1:王女を追って その2
軽く銭湯に漬かるつもりだったのに、戦闘に入ってしまったおかげで疲れてしまった。風呂はもういいので、宿を取って休みたい。
「部屋空いてる?」
「とりあえず宿の空きがあるか聞き込みするぞ」
近くの土産物屋に入って、おばさんに訊いてみる。
「今は満室のところが多いよ」
驚愕の返事。
「なにかあるのか?」
「湯治で長逗留の人が多いのと、客足が少なくなったせいで宿の数が減ってるんだよ」
「傾いた温泉街だったのか」
「失敬だね! まだギリギリ踏ん張ってるよ!」
「危機感はあるんだ」
「だからあちこちに宣伝して持ち直してるのさ」
「だったら空いてるんじゃ」
「宿が減ったところに客が増えたらいっぱいになるだろ?」
「あ……」
当たり前のことを指摘されて思わず呻く。
「よし、飯を食おう!」
「宿を探すんじゃないの?」
「この天気なら野宿でも大丈夫だろ。それより客が増える前に飯だ」
2時間もすれば夕食時だ。その前に食べて泊まれるところを探そうと思ったわけだ。
「で、何持ってるんだ、ファミ?」
「えーっとね~、お土産の勇者の月!」
「だからそれはいいって言ったろ」
「お土産は帰る時」
「そうだ。セイルの言うとおりだぞ」
「わかった~。ローネちゃん助けて帰る時に買いに来るから取っといてね!」
「いや、その頃には新しいのがあるだろ。ほら行くぞ」
「おね~が~い~っ!」
念を押すように店員に確保を頼むファミを引きずって歩き出す。
「飯屋を探すぞ!」
「ご飯~!」
ファミはすぐに立ち直った。現金なヤツだ。
「黒たまご~!」
「もうちょっとご馳走っぽいものにしろ」
「温泉でご馳走……」
「温泉たまご~!」
「たまごから離れろ!」
「卵焼き……」
「だから、卵はいいから」
「ジェイくん、卵嫌いなの?」
「好きだけど、なんでわざわざ温泉まで来て卵を食わにゃいかんのだ」
「あー、差別だー」
「差別いけない」
「黒たまごー!」
「だから、たまごはいいって――」
「ジェイくん、買ってー!」
「聞いてねぇ」
ファミは勝手に走り出し、小さな店の軒下に駆け込んでいった。名物黒たまごの看板がこれ見よがしと立っている。
「しょうがない。ご飯前に食うなよ」
買い終わって黒たまごをファミに渡すと、頭上からポッポッと音が聞こえてきた。
「ん? 雨?」
「いやぁ、珍しいねぇ、この季節に雨なんて」
店のバアさんがのんきな声を上げながら、忙しく動き始めた。
「宿ないのにどこで雨宿りする?」
「ここでいいんじゃね?」
「はい、店じまいだからどいとくれ」
「え?」
「はいはい、店仕舞いだよ! 帰っとくれ!」
「ちょ!? いや、なんか雨音が激しくなってきたんだけど!」
バアさんにグイグイと背中を押されて追い出されてしまった。
「まあ、これくらいならなんとかなるよな。よし、行くぞ」
外に飛び出した瞬間、あっという間に土砂降りになった……。




