3:真昼の襲撃者 その1
4人でもつれ合って床に投げ出され、気がつくと、俺はふかふかした物に全身を押し潰されていた。
「く、苦しい……」
思わず両手でつかんで押し上げる。
「ジェイくん、昼間っから激しいよー」
「ジェイト、おしり好き?」
「ジェイトよ、気が早いぞ」
3人がそれぞれに声を上げる。なんだか、全員声がピンク色なのが気になるが、こっちは息が詰まって死にそうだ。
3人の体からもがきでると、馬車の上にいるニャオウに声を上げる。
「何が起こった!?」
「敵襲だにゃ、ダンニャ様!」
「もうちょっと前に知らせろ!」
「それが、いきなり現れたのにゃ!」
「いきなり? 魔法でも使ったのか?」
「うむ、感じるぞ。あれは邪悪な魔術だ」
セイルが鼻をクンクンさせて言う。勇者は邪悪な臭いがわかるのか?
「ボクは犬じゃない」
不満そうだが表情からはわからないセイル。
「また偽魔王軍とか?」
「いや、これは違うな。」
「ってことは、魔獣? あるいはまた刺客?」
「刺客だろうな」
ローネが深くため息をつき、立ち上がって剣に手をかけた。
「自分の尻拭いは自分でやろう」
「いや、やめておいた方がよかろう。相手は人間ではないぞ」
ファミが魔王の声でローネを止める。
「魔王軍でも人間でもないってことは?」
「刺客依頼を闇の者にしたか。どこまでも私を殺さずにはいられないらしいな」
険しい顔を歪めて歯をギリッと噛みしめるローネ。綺麗な顔だけに迫力がある。
俺は馬車から降りて外の様子を見た。
馬車の前方に真っ黒な集団がいた。こっちの隊列の先頭で戦いが始まっているが、すでに混戦の様相を呈している。唸りと叫びと悲鳴が入り混じって酷い状態だ。
「なんだ、あいつら?」
「ふん、死霊術士だな」と俺の問いに答える勇者。
「ってことは、あいつら、ゾンビってヤツ?」
「そういうことだ」
「真っ昼間に出てもあんまり怖くないもんだな」
「いや、こいつらが面倒なのはどんどん増えるってことだ」
勇者の言葉どおり、襲われた兵士がすぐに跳ね起きて味方の兵士を襲い始めた。
「素早いんだな」
「ああ、連中は限界ってもんを知らんから全力で襲いかかってくるし、走ってくる」
「ジェイくん、走ってきたよ!」
一匹のゾンビが俺たちの馬車に気づいて走ってきた。
「うおっ、速ぇっ!」
人間のようにバランスを取って走ると言うより、倒れるより先にとにかく足を動かして進むというぎこちなさ。しかし、全力で足を動かしているので速い速い。
「ウゴーッ!」
「よいしょ」
セイルが顔色も変えずに長剣を振るうと、スパッとゾンビの首が宙を舞った。いつも表情は変わらないが、それにも増して素っ気ない。おまけにため息をついた。
「ああ、ゾンビは面白くない……」
「面白い敵っているのか?」
「思い出してみろ。村を襲ったスケルトンは綺麗な音がしたろ? しかし、ゾンビじゃなぁ……」
ぐしゃっと崩れる音がして首とさよならした胴体が後続の馬車に激突して木っ端微塵になった。転がった首はカツンカツンと歯を鳴らしながら、ぬるっとした体液をまき散らす。
「確かに綺麗じゃないな……」
「だろ? 腐った肉や血が飛び散って服につくんだぜ?」
「しかも、臭いな」
「な? わかるだろ?」
「おーい、魔王。あいつら焼き払ってくれる?」
顔をしかめてファミに命令する。
「我に命令出来ると――」
「はーい! ファミやりまーす!」
魔王が反抗出来るはずもなく、張り切って応えたファミはいつもの聞き苦して気持ち悪い呪文を唱えた。もう少しカッコイイ呪文にはならないんだろうか。
とにかく不気味でも効果は抜群で、地面から吹き出した炎が一瞬にしてゾンビを包み込んだ。
「ウゴガーッ!」
「ブシュシュー!」
悲鳴ではなく、相変わらずの唸り声と、体の中の水分が蒸発する音を上げながら、ゾンビたちがこっちを見た。
「ん?」
一斉にこっちに走ってくる。が、途中で足が燃えつきて、ぶっ倒れると、這いずってくるヤツ多数。燃え尽きずに走ってきたゾンビも足が自由にならず、馬や馬車に激突して肉片をまき散らす。
「よく燃えるな」
「死蝋になってるヤツもいたのかもしれんな」
「それにしてもよく燃えるな」
「松明みたいだねー、ジェイくん」
「ああ、層状以上だなって、おい!」
俺は魔王に突っ込んだ。実際にはファミの胸を手の甲でポヨンと叩いたわけだが。
「馬車が燃えてるだろーがか!」
「そこまで考えておらんかったな」
「予想より元気なゾンビだったってわけか。ひでぇな、こりゃ」
「つーか、馬までゾンビ化してるぞ」
勇者まで加わって惨状を嘆く。
馬車はゾンビ馬の暴走で炎に突っ込み、横転して炎上。兵士も先行していた部隊は崩壊。おまけに死霊術士は発見出来ず。
茫然と見ていたローネが感情を殺した声でつぶやく。
「ジェイトよ、正直な気持ちを口にしてもよいか?」
「うん、聞かなくてもなんとなくわかるよ、ローネ」
「そうか。しかし、あえて言おう。私を殺して欲しいと言ったのを取り消したい気分だ」
「わかる。凄くよくわかる」
初めての依頼で薬草をほとんど集められなかったことを思い出して、そう力強く答えた。




