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第13話 元上司の口止め提案
早乙女が私を呼び出したのは、その日の夕方だった。
場所は地上の応接室。わざわざ上等な茶まで出してくるあたり、話の汚さが見える。
「三谷くん。君の働きは評価している」
「異動させたばかりなのに、よく言えますね」
「感情的になるな。君を窓口主任へ戻す話もできる」
条件は一つ。地下四層の仮棚と、渉外便のコードの件をこれ以上追わないこと。
「姫野くんも若い。少しくらい功を焦ることはある」
「焦って人の人生を踏んでも?」
早乙女は肩をすくめた。
「窓口係なんて、替えはいくらでもいる」
その瞬間、怒りより先に、妙な静けさが来た。
「だから返すんですよ」
私は椅子から立った。
「失くされた物も、踏まれた順番も、ちゃんと持ち主へ」
上等な茶は一口も飲まずに部屋を出た。




