3:女湯からの刺客 その1
「いやー、こりゃ壮観だなー」
老いも若きも女性が噴水のように噴き出してくる。まあ、落差はあるけど、下はお湯だし、怪我はないだろう。悲鳴も楽しそうだし。
「うごーっ! 死ぬ! 溺れるーっ!」
セイルが無理して男っぽい声を上げている。楽しそうだな。
「オレは泳げんのだーっ!」
勇者……使えねぇな、おまえ。
「セイルに代われよ!」
「泳げない……ぶくぶく……」
「あっさり諦めて沈むなーっ!」
そういや、泳ぎの練習なんてしたことなかったっけ、セイルは。
「しょうがないな、まったく」
俺は滝壺に落ちてもがいているセイルに向かって走った。
「こんな時にファミはどうしてんだ?」
周囲を見回すが、兜のスリット越しじゃ視界が狭すぎて見つけられそうもない。
まずは流れていくセイルを助けるのを優先しよう。
仰向けになったセイルが流れに任せてドンブラコとやってくると、俺は腕を伸ばしてひょいっとすくい上げた。
「セイル、大丈夫か?」
返事がないな。あれ、これヤバやつ? 息してないっぽい?
ちょっと焦ったところで、違和感に気づいた。
「セイル、唇を突き出しても無駄だぞ」
「残念。接吻で既成事実を作ろうとした」
「キスくらいでなんの効力があるんだよ」
「なにもないなら今すぐする」
セイルが跳ね起きて俺の頭と急接近。
ガツンとばかりにセイルの額は兜に激突する。
「残念。兜が邪魔」
「残念なのはおまえだろ。まったく。急になんだ?」
「焦燥」
「は?」
「敵が増えたから。お姫様は危険」
うん、まあ、ローネのせいで敵が多くなったからな。命が幾つあっても足りない。
セイルはなにやら不満そうだが、今はそれどころじゃない。溺れる女湯の客を助けないと。
まるでクマが魚を捕るように片腕で流れてくる人間をすくって投げ飛ばしていく。おばちゃんが多いのは場所柄当然だな。
ん? なんか黒い毛むくじゃらのをすくったような?
「ニャオウ!? おまえいいところに……って、なんで女湯から流れてくるんだ? 風呂なんて嫌いだって言ってたろ?」
「ニャニャッ!? そ、それはもちろん、魔王様の警備のために――」
「のぞきか」
「それは違うにゃ! 名誉のために全力で否定するにゃ! だいたい人間などのおっぱいなど見ても嬉しくもなんともないにゃ!」
「うんそうだろうな。ファミのたわわなおっぱいとか、セイルの硬いけど弾力のあるおっぱいとか、ローネの形のいいおっぱいとか」
「ローネのが最高だったにゃ」
「そうだろうそうだろう。なあ?」
「……い、いや、そうだろうにゃと思っただけにゃ!」
「処分は後から魔王を通して下されるだろう。その前に手伝ってもらおうか」
「なんだにゃ?」
「逃げるなよ?」
「わ、わかったにゃ」
「で、その魔王というかファミはどこだ?」
俺は滝壷から急流の辺りを見てみたが、それらしい姿はない。
まさか、溺れて沈んでるってことはないよな?
ようやく流れてくる水量いや湯量が減ってきた天然の滝を覗き込む。
その時――
「ジェイくん、上だよ!」
珍しくファミの緊張した声がどこからか飛んで来た。




