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【書籍2巻発売中】ノブリス・レプリカ ―元“貴族殺し”の傭兵少年、学園都市に嫌々入学させられる―  作者: アマサカナタ
4章 誰がための責務編

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3-3 アーサーって……誰っすか?

「アーサーって……誰っすか?」

「いや、俺も知らん」


 すっとぼけたたわけでもなく大真面目にそう返答した時の、リムの反応がこれだった――アニキが名前出したんでしょうが。

 ようするに、しかめ面である。


(つったってあいつ、名前以外なんも言ってこなかったぞ?)


 助けを求めたわけでもないが、そういうわけでムジカは素直にアルマのほうを見やった――のだが。


「…………」

「? どうした?」


 そちらにあったのもしかめ面だったので、ムジカはきょとんとそう訊いた。

 気になったのは、しかめ面はしかめ面でも、アルマのそれは少し深刻そうに見えたことだが。

 彼女はその表情のまま、重々しく言ってきた。


「……まさかキミ、本当に適格者とか言うんじゃないだろうね?」

「それが何なのかもよくわかってないが。システムは否定してたんだろ? 昨日だって確認させられたし」

「その件は聞いた。システムは確かにキミを否定しているんだがなあ……」


 釈然としない、というより明らかに納得のいっていない様子でアルマがぼやく。

 そうして最終的に彼女はこちらに視線を向けると、露骨にため息をついて、


「今ならリム君の気持ちがよくわかる気がするよ。キミね、本当にわけのわからない事態を平然と引き起こさんでくれんかね」

「なんで俺が悪いみたいな言い方なんだ? 俺、今回はなんも悪いことしてねえだろが?」

「何もしてないのに何かが起きたのなら、それはそれで大問題だと思うんだがね」


 反論に呆れ顔で言い返されて、思わず口をへの字に曲げるが、それはともかく。

 またため息をつくと、今度は真面目な顔をしてアルマは説明を始めた。


「アーサーというのは死人だ。今から数百年前――空歴が始まるまさにその直前。メタルに特攻を仕掛け、メタルの核個体の機能破壊を達成した人類の守護者。そして、本来なら人類を救うはずだった〝救世主のなりそこない〟。直接の繋がりはないが、管理者と調律者の遠い親戚だよ」

「……? なんでそんな人の名前が、今出てくるんです?」

「<デューク>に、彼のメッセージが遺されていてね。条件を満たした者が<デューク>を起動した時にだけ、そのメッセージが再生されるようになっているんだ」


 リムの質問に答えてから、先を続ける。


「メッセージを見るための条件は三つだ。一つ、管理者の血を引く者。二つ、調律者として完成している者。そして三つ目が……先の二つの条件に当てはまらず、かつ<デューク>を起動できるだけの魔力適正を備えた者。この三番目に該当する者のことを〝適格者〟と呼ぶんだが……」


 と、そこでアルマがこちらを見やった。

 先ほどと同じような納得していない顔で言ってくる。


「キミ、先祖に管理者か調律者の血縁がいたりしないかね?」

「いや、ない。よな?」

「あーしに訊かれても知らないっすよ、そんなこと。父さんに聞けばわかるかもっすけど……」

「仮に血縁がない場合、アーサーのメッセージが開示されるのは三つ目のパターンしかないんだが?」

「でも俺、<デューク>動かせるほどの魔力適正はねえぞ?」


 ムジカの適性は<カウント>までだ。無茶をすれば短時間なら<マーカス>まで手が届くが、そこが限界だ。<デューク>を動かすまでは至らない。

 何より、システムがムジカを適格者ではないと否定しているのだ。矛盾しているのは承知しているが……

 と、アルマが論点を変えてくる。


「キミ、アーサーになんて言われた?」

「あん?」

「だから、メッセージだよ。アーサーのメッセージには〝深度〟があるんだ。管理者、調律者――そして最後に適格者の順番で、条件に適合した者へメッセージが開示される。私が聞けたのは調律者までだった。キミはどこまで聞いたんだ?」

「どこまでって言うと、多分最後までか? なんか……すっげえおっかねえ顔で、〝誰だお前〟って言われたけど」

「……は?」


 その瞬間のアルマの顔は――なんというか、見物だった。

 ぽかーんと。予想外の方向からなんか飛んできた、とでも言うような顔でしばし呆然とした後、繰り返す。


「……だれだおまえぇ?」

「おう。誰だお前」

「明らかに埒外な反応してるじゃないか。何したらそんな反応が返ってくるんだね?」

「大昔に、アニキの滅茶苦茶に付き合わされた人がいたんすねえ……」

「だーから、俺のせいじゃねえって!!」


 口々に好き勝手言う女二人に叫び返すが、明らかに二人が納得した様子はない。 

 アルマなど、露骨に呆れ顔を浮かべてこう言い返してくる始末である。


「とは言うがおかしいだろう、メッセージにそんなのが残ってるなんて。まさかとは思うがキミ、適当なこと言ってるんじゃないだろうね?」

「んなわけねえだろ、マジで言われたんだって。管理者と調律者宛てのメッセージだって、確かに聞いたぜ?」

「ほー。なら言ってみたまえ。答え合わせしようじゃないか」

「細かくは覚えてねえからざっくりだけど……管理者宛ては要約すれば〝役割果たせ〟だろ? んで調律者宛ては……何か知らんが説教みたいなやつだったな。キミは賢くて大変だろうけどがんばってね的な」

「ざっくりとしすぎではあるが……なんで正解を知ってるんだ?」

「だから、聞いたんだっつーの」


 どうしても信じたくないらしいアルマに、そろそろムジカも半眼を向けるが。

 不意に何かに気づいたらしい。彼女はハッと顔を上げると、真剣な顔でムジカに言ってきた。


「待った。キミ……まさか、適格者あてのも聞いたのか?」

「あん? ああ、まあ」

「なんと言っていた?」

「確か……人類を救うのは君だ、とか、俺たちは君に託す、とか。たまたま選ばれたのが君だった……とか」


 と、はたと思い出して呟く。


「具体的なことは何も言ってなかったな、そういや」

「そしてキミは、何も受け取らなかった?」

「ん? ああ」


〝誰だお前〟の反応を信じるのなら、あのメッセージにムジカが辿りつくこと自体がイレギュラーだったのだろう。適格者に託すとアーサーは言っていたが、ムジカは何も受け取っていない。

 確かめたかったのはそれだろう。アルマは考え込むように口元に手を添えて、何事かを呟き始める。


「ならやはり、キミは適格者ではないのか……? 浮島側のシステムが反応しなかったのは、イレギュラーが原因? だがそれなのに何故〝スバルトアルヴ〟はキミを――」

「……あのー」


 と――不意に差し込まれた声に、きょとんとムジカはそちらを見やった。

 リムだ。これまでほとんど聞いてばかりだった彼女だが、申し訳なさそうな顔で言ってくる。


「すみません。その……さっきから話に出てくる〝適格者〟って、何ですか? 私、それは聞いた覚えがなくて……」

「あ、ああ。すまないリム君。そういえば説明してなかったね」


 言われてはたと思い出す。適格者がどうこう自体はスバルトアルヴの件とは何も関係ないから、リムは知らなくて当然なのか。

 コホンと咳ばらいを一つ置くと、アルマが口を開く。


「適格者というのはね。簡単に言ってしまえば、この空を終わらせる者のことさ」

「この空を……終わらせる?」

「そう。地上にいるメタルの核個体――オリジナル・メタル・ユニットを()()()()()してメタルの全機能を停止し、地上を人類の手に取り戻す。その力を持ち、それを成し得る者のことだ。人類を救う者、と言ってもいいかもしれないね」

「……人類を、救う……」


 どこか恐れを含んだ声音で、リムが繰り返す。

 そうして噛みしめるように黙り込んだ後――

 唐突に彼女はこちらを見やると、首を傾げながら言ってきた。

 

「アニキが……人類を救う……?」

「おう。その〝これが?〟みたいな顔すんのやめーや」

「いや、でも。アニキっすよ? 人類救うようなガラっすか?」

「へーへー、どーせ俺はそんなガラじゃねーよ」


 としか言いようがない。ふてくされるようにムジカは唇をへの字に曲げた。

 が、まあ実際に言う通りだとは思う。そういうのは明らかに〝ノーブル〟の仕事だろう。日がな好き勝手している傭兵の自分が出る幕ではない――

 と。


「……そうだろうか?」

「え?」


 不意に聞こえたその声に、リム共々きょとんとそちらを見やった。

 呟いたのは当然というか、アルマだ。それは思わずついて出た独り言のようだったが。

 その呟きのせいで注目されるとは思っていなかったらしい。視線が集まっていることに気づくと、慌てて否定を口にした。


「あ――い、いや、なんでもない! 今のは……独り言! ただの独り言だ、うん。き、気にしないでくれたまえ!」

「…………」


 その慌てようにか、あるいは恥ずかしそうに頬を染める、彼女の様子にか。何やら思うところがあったのか――

 急にぐりんとこちらを向いて、リムが言う。


「ねえアニキ。スバルトアルヴで本当に何にもなかった?」

「あん? それさっきも答えただろ? 何もなかったよ」

「本当に?」

「んだよ。何をそんなに疑ってんだ?」


 明らかに信じてない様子のリムに、思わず眉根を寄せて訊き返す。が、返答は不服そうな「……べっつにー」だったので、ムジカはそれ以上の追及はやめた。明らかに藪蛇の匂いがしたからだ。こういう時は何も言わないに限る。

 なんにしても、そこで何かをごまかすように咳ばらいをして、アルマが言う。


「ま、まあ……細かい話はこの辺でいいかな。適格者なんてものは、こう言っては何だが私たちが考えることではないしね。どこかの誰かがぽっと生まれてくるのを待つ以外に、何かができるわけでもないし」

「それもそうだな……つーか、なんでこんな話になったんだっけ?」

「スバルトアルヴの連中が何故ゼロポイントを目指したのかの話をしていたら、君が知るはずのない適格者のことを言ってきたからだね。おかげで随分と脱線したよ」

「俺のせいみたいに言うんじゃねえ。で? 結局俺たちは調査隊の仕事の合間に、〝炉〟のデータ消すためにあんたのフォローすりゃいいんだな?」

「うむ」


 よろしく頼むよ、と微笑むアルマに頷いてから、視線を前方へと向ける。

 ブリッジから見た空の先に、浮島スバルトアルヴの姿が見えた。

3-3章更新です。


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25/5/31
6月17日発売予定の書籍版ノブリス・レプリカ、書影が公開されました。
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