第一話 お得を狙って早起きしたわけじゃなく
「もう行くの? いつもより早いわね」
「ぼーっとしててもしょうがないし」
うちの母さん、空元 栄美。ちなみに父さんは空元 明太郎。あと高校二年の姉ちゃんがいて空元 晴絵。この四人家族だ。
父さんと姉ちゃんはすでに仕事と高校で出発している。
「いってらっしゃい」
「いってきまーす」
俺はいつもより十分近く早く家を出た。
吹奏楽部に入っているが、朝練があるのは月曜日だけ。昨日の始業式の日は月曜日だったんだが、始業式やマラソン大会とかみたいなイベントが入っているときやテスト期間中は例外で、朝練も放課後の部活もない。今日から通常営業って感じだな。
(んー、早理佳が同じクラスかぁ~……)
昨日からずっとそのことが頭の中を駆け巡っていた。部活がなかったから早理佳と接する機会もなかったし。あの後行われた席替えでも遠かったし。
(にしても源太はいきなり飛んでったな。さすがだな)
そんな感じで頭の中でごちゃごちゃ考えながら家の敷地から出て学校の方向へ歩き出した。
(ってか俺だって昔は早理佳としゃべってた時期あるんだし、部活も一緒なんだから声かけるくらい普通なんだけどな……)
いつの間にか早理佳に声をかけるのが緊張するようになってしまった。
ここは団地の中でも端の方だ。車も人通りもかなり少ないが、しばらく歩けば学生たちが歩きまくっている通りに出る。
「市雪くん?」
(ん~早理佳かぁ~。これから班とか一緒になってしゃべる機会が出てくるんだろうかー)
「市雪くん、だよね?」
(おやおや幻聴まで聞こえてきたぞ。あまりに考えすぎて寝不足なのかもしれないな)
「市雪くん」
俺の左肩が優しくたたかれたようだ。あーなんだそんなに俺ぼけーっとしてんのかな。はぁ。
「なにか悩んでいるのかな……? 大丈夫?」
「ああ大丈夫。ちょっと考えごとしてたくら…………ぇ?」
俺は立ち止まってゆっくり振り返った。
(………………え?)
「考えごと? やっぱり悩んでいることがあるのかな」
とりあえず俺は目をごしごしすることにした。
改めて見てみたが、目の前に見えている人に変化はなかった。
夢かなって思って右ほっぺたつねってみた。痛かった。
「あ、おはよう、だね。市雪くん」
その瞬間、俺の心臓は大変なギアの上げ方がなされた。
(え! ちょちょちょうぇーーー?! さ、さささ、さっ、さっ…………)
「うあ! あ、お、あ、お、おはあ……」
(早理佳がなんでここにいるんだあーーー!?)
間違いない、間違うはずがない! この顔この髪このたたずまい、そしてこの声。早理佳だ……結本居早理佳がそこに立っている!
(えっ! まてまて! じゃさっき肩にあった感触って……まさか!?)
早理佳はやんわり笑顔のすてきな表情だった。
「どんな考えごとをしていたの? 私で解決の力になれるかな」
「うぇ?! ああいやいや、大したことないから! 早理佳と同じクラスになって仲良くなれっかなって思ってただけだし! うあわばっ」
つい気が動転してしまっていたのか、思っていたことを本人に伝えてしまっていた!
「それが考えごとだったの? ふふっ、そうだね。仲良くしてね」
(ああ……まじか……ほんとに目の前に早理佳が……てか俺早理佳としゃべってんのか……)
しかも仲良くしてとか言われちった!
「こ、こちらこそっ」
早理佳の目を正面から見ちゃってるよ……。
「学校行こうっ」
「え、あ、そ、そうだなっ」
えっと、これはその、つまり……
(い、一緒に!?)
俺はぎこちなく脚を動かし始めたが、早理佳は俺のペースに合わせて歩き出したようだ。
(……今俺は。早理佳と一緒に登校している、というのか……)
早理佳とは、実は幼稚園から一緒の仲……なはずなんだ。
幼稚園のときにどんなことしたのかっていう記憶はほとんど忘れてしまったが、小学校でも三年生くらいまではよくしゃべっていた。昼休みに遊ぶこともあった。
ただそれは同じクラスだったからなのか、四年生でクラスが別になるとしゃべる機会がなくなってしまった。
そのまま五年生六年生とクラスが違ったままだったんだが……なぜかその別のクラスになった辺りから、早理佳のことが気になり始めたっていうかなんというか……。
特に六年生のとき、地域のよその小学校との合同の授業があって、早理佳は俺たちの学校の代表として授業の感想をマイク使って発表たんだ。そのしっかりした姿がすごく印象に残っていて、もっと早理佳のことを見てしまうようになっていた。
学童展で図工の時間に描いた絵の発表のときもつい作品を探すようになったし、委員会で一緒のやつになれればなぁとも思うようになった。外れたけど。
なんで三年生くらいまではあんなに普通にしゃべってたのに、それから先はしゃべりにくくなったんだろう。それでも俺は中学校に入学したとき、部活体験でいろんなところに回っていたら早理佳が吹奏楽部を考えていることを聞いて、俺も吹奏楽部を選んだ。音楽は嫌いじゃなかったし。そして同じ部活に入れた。
ついに早理佳と共通点を持てるようになったんだが……なんかやっぱり緊張してしまうというか、意識してしまうというか。結局部活でも遠くから見ることがほとんどだった。
それでもやっぱり同じ部活なので連絡することとかでしゃべる機会は少し増えた。早理佳は俺へ普通にしゃべってるようだし、俺は別に緊張なんてしなくていいはずなんだが……。
そんなこんなで中学三年生になり、最後の最後で同じクラスになれて、しかも朝っぱらからこうして一緒に歩いてるなんて!
(髪も顔もきれーだなー……)
こんな近くで顔見る機会ないからさぁ……てか本来は緊張してこんなに接近できない。しかし一緒に登校するとなって離れて登校するなんてのは変に決まってるわけで……。
身長は女子の平均くらいなんだろうか。俺は男子の平均よりちょっと低いので、女子より高いとちょっとほっとするというかなんというか。
「市雪くんのおうちって、あそこだったんだね」
「あ、ああ」
俺が家から出るところを見かけたのかっ。
「い、いつもこの道通ってたのか? 見かけたこと、ないよな?」
「ううん、今日はたまたま。いつも通っている道が今日電線の工事をするみたい。通ってもよかったみたいなのだけれど、なんとなくよけて別の道を歩くことにしたの。そうしたら市雪くんがおうちから出てくるんだもん」
部活以外の話題を早理佳としてるのか……ってかそんな流れでこの道を通って、しかも俺はその日に十分早く家出たとか、あまりに奇跡すぎる……!
「そ、そんな流れだったんだな」
「うん」
ほんと早理佳の声は、ちょっと高めで優しい感じでたまらな……ってさっきから俺緊張しっぱなしだなっ。
「早理佳は、いつも一人で登校……してるのか?」
「うん。登校してからお友達とおしゃべりしているよ」
「ふーん……」
今、早理佳としゃべっているのは俺か……。
「市雪くんも、いつも一人なの?」
「あ、ああ」
俺、自然にしゃべれてる……よな?
「じゃあー……」
早理佳こっち見てるっ。
「私もこの道通ることにしようかなっ」
なんと!!
「ななっ、なななんでだ!?」
「おしゃべりしながら登校するのって、ちょっと楽しいよね。それに市雪くんとなら、おしゃべりするの、楽しそうだと思ったから……」
(お、俺としゃべるの楽しそう、だと!?)
「た、楽しそう、かっ?」
「うん。朝、見かけたら声をかけてもいいかな?」
(早理佳から声をかけてくるだとぉー?!)
「そりゃもちろん……」
「よかったっ。よろしくね」
(うわー……笑顔の早理佳がこんなに近く……しかもこれからも朝から会えるかもしれないなんて……)
やっぱり夢なんかな。もっかい右ほっぺつねるか。痛ぇ。
「いよいよ三年生だね」
「そうだな」
「吹奏楽部にいっぱい入ってくれるといいよね」
「そ、そうだな」
「うまく部活紹介できるといいね」
「そうだ、な」
「ふふっ、そうだなばっかりだよ?」
「そうだなってあっ」
早理佳笑ってる。
主に部活の話をしながら俺たちは一緒に歩いていた。
「市雪くん、その……私から言い出しておいて、あれなのだけど……」
ちょっとだけ声のトーンを落としてしゃべり始めた早理佳。
「男の子と一緒に登校しているのを見られて、なにか茶化されるようなことがあったらはずかしいから……そこの曲がり角に来たら、私先に行くね」
確かにこの曲がり角までは学生はほとんど……というかまず見ないし、その角を曲がって少し進むと学生がたくさん歩いている通りに出る。
そうだよな、源太の言うとおり学年のアイドルとも言ってもいいくらいすてきーな早理佳が男子と歩いてたら、そりゃなんか言われそうだ。
「わかった」
「ごめんね。それでもまた一緒に登校してくれる?」
そんなのもちろん答えは!
「ああっ」
「ありがとうっ。それじゃあ……またクラスでね」
「あ、ああ」
早理佳は少し早歩きになって俺から離れていった。その後ろ姿を眺めていると徐々にいつもの早理佳を眺めている距離だと思えてきた。
(こんなにしゃべったのいつぶりだよ……)
早理佳の髪は揺れていた。
教室にやってくると、早理佳はすでに座ってて桃としゃべってるようだ。
それをちらっと見てから俺は自分の席に座る。席替えはあったが、左からふたつめ後ろから二列目と、席替え前とはあまり位置は変わらなかった。
「いよっ!」
「うぃ~」
ただ源太が左隣の席になった。
「なぁなぁ今年の一年で吹奏楽部にかわいい子いたら教えてくれよ! な!」
「んなもん知るかよー自分で見て判断しろよー」
「音楽室とか入れねーだろっ? なぁ頼むよ!」
「知らねーよー。てか早理佳のこと言ってたんじゃないのか?」
「それはそれ! これはこれ!」
「あそ」
よくわからないがそういうことらしい。
「やあ!」
「ん? おお楽和、おはー」
「いよーっ」
細平 楽和が声をかけてきた。
髪は長く腰近くまであるんじゃねーかな。身長がかなり小さいので集団を遠目で見ても楽和がどこにいるのかすぐわかるレベル。いやその集団が密集してたら逆に埋もれて見つけられないが。小学校高学年くらいからしゃべるようになった。
ノリが悪いわけじゃない。質問したことにはどんなことでも答えを返してくれる。打ち込むことにはとことんやる。自分の信念を貫き通す……女子の中でもなかなかの特徴を持ったやつで、こう事柄を並べると非常に優れている人物のように見えるだろう。
そんな楽和が所属している部活はなんとバックギャモン部。そう。このバックギャモン部に所属しているということが、いかに楽和にとってウェイトを占めているかが…………
「空元!」
「どした?」
「倉島!」
「なんだぁ?」
「二人ならこの局面、どうする!?」
楽和がでーんと俺の机の上に置いたのは、携帯型のバックギャモンボードだった! 銀色をベースに線や模様は黒色でできてるメタリックな感じ。
「黒が3・6を出した。どうする!?」
「んだよ細平ほんとこれ好きだなー。オレなら遠くにあるひとりぼっちの駒を一気に前に進めっかな!」
源太が駒を動かした。
「そうか。空元は?」
「俺はー……折り返し地点のところの駒を前に進めて陣を整えにいくかな」
俺も動かして説明した。
「なるほどな」
なにかの参考にはなったようだ。
「細平だったらどうすんだよ」
「私ならこことここを動かす」
「あえてそこ崩すのかー!」
少し進んだところにあるひとりぼっちの駒を合流させて、ゴール付近によっつ重なってる駒をひとつ動かすというものだった。
「でも参考になったぞ! よし」
楽和はそのままボードを持って去っていってしまった。
「あいつもあれ二年やって三年目なんだよな、部活」
「あ、ああ」
俺らからしたらただの遊びだけど、それを部活にするってなかなか疲れそうだと思った。でもいつも楽和はボード持ってうろちょろしてるから、やっぱやってて楽しいんだろうな。たぶん。
お、右隣の席になった奥街 露音が現れたぞっ。
「おはー」
「おはよう」
「いよっすー!」
俺を挟んで源太の声も左から飛んできた。
露音は髪が肩にかかる長さ。早理佳よりはちょこっと短い。身長は桃と同じくらいで女子の中ではやや高め。
はっきり物事を決めるタイプで、まぁ悩み事を相談しても一瞬で答えを返してくれるようなやつって感じかな。しゃべったらしゃべる前より情報がまとめられて返ってくる感じというか。あと目線がきりっとしてる。
小学校からすでにしゃべっていた。バドミントン部所属。最近見てないが、おうちがでかい。
「市雪は吹奏楽部よね」
「んぁ? ああ」
「わたくしの弟が今年入学したのだけれど、吹奏楽部に興味があるみたいなの。もし入ったらよろしくお願いよ」
「露音弟いたのか? 兄ちゃんいるのは知ってるけど」
「あら知らなかったの? いつつ上のお兄ちゃん、ふたつ上のお兄ちゃん、わたくし、そしてふたつ下の弟よ」
「多いなー。やっぱ家ん中にぎやか?」
「どうかしら。わたくしはこの家で育ったから、この家としては普通だと思っているけれど」
「まぁそっか。しかし四人かー。想像つかないな」
「上のお兄ちゃんは一人暮らしをして大学に行ってるけれど」
「ふーん」
大学、かー。一体どんなとこなんだろうか。
「おい奥街ー! きょうだいの中で一人女子ってのは、やっぱモテんのかー!?」
そんな源太の言葉に、露音は右手をほっぺたに添えてあきれ顔。
「あなた何を聞いているのかしら……かわいがってはくれたけど、それはきょうだいとしてじゃないかしら。あなたの言う意味とは違うと思うけれど」
「どんな感じのきょうだい仲なんだよーなぁなぁ!」
さらなるあきれ顔。
「そんなに気になるのなら弟に聞いて自分で確かめてきなさい。一年四組よ」
「おっしゃ! その言葉どおり休み時間にチェックしてやるぜえ!」
源太元気だなー、はは。
「音楽の経験とかがあるのか?」
「いえ、ないわ。スイミングと体操はしていたわ」
「バリバリ体育会系じゃねーか」
「そうなのよ。六年生のときから急に興味を持ち始めるようになったわ。テレビの影響みたい」
「あーそっちかー。おととしあの番組始まって、去年新入部員たしかに多かったな」
全国の個性的な吹奏楽部を特集していく番組で、みんなのはっちゃけてる様子がなかなかおもしろい。でもだいたい出てるとこは演奏がうまいとこばっかなんだよなぁ。お、俺たちだって頑張ってるつもりだぞっ。
「もし入ったらお願いよ」
「おっけ」
露音はちょっとにこっとした。でも基本的にはきりっとした顔。
今日から一日のタイムスケジュールが普通になる。給食や掃除もあるし午後の授業や部活もある。
だが新一年生にとってはいきなり部活見学の一週間となるし、俺たち二・三年生は新入生を勧誘する一週間となる。
俺ら吹奏楽部は演奏者なんて多ければ多いほどいいので、たくさん入ってもらえるように気合を入れている。
今日はランチルームや音楽室などのある特別棟と普通の教室などがある旧棟の間にある渡り廊下で二曲演奏を披露する。それが済み次第、空いている教室や音楽室などで楽器の体験会を行う。
なお明日は午後の授業の時間から体育館で部活紹介の時間があって、三年生がステージ上で軽く演奏する。
(早理佳の横で失敗するわけにはいかないよなぁ……)
明日のことは考えただけで緊張しまくりだ。まぁ今日の渡り廊下の演奏も少しは緊張するけど。
渡り廊下の演奏をしている間、一年生たちは結構聴いててくれてたと思う。
曲の合間に津山が「吹奏楽部よぉっしくおねっしぁーす!」と声を張りながら女子部員たちが作ったビラを配ってた。早理佳は陣形の配置上俺より後ろにいるので演奏中はよくわからない。
演奏が終わり、楽器体験することをアナウンス。おー移動に結構一年生ついてきてくれてるじゃんっ。おっと早理佳が男子としゃべってるぞ? 男子部員は貴重だからな。
楽器体験が始まった。放課後となったことによる二年生の空き教室で俺は後輩三人と一緒にサキソフォーン体験ゾーンを作った。
髪がくるんとなってる二年女子、樫野 穂夏は普通な大きさであるアルトサックスで一人デモ演奏みたいなのをしてる。はっきり言って俺よりうまいと思う。
髪が短い二年女子、辺井戸 智はこの学校にあるサックスの楽器の中では最も大きいバリトンサックスを首から下げたストラップに掛けて、廊下でサックス体験やってますアピールをしている。はっきり言って俺より力持ちだと思う。
髪が肩より長い二年女子、新林 真緒子はにこにこしつつあたふたしつつ唯一縦長直線な形のソプラノサックスやアルトとバリトンの間の大きさとなるテナーサックスの体験を一年生にしてあげている。はっきり言って俺より頑張り屋だと思う。
で。俺はアルトサックスの体験係だ。俺いなくてもいいんじゃね?
「あ、もしかして市雪先輩ですか!?」
「あ、ああ。そうだけど?」
男子の一年生がやってきて、俺にそう声をかけた。ネームプレートを見ると、
「ひょっとして、露音の弟?」
「そうです! お姉ちゃんからサックスに市雪先輩って人がいるって聞いてました! 奥街隼人です!」
一年の色は濃いオレンジだ。ネームプレートに入っている線も上靴も。
「ど、ども。俺は空元市雪。よろしく」
「よろしくお願いします!」
俺とほとんど同じ身長のこの男子学生が、露音の弟だった。うん、二年下なのにはっきり言って俺より相当しっかりしてると思う。俺の存在価値って一体。
「露音からスイミングと体操だっけ? をしてるって聞いたけど、吹奏楽に興味を持ったんだって?」
「はい! いいなって思います!」
さすが露音の弟とも言うべきか、表情がはっきりしている感じだ。
「そうか。どの楽器をしたいとかはもうある感じ?」
「形はテレビで見たことありますけど、体験してから考えます!」
「それもそうだな。よし、じゃあまずはこいつから……」
そんなこんなで今日の体験会はトラブルもなく終えることができた。俺たちは音楽室へ帰ることに。うん、俺の存在価値は荷物持ちだった。首からふたつストラップ下げてアルトとソプラノ両手持っている。しかし俺の分の譜面台は真緒子が持ってくれているので、やはり俺の存在価値とは?
「市先輩、今年はサックス何人入るんですか?」
歩きながら穂夏が聞いてきた。
「さあー、全体で何人入ってくるか次第だろうけど、俺らはすでに二年が三人もいるから、次は一人なんじゃないか?」
「一人なんだー。空先輩は学年でサックス一人ってさみしくなかったー?」
次は智が聞いてきた。
「別にないかな。てか後輩すでに三人いるし、先輩も二人いたし、ふたつ上の先輩も二人いたし」
「吹奏楽部にいっぱい来てくれるといいですね、空元先輩っ」
「そうだな」
とくれば真緒子も聞いてきた。
「あたし結構呼び込みしたよー!?」
「あたしも適当に吹きました」
「わ、私も説明頑張りましたっ」
「穂夏はデモ演奏、智は呼び込み、真緒子は丁寧な説明……俺いる?」
試しに聞いてみた。
「市先輩はまとめ役ですよ」
「空先輩いたらおもしろいよー!」
「空元先輩いなかったら困ります!」
クールな穂夏、元気な智、気合入った真緒子。
「みんなばらばらだなおいっ。でもまぁ三年として頑張るんでよろしく」
「お願いします」
「よろしくぅー!」
「よろしくお願いしますっ!」
三年生らしく、先輩らしく!
部活版帰りの会みたいなやつして、楽器片付けて部活終ーわりっと! さーて俺は帰るぞー。
ついでにちらっと早理佳を見てみたが、パーカッションパートでおしゃべりしているようだ。
(それにしても、今日は早理佳と一緒に登校とか……ちょっとだけだったけどやたら緊張したなー)
なぜか早理佳と近いときは緊張してしまう。早理佳と同じ部活したいと思って入ったのに、一年二年とそんなにしゃべる機会なかったなぁ。もちろん部活が違ったらその機会すらもなかったから、入ったことはよかったんだろうと思うけど……。
(なんかこう、緊張してうまくしゃべれないんだよな)
いろいろしゃべりたいはずなのに、いざ本番になるとうまくしゃべれない。脳内リハーサルではまぁまぁな結果を出せているはずだというのにっ。
(てかさ。本当に早理佳はこれからも俺と登校してくれるんだろうか? あれは本当なのか?)
一緒の部活に入ったとはいえ、パートが違うこともあって二人っきりでしゃべるなんてほぼなかったし……あったとしても部活の内容のことをちょっとってくらいだったろうし……でも登校を二人でってなると、部活じゃない話も出てくると思うし……。
(んぁ~。とにかく明日、早理佳いんのかなぁ……)
明日は体育館での部活紹介ステージ。そこも緊張するし、朝早理佳に会えたらそれも緊張する。




