2:教会を下見 その1
なんだ?
視界が真っ暗で、なにも見えない。確か寝てたから、ベッドの上のはずなんだが、またファミの胸で窒息したのか?
いや、それにしては息苦しさがない。代わりに全身が痛くてだるい。手足も動かない。
遠くにオレンジ色の光が揺れている。松明か?
どこだ、ここは?
松明の方で動きがある。が、見えない。明かりが揺れているだけだ。
誰かが争っているような雰囲気だ。姿がはっきりしない。暗いからか? いや、視界がおかしいんだ。左目が見えてないし、右目も霞んでる。
剣の音は聞こえない。拳でぶっ飛ばしたような音。グシャッと潰されたような音。
誰かが走る足音。金属がガシャガシャと言う音。いら立たしげな唸り声。ガキンッと金属が断ち切られる音。こりゃあれだな。鍵が開かなくて剣で叩き斬った音だな。乱暴なヤツだ。
誰かが入ってくると、騒々しい叫びを上げた。
抱きしめられて、謝られているのか? 俺なんかやったっけ?
全身が温かい。
このまま死んでしまっても大丈夫なような、そんな温かさ……。
抱きかかえられる感覚の後、意識は黒い闇に飲み込まれた――。
◇
なにか夢を見ていたような気がするんだが、思い出せない。まあ、よくあることなんだが、大事な場面だったような気がする。
が、体は温かい。というか、暑い。重い。
何だと思ったら、上に乗っかっているファミとセイルのせいだった。せっかくふかふかの布団があるのに、なんで幼馴染みを布団にしなけりゃいけないんだ?
「ジェイくん……そこぉ……もっとぉ……」
素っ裸のファミを持ち上げて寝かすと、隣のセイルも動かす。
「ジェイト……やっぱり胸欲しい……?」
ふたりを起こさずにベッドから出ると、小声で呼びかける。
「さてと、食事の前にすますか。起きてんだろ、魔王&勇者?」
寝ていたはずのふたりがむくっと上半身を起こして俺を見た。セイルの方が不機嫌そうな声を上げる。
「お笑い芸人のような呼び方はやめろ」
「魔王&勇者? いいんじゃね? どつき漫才したら受けると思うけど」
「突っ込んだら劇場どころか町が消えるぞ」
「それもそうか」
苦笑していると、今度はファミが口を開いた。
「本体は起こさずともよいのか?」
「疲れてんだから起こさなくてもいいだろ」
「我らはよいのか?」
「精神だけなら疲れてねーんじゃね? それにそんなヤワな鍛え方してねーだろ?」
「まあ確かにな。しかし、起きれば貴様の話は伝わるぞ」
「それは別にいいよ。秘密にする気もないし」
そう言うと、気になっていた本題に入る。
「で、魔王、何か分かったか? どうやったかはわからないけど、調べたんだろ?」
「ふむ、まあ、使い魔とニャオウから報告は受けたが、大したことはないぞ」
「ローネの話はどうだった?」
「あれはその通りだ。王妃と第2王女だったか、連中はローネが無事に帰ってきて慌てふためいておった。滑稽だったぞ」
「それは見てみたかったな」
まだ見たこともないローネの義母と腹違いの妹の慌て様を考えて笑う。
「昨夜の襲撃は連中の差し金で間違いない。また刺客を放ってくるようだな。面倒なので、ニャオウに命じて屠るか? 簡単だぞ? 結界のひとつも張っておらん」
「それじゃローネを殺すことにならないしな。それにそのやり方じゃ魔王だ」
「我は魔王だからな」
「うん、知ってる。あ……それ行こうか」
ふと思いついた案に思いを巡らせる。。
勇者のセイルが俺を見て眉をひそめる。
「いや、ローネの殺し方を閃いたんだ。ちょっと下調べしないとな」
「貴様、今凄く悪い顔をしたぞ? 魔王並みだ」
「そうか? 面白いことを考えついただけなんだけど」
「それが邪悪なんだ」
「失敬な。もうよいか? なにかあったら呼べ。この娘に死なれては困るからな」
「わかった」
魔王と勇者の意識が去ると、ふたりはコテンと突っ伏してしまった。こんな寝方すると疲れるよなと、ファミを抱えて横たえようとする。と、そこでファミの目が開いて、まん丸になる。
「……ふぁ? ジェイくん、ようやくファミを襲う気になったんですね!」
「は?」
「ファミ、襲われる気満々なのに、いつまでたっても襲ってくれないんだからー、待ちくたびれましたよー
「ジェイト、ボクも襲われる計画?」
「どっちも襲う予定はないが?」
「ええええーっ!? ここまでしておきながら、襲わないなんて、やっぱりジェイくんは不能なんだーっ!」
「やっぱりジェイトは不能」
「朝っぱらから女の子が下品なこと言うんじゃない!」
ポンポンと頭を平手で叩くと、ファミはペロッと舌を出し、セイルはわずかに唇を動かす。笑っているんだとわかったのは初めて遊んでから3年くらいしてからだったっけ。
そのセイルがぼそっと訊く。
「ジェイト、さっき悪巧みしてた?」
「ん? ああ、魔王からの報告な」
「ローネ、殺すの?」
「ああ、これ以上ないくらいしっかり殺すぞ」
「ファミね、ジェイくん撮られたくないけど、ローネちゃんも好きだよ?」
「ああ、分かってる。もったいないもんな」
「やっぱりジェイトは女好き」
「なんでそうなる!? あんなに部下のこと考えてる指揮官はもったいないだろ」
「ジェイくん、ボクニンジンだよねー」
「ファミル、それは朴念仁」
セイルがファミに突っ込み、ファミは難しいことはわからないって顔でポケッとしていた。




