1:総本山は魔王城 その2
まあ、信者なんてあちこちをゾロゾロと歩いているわけなので、捕まえるのに苦労はない。ちょいちょいと声をかければ……
「あのー、ちょっといいで――」
「メディーナ教にご興味がおありですか?」
「まあ、若いのに感心ね!」
「なんでも訊いていいのよ」
質問する前に白い巡礼服をまとった信者たちが向こうから寄ってきたよ! しかも、ゾロゾロと!
「じゃあ、お言葉に甘えて、あの白い建物なんだけど」
「ええ、あれがメディーナ教の総本山ですよ」
「まるで女神メディア様のように優美で、汚れを知らぬ純白の教会!」
「讃えよ、メディア様を!」
「メディア様を!」
何人かが口々に説明していると、最後には周囲の信者が加わって合唱のように熱狂的な声を上げた。
魔王のファミだけじゃなくて、勇者のセイルまでかなり引いている。俺まで気分が悪くなってくるが、訊くべき事は訊かなければ。
「で、その、ご本山はいつからあるんですか? ずいぶん歴史があるんでしょうね」
「それはもう悠久の昔からと言われておりますよ」
「天地が今の形になった時、主神がメディア様に下賜されたのですよ」
「それ以来、純白のまま何者にも汚されることなく輝き続けているのです」
ひとつ訊くと10ほど答えてくれるのはありがたいけど、知りたいのはそう言うことじゃないんだよなあ。
それよりも、魔王が突っ込みたくて堪らないって顔をしているのがおかしい。いや、はた目にはファミがくしゃみを我慢してるようにしか見えないんだけどな。
とりあえず、俺から突っ込んでおくか。
「そんな昔からなんですか! あ、でも、その後、魔王が現れたんですよね? その時、もこのままだったんですか?」
「そんな汚らわしいものがメディア様に近づけるはずがないではありませんか」
「メディア様が片手を振っただけで魔王軍は壊滅したそうですよ」
「」
ファミの顔が真っ赤になって今にも信者たちに魔法を放って殺したそうにしている。セイルが抑えつけてなけりゃ信者全滅だな。まさか魔王本人が目の前にいるとは思っていもいないだろうし。
「へえ。凄いですね。その後、魔王と軍はどうなったんですか?」
「魔王は許しを乞うて封印されて、軍の魔族たちは辺境に放逐されました」
「メディア様の御力の前に魔王など取るに足りません!」
「我らには恐れるものなど何もないのです!」
信者たちがズイッと詰め寄ってくると、俺の手を取って満面に笑みを浮かべた。
「ここまでお聞きになったなら、メディア様の偉大なるお力がよくおわかりでしょう」
「さあ、あなたたちもメディーナ教徒となって巡礼の旅に参りましょう」
「この経典をお読みになれば、メディア様の優しさが心に染み入りますよ」
信者たちは俺に金箔押しのついた経典を押しつけると、小箱を突き出した。ジャランと金の音がする。
「なに?」
「この経典を購入することがすなわち信者の証となります」
「お布施として教団の運営に使わせていただきます」
「お幾らほど?」
「通常250000のところ、今なら何と! たったの198000!」
「高いっ!」
「こんな出会いはまたとありませんよ!」
「まさにメディア様のお導きです!」
「幸運です! そのうち2割が私たちの収入に――ゴホンゴホン。失礼」
いきなり全員が咳を始めて、すぐににこやかな笑顔に戻る。
が、いきなり上がった叫びに信者たちはビクッとする。
「このっ! 誰が魔王か……思い……むぐ……メディ……ゆるさ――」
暴れ出した魔王をセイルが抑えきれなくなってきたのだ。
「どうされたのですか? 魔王とか聞こえましたが?」
「ええ、悪い霊に憑かれているようで、発作を起こすんです」
「それは大変な! では、それでメディア様のお力を?」
「あ、えっと、そう考えてます」
「そうなのですね! それは良いお考えです」
「そのことについてご相談があるのですが、ここじゃなんですからあちらでよろしいでしょうか?」
「ええ、かまいませんとも」
俺は信者3人を上手い具合に転がっていた岩陰に案内していった。




