1:王都到着 その3
一通り食べ歩きをして、本屋に数軒寄ったところで、ファミが疲れたーだの退屈ーだの泣き言を言い始めた。陽も傾いてきたので、宿を探そうかと思ったが、ローネが部下に宿の手配を指示していたことを思い出した。まあ、そのうち連絡があるんだろう。
今はそれよりも問題があった。
チクチクと殺気が大きくなってきたのだ。
「あー、なんか面倒が来た感じ?」
「えー、ファミ面倒じゃないよー」
「いや、グズグズ言ってるのは面倒だろ。でも、今はそれじゃないから」
「ひどーい! ファミ、それじゃないもん!」
なんかズレたことを言ってるなと思った時、背後から声をかけられた。
「よう、兄ちゃん」
5人組のチンピラいやお兄さんたち。冒険者やってますって感じだ。それなりに鍛えてそうだけど、殺気が小さすぎて他の殺気にまぎれてわからなかったよ。
「カワイイ娘ふたりも独り占めってどうよ?」
「どうって言われてもなぁ」
「どっちかオレたちに譲ってくれねぇかなぁ?」
「ふたりともでもいいぜぇ?」
「俺はかまわないけど、こいつらがどう言うかなぁ」
「ファミ、ジェイくん以外とよろしくしないよ?」
「ボクは遠慮しとく。中身なさそう」
わざわざ挑発するようなことを言わなくてもいいと思ったが、その挑発に簡単に乗るのも問題だと思う。
「このアマぁ! ちょっと可愛いからって図に乗ってんじゃねぇぞ!」
「セイルちゃん、可愛いんだって。ファミも?」
「あ、ああ、おまえもマブいぜ」
なんか田舎から出稼ぎに来た冒険者みたいだな、こいつら。まあ、俺たちも他人のことは言えないけど。それはいいんだけど。
「怪我したくなかったら、ここから離れた方がいいよ?」
「あん? おまえがオレたちの相手してくれんの?」
「いや、そうじゃなくて――」
言い終わるより早く、目の前の男が弾け飛んだ。代わりに黒服の姿が現れたかと思った瞬間、キンッと甲高い音が響き、地面に短剣が転がる。
「おまえ、刺客か?」
いつの間にか俺の前に立っていたセイルが低い声で問う。これは勇者だ。
「いつの間に!?」
「そこの男を突き跳ばした勢いで後ろに飛んだのだ。その分、ジェイトを狙ったおまえの狙いが狂ったんだ」
セイルが大したことじゃないと答える。が、大したことなのは、相手の様子を見ればわかった。刺客が俺に短剣で襲いかかる一瞬で、チンピラを突き跳ばし、飛びずさり、放った短剣を叩き落としたのだから。俺も結果を見て何が起こったのかようやくわかったくらいだからな。
「さて、どうする?」
セイルが長剣を突きつける。刺客が動いても対応出来るように腕がギリギリ届かない距離。しかし、踏み込めば一瞬で斬れる。
どう出るかなと様子見をしてしまったのが裏目に出た。
吹っ飛ばされたチンピラの残った4人が向かって来たのだ。
「てめえら、アニキを!」
「あ、こら! やめ――」
勇者が止める間もなく、4人のチンピラ冒険者は刺客の背後から襲いかかった。完全に相手を勘違いしている。おまけに相手が悪い。
刺客は背後の動きに気付いている。こっちが反応するより早く、いきなりトンボを切って真後ろに飛んだ。
そこにチンピラたちが突っ込んでくる。
「わっ!? こら!」
目標が目の前から消えて、チンピラたちは勢いあまって俺たちの方に突っ込んでくる。
「愚か者ども!」
勇者がチンピラたちを剣で容赦なく叩きのめしている間に、刺客は建物の窓を器用に登って屋根まで達し、姿を消してしまった。
「凄い身軽だな」
思わず動きに見惚れてしまう。
「我が追っておこう」
「出来るのか?」
「魔王を侮るな。使い魔などいくらでも使えるわ」
ファミがこっそり魔術を使うのをちらっと見ると、チンピラが逃げていくのを見送る。
「なんか、素直に終わりそうもないなぁ」
どう考えてもローネの関係だろう。さっそく邪魔と判断して手を出してくるとは、よっぽど頭が回るし、決断力があるんだろう。
いやー、なんか面倒なことになりそうだ。
「ジェイくんが悪役顔してるよ」
「ジェイト楽しそう」
こらこら、俺を悪人みたいに言うんじゃないよ、魔王と勇者。




