第1話 私のクラスの大仏君
私、大和撫子は、奈良市にあるごく普通の高校に通う一年生。
だけど、一つだけ普通じゃないことがあります。
「はい、この問題。じゃあ、廬舎那」
「先生。答えとは、与えられるものではなく、自ら悟るものなのです」
「いや、お前が答えろ」
私のクラスには、大仏がいます。
名前は廬舎那仏像君。私と同じ高校一年生。
体は普通の高校生。でも、顔だけは完全に奈良の大仏なんです。
◇ ◇ ◇
「おい、廬舎那。昨日のドラマ見た?」
「ええ。人間の業の深さを感じました」
「いや、昨日の恋愛ドラマやぞ?」
「だからこそです」
「何があったんや、お前」
一応ドラマは見てるらしい。家にテレビあるんだ。
そんな大仏君にも、苦手なことがあるみたいで。
「お前って苦手なこととかあるん?」
「じゃんけんですね」
「なんで?」
「どうしても、相手に勝利をお譲りしたくなりまして」
「じゃあ、いつも負けるん?」
「いえ。毎回、手を合わせております」
「それ、じゃんけんちゃう。合掌や」
ちなみに、毎回不戦敗です。
「逆に得意なことはなんなん?」
「写真撮影ですね」
「お前、写真撮られるの慣れてるよな」
「ええ。長年、多くの方々に撮影していただいておりますので」
「でも、お前いっつも同じポーズやん」
「得意な角度というものがございます」
「千年以上研究してそれかい!」
ちなみに、集合写真では必ずセンターにいます。
本人の希望ではありません。なぜか、みんなが自然と左右に並ぶんです。
「廬舎那君って、なんでいつも真ん中にいるの?」
「私にも分かりません。ただ、皆様が道を開けてくださるのです」
「……廬舎那君、それだとモーセみたいやね……?」
◇ ◇ ◇
ある日、私は友達と些細なことで喧嘩をしてしまいました。
一緒に帰る約束をしていたのに、友達がその約束を忘れてしまったのです。
つい腹を立てた私は、思ってもいないことまで口にしてしまいました。
友達にも悪いところはあった。でも、私も言いすぎた。
放課後、いつもなら一緒に帰る友達の姿は、もうありません。
謝りたい気持ちはあるのに、どうしても素直になれない。
そんな自分が嫌で、私は一人、教室に残っていました。
……いえ、正確には一人ではありません。
教室の隅で、廬舎那君が写経をしていました。
「廬舎那君、なんで写経してるの?」
「文字を一つひとつ書き写しておりますと、心が穏やかになるのです」
「……廬舎那君でも、嫌なこととかあるの?」
「もちろんです。心が乱れることは、誰にでもございます」
「……そっか」
「大和さんも、何か心に引っかかることがおありですか?」
「実は……」
私は、友達と喧嘩したことを廬舎那君に話した。
自分にも悪いところがあったこと。本当は仲直りしたいのに、どうしても一歩が踏み出せないこと。
廬舎那君は写経の筆を置き、ただ静かに私の話を聞いてくれた。
「そうですか。大和さんは、これからどのようになさりたいのですか?」
「え? もちろん仲直りしたいよ。せやけど……」
「怖いのですね」
「……うん。謝っても、許してもらえへんかもしれんし」
「そうですね。人の心は、思いどおりになるものではありません」
「……」
「ですが、大和さん。相手の心を変えることはできなくとも、ご自身の行いを変えることはできます」
「自分の行い……?」
「ええ。大切なのは、許していただけるかどうかではなく、あなたがその方に何を伝えたいか、ではないでしょうか」
「……私が、伝えたいこと」
「はい。答えは、すでに大和さんの心の中にあるように思いますよ」
「私の中に……そっか。せやな! どうしたいかなんて、もう決まってるし! ありがとう、廬舎那君! さすが大仏やね!」
「大和さんの行く末に、幸多からんことを」
◇ ◇ ◇
翌日、無事に友達と仲直りできた私は、廬舎那君に報告した。
「廬舎那君! 昨日はありがとう! おかげで仲直りできたよ!」
「それは何よりです」
「本当にありがとう。廬舎那君のおかげやわ」
私は思わず、廬舎那君の前で手を合わせた。
「……あれ?」
気がつくと、周囲のクラスメイトたちまで手を合わせていた。
「なんでみんな拝んでんの!?」
廬舎那君は、いつもの穏やかな表情で答えた。
「皆様の心に、仏が宿ったのでしょう」
……いや、単に顔が大仏だからだと思う。
◇ ◇ ◇
私のクラスには、大仏がいます。
顔は奈良の大仏そのもの。
じゃんけんでは合掌するし、写真を撮れば必ず真ん中。
ちょっと変わっていて、何を考えているのか分からないこともあります。
でも――。
そんな大仏君が、私は結構好きです。
もちろん、恋愛的な意味ではありません。
仏様に恋愛感情を抱くほど、私の業は深くありませんので。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
新作の学園コメディ『私のクラスには、大仏がいる。』、いかがでしたでしょうか?
今後も大仏君と撫子ちゃんの、ちょっと不思議で心温まる日常を、一話完結形式でお届けしていく予定です。面白いと思っていただけたら、評価やブックマークで応援していただけると嬉しいです!
ちなみに、大仏君は今日も平常心です。合掌。




