プロローグ いつからか憧れになっていて
(今日から三年生かー)
俺は今日も朝から元気に登校! でも今までと違うのは、今日から中学三年生になったということ。通り道で見かける真新しいガクランやセーラーを着てる学生たちは新一年生なのかな?
一応正面から見ればネームプレートに入ってる線の色により何年生かがわかるのだが、んな登校中から無作為に堂々と正面に回って確認とか……ないない。
ちなみに校舎内で履く上靴の色とおそろい。俺ら三年は青、二年は緑。一年はまだ知らない。
登校すると門に女の先生が立っていた。おっとこの前まで担任だった野田沼先生じゃん。
「あら空元くん、おはよう」
「おはようございまーす」
「今日から三年生ね、頑張りなさいっ」
「はいさ!」
にこにこしてる先生の横を通って俺は学校の敷地に入った。
校門を抜けてグラウンドやテニスコート、プールなどの横を通る長い一直線の道。
そして玄関ポーチまでやってくると、学生たちの人人人。そう、ここに新しいクラスが貼り出されているからだ。
俺もみんなに混ざってクラスを見ることに。どれどれ。
(あ、一組かー)
一組から順番に見ていこうと思ったら、空元 市雪の名前は早く見つかった。
(露音や源太とか、うぉ津山も同じクラスかー、ふーん)
俺は自分の名字が『そ』から始まるんだが、早々に見つけてからもそのままクラスの名簿を眺めていた。
(うわ桃もいんじゃん! おお楽和や兵次もいんのかー。しゃべってるやつ結構いるなぁ)
た行な行は行と、ほんとはなんとなく眺めているつもりだった。でもま行まで来たら、少し意識してしまった。その意識のままや行に入って……
(……早理佳も同じクラス、だっ……)
結本居 早理佳の文字を見つけた。
俺はつい周りの学生たちを見回してみたが、早理佳はいないようだ。
(早理佳と同じクラスかぁー……まじかぁー……)
ずっとここにいててもみんなのじゃまになるだけなので、俺は自分のげた箱を探しに向かった。
ちらっと早理佳の名前をげた箱で確認して、改めて同じクラスなのだと思った。
クラス表を見るまでは普通に元気に登校していたのに、今はなかなかに緊張してるぞ俺。
そんな緊張のまま、俺は三年一組の教室の前までやってきた。
(一年二年とクラスが違ったけど、今年は同じクラスか……)
俺は教室の横開きドアをスライドさせた。
教室内にいるクラスメイトの数はまだまばらだが、俺は自分の席を探しに向かった。
黒板に席と名前が書かれてあって、左からみっつめのいっちゃん後ろか。んまぁすぐ席替えになるんだろうけど。
俺は自分の席やってきたら、セカバンを机の右にあるフックに引っ掛けてイスに座った。
セカバンとはセカンドバッグの略らしいけど、これが俺らの普通の装備。校名も刻まれている。
でかいひもが付いてて肩から提げる使い方が一般的。ごくたまにひもふたつ使ってリュックっぽく背負ってるやつもいる。チャックが付いてて大容量っ。中や外にもポケットあり。さすがにペットボトルホルダーは付いてないなぁ。
女子はチャックの輪っかや持ち手のとこにストラップとかを付けてるやつがちらほらいる。部活とかのなんらかのグループでおそろいのパターンもある。
「おはよー市ー、今年も同じクラスだねぇー」
「おはー、そだなー」
声をかけてきたのは並園 桃だ。
身長は俺よりちょい低いくらいで女子的には平均より高いらしい。髪は肩にぎりかかるくらい。部活は陸上部。
元気な感じで俺からしたら部活以外の女子たちの中では割としゃべる間柄。小学校のときからしゃべってるから余計に。もはや男子相手みたいに気兼ねなくしゃべれる……って男子とか言ったら怒られそうか?
でもやっぱり明るくすぱっとした性格なので気兼ねなくしゃべれることには変わりない。んまぁ同級生の中でしゃべんのに気まずい相手なんていないけどさ。俺が女子の多い吹奏楽部に入ってるおかげか女子としゃべるのにもそんなに緊張しないし。
「今年で最後かー。おもしろい年になるといいねー」
「まぁそうかな」
「最後なんだからぱーっといくわよっ!」
「ああ。そうだなっ」
桃はそう言うと、笑顔でちょこっと手を上げて離れていった。
「はーっはっはっはぁ! ここが我の新たなる戦場か! 皆の者、46497!!」
あんな言い方は姿を見なくっても津山 幸介だとばればれだっ。基本的に同級生のみんなは優しいやつが多いから、このクラスのみんなも手を上げたり「おーう!」と返事をしたりして津山を迎えていた。俺も手上げとくかな。同じ吹奏楽部だし。オーボエっていうこの学校に二本しかない珍しい楽器の担当だ。
ちなみに身長がかなり低い。たぶん同級生男子では一・二を争うほどに低い。
そのついでに教室を見回してみるが……
(まだ来ていないみたいだな)
なんだかそわそわしてしまっているな。っかしーなー、部活では一緒なんだけどな。
「よっ、市雪!」
「おお源太」
次は倉島 源太が声をかけてきた。
身長は俺と同じくらいで髪は短く硬式テニス部所属。
桃も元気だがそれに負けじと元気満々なキャラ。いつも勢いがある。中学に入ってから知り合ったが、桃と同じように気兼ねなくしゃべってるし、休みの日に遊ぶこともある。ただ……最近女子の話題をよくしてくるようになったと思う。
「今年は同じクラスになったな! ってか見たか? あの結本居も同じクラスなんだぜ!?」
「あ、ああ。見た。前の黒板にも書いてあるしな」
名字が三文字なのでわかりやすい。
「学年のアイドル結本居が同じクラスとなりゃー、このクラスは目立つかもしんねーな!」
「アイドル? そ、そういうもんか?」
そんなの初耳だが。
「そうに決まってんだろ! お、ほらほら来たぜ!」
源太がそう言ったので、俺もドアの方に視線を向けた。
(来たっ)
肩を越す長い髪が下ろされてる早理佳がこの教室に入ってきた。
早速ドアの近くにいた女子たちとあいさつをしているようだ。
さっと教室を見回してみると、やはりというか早理佳の登場を見つけたやつがちらほらといるようだ。
「もう三年だしな、ダメモトでアタックしてみっかな!?」
「あ、アタックとかおいおい……」
源太はちょっと目を輝かせていた。
「おはよう、今年は三人そろったって感じだな」
「おっすー!」
「おはー」
増村 兵次が俺たちのところへやってきた。
身長が高いバスケットボール部だ。髪は俺らよりちょい長いかな? 長すぎることはないけど。
男子の中では落ち着いた方で、身長も高いことから密かに女子たちの中では人気があるらしいが、果たして。
それはともかく源太と三人でしゃべることも多い仲いいやつだ。テレビ・アナログ問わずゲームの知識が豊富で、たまに教室で楽和とバックギャモンをしていることがある。本職の楽和と張り合える兵次はすげーな。
「なぁ兵次、今年はあの結本居と同じクラスだぜ! なぁなぁ!」
テンション上がってる源太。
「そうだな。仲良くなれるチャンスじゃないのか?」
「くぅ~! 仲良くなれっかなぁ! あーだめだ我慢できねぇ! オレちょっと声かけてくるわ!」
源太は勢いよく早理佳のところへ向かった。
「今年はいつも以上にあいつの結本居さん話を聞きそうだな」
「まったくだ」
(俺も今年仲良くなれゲフゴホン)
源太と早理佳がしゃべっているのを俺たちは眺めていた。