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わたし魔王の生まれ変わりなの、と幼馴染みは言った。  作者: 神代創
9章 村人Aは温泉に浮かぶ
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2:勇者の湯 その2

 入ってすぐは岩風呂になっていて、落ち着いた風情ある温泉だ。多分、爺さんが作った最初の勇者の湯なんだろう。10人くらいは入れそうな湯船と、水風呂がある。外の竹林がいい雰囲気だ。

 お湯を桶でひっかぶってから湯船に近づく。


「お邪魔します」


 先客にそう断って、足からゆっくり湯に浸かる。


「あーっ、生き返るなぁ」


 思わずそう声に出てしまうほど気持ちがいい。今頃、あいつらも同じセリフを口にしてるんだろうか。いや、魔王や勇者の声になってしまって、女湯に不審者出現とか騒ぎにならないだろうか。

 そこまでバカじゃないよな。

 隣エリアから騒ぎが聞こえてこないか耳を澄ませてしまう。


「大丈夫だよな」


 特に騒動が起こった様子もないので、安心して湯に沈み込む。あー、しみるわー。

 と、ひとりきりの客が湯船から出ようと立ち上がったところでよろけて倒れそうになった。


「大丈夫か、おっさん?」

「すまん、湯あたりをしてしまったようだ」

「手を貸そうか?」


 俺は湯船の中のおっさんに歩み寄り、手を掴もうとした。その瞬間、足元がぬるっと滑って思いっきりすっ転んだ。

 後頭部から湯の中に落ちる。

 その瞬間、おっさんが俺のいたはずの空間を薙ぎ払うのが見えた。手には短剣?


「ぶふっ! 刺客か!?」

「チッ、死ねっ!」

「装着!」


 お湯の中でもがきながら叫ぶ。同時に初代勇者の甲冑がどこからともなく現れ、俺をがっちりとガードする。

 刺客おっさんの振り下ろした短剣が甲冑に弾かれて甲高い音を立てる。助かった。

 が、今度は甲冑の中にお湯が入ってきた。


「うぶっ……ぶぶっ!」


 甲冑の中で溺れるなんてゴメンだ。しかし、今外して、そこを狙われたら致命的。


「このまま溺れ死にさせてやる!」


 俺の状況を悟ったか、刺客おっさんは俺に馬乗りになって全体重をかけてきた。

 兜の中は大洪水だ。息ができない。

 殺す気かーっ! いや、殺す気だった。

 ぼやけて見えない視界の中、腕を思いっきり振り回す。何かに当たったのは確かだ。刺客おっさんの姿が視界から消えた。

 もがきながら起き上がったが、兜の中にはまだお湯がいっぱいだ。早く排水しろーっ!


「プハーッ!」


 鼻まで水面が下がってくると同時に息を吐き出し、思いっきり息を吸う。空気が旨い。

 2度3度と深呼吸を繰り返し、落ち着いてきたところで、殴り飛ばした刺客を探す。近辺には見あたらないな。

 そう思った時、どこからか大きな声で注意された。


「そこのお客様! 当銭湯では甲冑を着たままでのご入浴はご遠慮していただいております! すぐさま脱いでください!」

「今脱いだら殺されるから!」

「脱いでください!」

「脱がん!」

「どうしても脱いでいただけない場合は実力行使させていただきますよ!」

「死体が湯船に浮かんでもいいのか!?」

「死なないでください! 死んだら事故物件になって湯がひとつ閉鎖になって損害を被ってしまいますので、訴訟を起こさせていただきます!」

「無茶言うなっ! だいたい、刺客が客にまぎれてるなんて管理者の責任放棄だろ!」

「そんな責任はありません!」

「なんだと?」

「ここは勇者の湯ですので、刺客が襲ってきた場合は自己責任で対処お願いしてま~す」

「なんだと?」

「勇者しか入って来ないというコンセプトで運営してますから~」

「なんだとーっ!」


 突っ込むのに疲れた。が、それよりも問題がある。俺を狙って刺客が来たって事は他にもいるんじゃ? それに狙われるのも、どっちかっていえば俺よりあっちじゃないのか?

 そう思った時、でかい壁を隔てた隣の方で不穏な叫び声が聞こえた。


「貴様ら、それほど我の肉体を見たいかっ!」

「ファミの体はジェイくんのものですーっ!」


 喜べばいいのか? いや、あんまり嬉しくはないんだけど、いつもツンツンしてるからな。

 それより、貴様らってことは複数の不埒者がいるわけで……。


「この肉体は誰にもやらんぞ! オレのものだ!」

「オレのものと違う。ジェイトのもの」


 勇者まで襲われているらしい。セイルも言うようになったなぁ。

 いや、襲撃者が問題だ。別の意味で。

 などと襲撃者の方を心配した途端、盛大な破壊音が轟いた。

 ドカンッと爆発した音が響いた後、何かでかい物が壊れる音。その音の方に視線を向けると、滝行の水量が明らかに増えていた。というか、瀑布と化していた。


「ちょっ!? なんで滝が!?」

「除き防止のため、女湯は男湯より標高の高いところにあります」

「標高って、高すぎだろ!」


 冷静な運営の声――いや、イッカだな、これは――に突っ込む。

 いや待てよ。とすると、滝行の水は女湯の残り湯なのか。妙に滝行をするヤツが多いと思った。

 が、そんな不届きな修行者は一番に流されて消えていた。怒濤のような水が渦を巻いている。

 イッカの声が次に聞こえてきた時、明らかに様相が変わっていた。


「非常事態です。すぐさま避難してください。落ち着いて、お近くの出口からおで……お……ブクブク……ぷはっ! ご避難くだ――ブグッ!

「溺れてるだろ!」


 これは冗談じゃなさそうだ。

 そう思っていると、滝が真っ二つに割れた。

 そして、お湯が盛大に噴き出した。女湯の客と一緒に。


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