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22/22

占いなんてあてにならない

アイドルとはオーダーメイドの歯車のようなものだ。

尤もこれはアイドルに限った話ではなくメディア全体に同じことが言える。

隆盛を誇り番組をいくつも抱える人気司会者、曲を出せば必ず売り上げ一位を記録するアーティスト、そして握手会に長蛇の列をつくるアイドル。

彼ら彼女らは誰にも真似できないオリジナルであると同時に代わりなど腐るほどいるパーツでもある。

人気司会者が不祥事や病で番組を降りても後釜のMCは用意できる。

アーティストがスランプに陥って曲を創れなくなってもチャートは埋まる。

アイドルが卒業してもファンは逞しく次の推しを見付ける。


………つまり何が言いたいのかというと、自分が今いる立ち位置は代わりになれる誰かを押しのけて得ているものだということだ。


だから私はステージで手を抜いてはいけないのだ。

楽しみにしているファンの為に、自身のチャンスを逃さない為に、チャンスを奪ってしまった誰かの為に。


だがそんなものは自ら望んでアイドルになった私の都合でしかない。

同じことをミサキに求めるのは只の我が儘というものだろう。

アイドルになることを望んだ凡才(わたし)とアイドルになることを求められている天才(みさき)

モチベーションも境遇も異なる私のパートナー。

きっと私はその違いが浮き彫りになることが怖くて彼女と深く話し合うことを避けてきた。

偽りの恋仲、業務命令の百合営業、そんな言い訳を盾にして上辺の関係を甘受した。

結局のところ彼女の才能を恐れ、ぶつかることを避けた結果が今日のライブなのだ。


(………なんだ、結局私のせいじゃない)


そんなことを考えながら帰路に着く。

コンビニで買った傘はサイズが思ったよりも小さくパラパラと身体を濡らす。

一応ハンドタオルで身体を拭きはしたが早くマンションに帰ってシャワーでも浴びたいところだ。


ミサキはもうマンションに戻っているだろうか?

こういうことは勢いが大事なのだし、アヤちゃんにもらった勇気をそのままに話し合いたいところだ。

速攻でミサキに今日のことを謝ってまた一から始めよう。

信頼関係の構築も、天才(みさき)に並び立つ為の努力も、自覚してしまった初恋も。

………足を止めて深呼吸、震える手を止める。

ミサキが唯一の大切な人だと自覚したのなら腹を括れ。

怯えて逃げ出しても代えなんてきかないことはアヤちゃんに教えてもらっただろう。

………もう一度、深呼吸をついてマンションへ向かう足を速める。収まれ私の心臓の音。

考えてみればあんな剣幕で別れたのだ、顔を合わせ辛いのはミサキも同様だろう。


(というか……ミサキのなかでは私未だに激おこプンプン状態だろうしな……………ヤバいなぁ、どうやって仲直りするのかノープランのままだよ)


せっかく覚悟を決めたようでも少し考え込んでしまえば不安は増し増し。

不安定時の精神状態なんてこんなもんですよ。

いっそのこと携帯端末で謝っちゃうか?……………いやいや、流石に向き合って言わなくちゃいけない言葉だよね?……………ああ、でも不安だなぁ………


「………ックシュン!!」


ヤバい、ぐずぐずしてたら身体が冷えちゃうわ。

ミサキが帰ってなかったら先にお風呂沸かしちゃうかね、うん、ついでにご飯も作っちゃおう。

必要と有らば必殺のフレーズ、ご飯にする、お風呂にする、それとも………という展開だってやぶさかでもない訳だし。

確か卵はあったよね?冷飯も余ってたからオムライス作っちゃおう。

ああ、でもなんだか食欲ないかな、桃の缶詰めとか食べたいかも………


「あ、蒼井夕陽さんだぁ。ふふ、ライブの帰りですかぁ?」


そんな思考は掛けられた甘い声に遮られる。

気付けば私の目の前にはいつか美咲とデートした時に出会った女性が立っていた。





私は別に占いとかを信じるほうじゃない。

ただ試験の前やライブ当日等の大事な日にはちょっと注視して良いところだけ信じる、という平均的日本人スタンスである。

確か今日の双子座A型の運勢は、


――――今日最もよい運勢―――――――


やることなすことすべてが思い通り上手くいく日☆

特に恋愛運は最高潮!!素敵な出会いが貴方を待っています☆☆

恋人がいる人は更に絆が深まる日になりそうです!!!

絶好のチャンスが訪れるのでものにしてステップアップしちゃいましょう☆☆☆


ラッキーアイテムはお気に入りの楽曲!!!

ラッキーパーソンは変わった名前の友達☆☆☆


――――――――――――――――――――――



…………うん、明日から占いのチャンネル替えよう。

見当違いにも程がある、ひょっとして天中殺なんじゃないの?今日の私。




「あらぁ?美咲は一緒じゃないのぉ?同棲してるんでしょう、喧嘩でもしちゃったのぉ?」


まとわりつくような甘い声でミサキとのデート中に出会った女性が話し掛けてくる。


「ふふふ、ねぇ、今時間あるかしらぁ?私の美咲がお世話になっているみたいだから、折角だし色々話してみたかったの」


そうしてその女性は蛇のようにするりと無造作に私へと近づき、耳元に寄せた唇でこうささやく。




「なんで美咲が今日のライブで手を抜いたのか、教えてあげる」

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