往来が多過ぎるのが苦手で普段からあまり寄りつくことがなく、少し前に久々に降りた駅だ。
数日前影斗と遊びに来た時に使った、大きなターミナルを擁するN駅だった。
蒼矢は複雑な駅構内で少し迷いつつも目的の改札口を見つけ、駅から離れていく。
影斗に連れて行ってもらった時は終始ついていくだけだったが、なんとなく覚えている道順と景色を頼りに、周囲を見回しながら歩いてみる。
その内、あの日立ち寄ったショップを見つけることができ、そろっと入ってみる。声をかけてくる暇そうな店員に愛想笑いをしながら、蒼矢は店内を見て回る。
ひと通り確認し終えるとササっと退店し、再び周囲を歩く。
もしかしたら、影斗がどこかで買い物をしているかもしれない。
この辺りを歩いていれば、フラついていた影斗とバッタリ会えるかもしれない。
そんな確証のない期待を込めながら、蒼矢は影斗との足跡を辿っていった。
しかし、そこからまた少し歩いて三軒目に入店しても何の収穫も得られないまま、ただ時間が過ぎていった。
店を出たところで蒼矢は軽く溜め息をつく。
やっぱり帰るかな…と思いかけた時、道路を挟んだ対向の歩道を見覚えのある人物が歩いていくのが視界に入った。
「…!」
諦めかけていた気持ちを再び元に戻し、蒼矢は早足で近付いていく。
「…あのっ」
蒼矢が呼びかけたのは、影斗と遊んだあの日に知り合い、一緒にこの近辺を歩いて回った女子大生二人組だった。声を掛けられた二人は振り返ったものの、不思議そうな表情をしながら蒼矢を眺めている。
「この間はどうも…、ちょっと聞きたいことがありまして」
「?」
女子大生達は、さもこちらを知っている風に話しかけてくる目の前の高校生らしき男子に怪訝な顔を向けていたが、次第に口が開き、目が大きくなっていく。
「…もしかして…ソウヤくん!?」
「! あ、はい」
「ええー!?」
女子大生達はあの日の記憶に残る蒼矢と今目の前にいる彼とを照らし合わせるように、蒼矢の顔をまじまじと見つめる。
声色と眼鏡の向こうのパーツでようやく判別できたようだが、ビジュアルが自分の覚えているそれと違い過ぎて、ただただ信じられないという表情を浮かべていた。
「そうだ…よく見れば確かにソウヤくんだわ…!」
「びっくりしたー! ごめんね、全然わかんなかったよ。すごいね、すごいギャップ!」
「はぁ…あ、あの」
「あぁ! で何だっけ、聞きたいことだっけ?」
「はい。今日この辺りで影斗先輩を見かけませんでしたか?」
「エイト?」
蒼矢の質問に、女子大生達は少し考える素振りをした後、首を横に振った。
「…ううん、見てないよ」
「私達今日は午後授業無くて、昼過ぎからずっとこの辺いるけど、今日はまだ会ってないなぁ」
「…そうですか」
蒼矢の少し気落ちしたような反応に、女子大生達は顔を見合わせる。
「探してるの?」
「何か大事な用?」
「いえ…会えればいいなと思っただけなんです。すみません、ありがとうございました」
そう言い会釈をして、あっさり二人から離れていこうとする蒼矢を、慌てて女子大生達は呼び止めた。
「あっ、待って待って。私達も探すの手伝おうか?」
「うんうん、暇だし! エイトの行きそうなトコも少しわかるしさ」
「いえ、大丈夫です。もう少しだけ歩いて、そのまま帰ろうと思います」
「…そう?」
どこか心配そうな表情で見つめる二人に蒼矢は再び頭を下げ、背を向けて歩いていく。
女子大生達は、徐々に小さくなっていく蒼矢の姿を、立ち止まったまま呆けた風に眺めていた。
「…見た? あの制服。T大付属じゃん」
「…だよね。てかさ、つまりエイトもあそこってこと?」
「嘘でしょ? エイトってそんな頭良かったの…?」
「なんか私今、色々ついていけてないわ…」
銘々に独り言のように感想を漏らす二人だったが、やがて我に返る。
「! ねぇ…ちょっとまずいんじゃない? こんなとこ制服で歩いてたら…」
「そうだよね…どうしよう、追いかけてみる?」
「うん。あとエイトに連絡しよ? もう、あんな顔させるなんて…先輩として責任取らせなきゃ」
*裏話*
作中に登場する地域や学校名,駅名は、実在するものをあてているものが多いですが、
基本イニシャル表記なので被ってしまうこともあり、なんとなく紛らわしいので適当に
イニシャルを付けているものもあります。
作中で問題になるN駅は、上記の理由で全く違うイニシャルを付けてあります。
当然ですが、被ろうが被らなかろうが作品の内容にはほぼ関係ありません。投稿者の気分の問題です。




