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1:魔王と勇者の為人 その2

 村を出る時、3人の親と村長から少しばかりの餞別――いや、そんないいもんじゃないな、迷惑料か厄払い金として町で5日くらいは暮らせる金はもらった。

 目指すのは王都だ。魔王討伐軍に加わるという村長からの書状を渡さないと迷惑がかかる。が、王都までは歩いて7日はかかる。途中の町で金を稼ぐ必要がありそうだ。

 ちなみに道中は金は使わない。というか、金を使える場所がない。宿は野宿だし、飯は自力で採取・狩猟だ。一応、旅に使う携行可能な料理道具は持ってきた。

 魔王の魔法で燃えた焚き火で豆を煮込み、チーズを小さな鍋に入れて溶かし、パンに掛ける。


「ジェイくん、好きだもんねー、チーズのっけパン」

「俺はこれさえあれば、後はなんでもいいからな。魔王は――」


 そう言い掛けて、俺はふと気づいた。これから町に行くのにマズいことがある。


「勇者はともかく、魔王って呼ぶのはマズいな」

「では、ワレの名を呼べばいいであろうが」

「なんだっけ、おまえ?」

「名乗ったであろうが!」

「いや、なんかドタバタしててよく聞いてなかった」

「すでに伝説になっているなら、名前くらい覚えてるだろうが?」

「えーっと、ヴァルサミコだっけ?」

「ヴァルミドルグだ!」

「わかったー!」

「なにがわかったんだ?」

「じゃあ、ヴァミちゃん! ううん、あんまり可愛くないから……バミちゃん」

「……勝手にワレの名を変えるでない!」

「はい、バミちゃんね。了解」

「バミちゃん……わかった」

「き、貴様ら……」


 ここまでの会話は端からは俺とファミのふたりだけで交わしたようにしか見えないだろう。実際はファミが魔王と二役。ややこしい。

 もうひとりのややこしい相手に話を振る。


「勇者は?」

「ゼフィレンだ」

「じゃあ、ゼフくん!」

「一応人間の勇者なんだから敬ってくれてもいいんだぞ?」

「魔王に敬語は必要ないのか!」

「おまえは敵だしなあ」

「ゼフくんで結構。というか、ゼフちゃんでもいいぞ」

「じゃあ、ゼフちゃん!」

「ぐふふっ」


 セイルがいつも無表情な顔を崩して妙な声で笑い出した。


「おまえ、なに喜んでるんだよ?」

「ボクじゃない」

「セイルじゃないのはわかってるから。こら、勇者」

「これまで親しみを込めて呼ばれたことがなかったからな」

「ああそうか。勇者なんて言われてたら気楽に近づきにくいもんな」

「それどころか周りに誰もいなかったからな」

「え? ぼっち?」

「ああ、ワレのところに攻め込んできた時もひとりだったな」

「え? 普通パーティ組んで攻め込まない?」

「俺が戦っていると、周りにいた兵士がなぜか減っていくのだ。敵前逃亡するような仲間などいらん」

「人望がないんだな、きっと」

「戦いの直前までついてくるんだ。俺が長剣を振るうと、どんどん減っていくんだよな」

「ん? ひょっとして、それ……」

「巻き添え食ってるだけじゃない?」

「あん? そんなわけあるか」

「こいつの剣は無茶苦茶振り回しておったな。周りでなんか吹っ飛んでたな、そういえば。どうりで誰もついてこないなと思っていたぞ」

「……どーゆーことなの、ジェイくん?」

「ぼっちどころか、味方殺しだよ。ひどい勇者だな……」

「わー、ひどい勇者さんなんだー」

「ひどくないっ! 魔王を倒した偉い勇者だっ!」

「ワレは倒されてなどおらぬわっ!」

「がっかりだ」


 セイルにまで落胆されて、勇者に立つ瀬はない。

 そんなこんなで、村を追い出されたその日は魔王と勇者の人となりを知って暗澹たる気分になったのだった。

 なんというか、1000年も前の伝承ってのは当てにならないもんだよな。

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