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3-1 それが私の研究目標――すなわちロマン!!

 実技演習終了後。

 あの後現地解散となったムジカたちは、そのままアルマに捕まって、彼女の後をついて歩いていた。目的地は錬金科棟の、彼女の研究室だという。

 どうしてムジカとリムだけ彼女の後を歩かされているかというと、ムジカとリムだけ、既にどの研究班に配属されるかが決まっているからだ。


「――ま、要はキミたちに面倒をかけないようにっていう配慮なわけでね」


 先を行くこのちみっこい先輩は、外観に似合わぬどこか尊大な物言いで、ムジカたちにその説明しはじめる。


「キミたち、元は傭兵なんだろう? 私以外の他の研究班は、既にいろいろ人員を抱えていてね。元傭兵のラウル講師に、錬金科のくせに実戦慣れしてるキミ、特待生のリムくんをそんなところに突っ込むと、面倒くさそうな気配がしたらしい。そんなわけで、キミたちは生徒会長命令で、私の班に配属されることになったというわけだよ」

「はあ……」


 としか言いようがない。リムと一緒にアルマの後ろを歩いているが、ムジカの理解は置き去りにされたままだ。

 そういえば、とふと思い出して、ムジカは腕時計型の情報端末を操作した。探したのは、研究班の情報だ。今朝のオリエンテーションで、研究班の資料は後で渡すとアルマは言っていたが。

 果たしてその通りに送られてきていた資料を、ムジカは展開した。

 中に目を通すと、研究班ごとに目標や実績、メンバーの紹介などがそれぞれ好き勝手記載されている。

 ペラペラと情報を送っていくと、アルマ班の紹介も確かにあった――ただし扱いは小さい。所属メンバーはアルマのみで、班名の横には<NEW!>の記載。どうやら新しく設立されたばかりの研究班らしいが。

 たった一文しかない研究班の紹介に、流石のムジカも眉根を寄せた。


「“目的:道楽”……?」

「む? ああ、私の研究班紹介か」


 流石に雑すぎるだろうとアルマを見やると、彼女はそれで正解だと言わんばかりの表情をしていた。


「ま、書いてある通りだよ。私の研究班は出来立てほやほやでね。私が好き勝手やりたいから申請してみたら、条件付きで通ってしまったというわけだ」

「あー……となると、その条件って言うのが」

「そ。キミたち傭兵団の受け入れだ」


 いい条件だと思っているのか、はたまた面倒ごとを引き受けたと思っているのか。不敵に笑うアルマからそれは窺い知れない。

 少なくとも、傭兵だからと邪険にする様子はなさそうだが……

 と、今まで黙っていたリムがムジカの服の裾を引いて、小声で言ってくる。


「……優秀な人っぽいっすね。三年生で研究班立ち上げたってことは」

「立ち上げの基準とかどうなってるのかわからんから、一概には言えんとは思うけどな」


 とはいえ、平均的ではなさそうではある。研究班紹介の資料を見ていると、班長は大抵七年や六年といった上級生が占めている。その中で三年の代表というのはアルマ一人だけだ。

 それを踏まえるなら、相当にできる人間なのだろう――この小さな背中は、どうにもそんなことを感じさせないが。

 背丈はリムに限りなく近いので、どちらかというとまだ子供にしか――


「む……? 何やら邪念を検知した気がする。何か変なこと考えたかね?」

「いや、まったく」

 

 しれっと言い返す。リムからも怪しむ視線が送られたが。

 そのまま歩いて学園まで戻ると、今度は錬金科棟へと向かう。

 錬金棟の校舎はノブリスの格納庫なども兼ねる都合もあり、他の校舎と比べてはるかに大きい。校舎には増改築の跡が随所に見られた。研究班の数は、資料を読む限り二十。それだけの班を共存できるようにするためかだろうか――


「ああ、つぎはぎだらけなのは、実験事故とかでやらかした者が多いせいだ。君たちも気を付けたまえよ、壁って簡単に壊れるからな」

「…………」


 つまりアンタも壊したんだな、とは察しても、流石に口にはしないでおいた。

 なんにしても、ここまで来れば目的地もそう遠くない。

 アルマの研究室は、棟の隅の更に隅にあった。まるで隔離されているかのような場所に、ぽっかりと倉庫めいた部屋が口を開けている。


 中に入ると、まず迎えてくれたのはデスクワーク用の空間だ。雰囲気は教室にも似ているが、部屋の隅に給湯室などがあったり、生活もできるようになっているらしい。

 部屋の右隅には大型のマギ・コンピュータと個人用デスク。そこでノブリスの設計や各種モジュールの調整をするのだろう。

 そして部屋奥、正面の壁だが。そこはガラス張りになっていて、その先は格納庫兼作業スペースになっている。

 遠目にでもわかるのは、部屋隅に置かれたガン・ロッドや各種モジュールの残骸と、まだ手を付けてない資材の山。逆側には設計データを流し込めば部品を吐き出すクラフトプリンタと、各種加工設備。

 およそ一般的な研究用のノブリス設計室といったところか。

 更に格納庫奥の壁面を見やれば、そこにはハンガーに懸架された<サーヴァント>が一機に――


「あれは……<ダンゼル>級?」


 まだ基礎スケルトンしかないノブリスの素体を見て、リムが呟く。

 と、感心したようにアルマが声を上げた。


「ほう。知ってるのかね?」

「はい。技術試験とかに使われるノブリスですよね? まだ研究段階の、形になっていない試験機をそう呼ぶって聞いたことがあります」


 リムの説明を聞きながら、ムジカもぼんやりとその素体を見やる。

 ムジカも、一応は知識で知っていた。リムの言う通り、<ダンゼル>級は厳密にはノブリスの等級ではない。“騎士見習い”の意味を持つその名は、試作機や理論実証機、いわゆるプロトタイプたちに与えられる称号だった。

 それがここにあるということは――


「あん――いや、ええと、先輩は――」

「ああ、話しやすいようにしてくれて構わんよ」

「んじゃ失礼して。あんたは、各部モジュールの新規設計を目的に研究室の立ち上げを?」


 許可が出たのでフランクに訊く。流石に目上にそれはどうなのかとリムが小突いてくるが、アルマは本当に気にしなかったらしい。

 それはともかくとして、目の前の<ダンゼル>だ。

 これまでの研究は、主に古代に作られたノブリスの製法の再発見に主眼が置かれていた。その実績として上げられるのが、<ナイト>級ノブリスの“再発見”だ。

 現代の技術者はその先――つまりは<バロン>級ノブリスの再現を目指して、魔道機関の研究を続けている。

 だがノブリスの研究はそれだけではない。ガン・ロッドやフライトグリーヴといった、各部モジュールについても性能向上のための研究が行われているのだ。

 格納庫のほうを見る限り、アルマはあまり魔道機関に興味を持っていないように見える。そのためムジカはてっきり、アルマもその口かと思ったのだが。

 返答は何というか、やる気のない否定だった。


「いや? 私はそんな、ちょっと頑張ってみましたー程度の発展には欠片も興味はないよ」

「え?」


 まだ何のモジュールもついていない、ノブリスの素体を見やりながらアルマは言う。


「やれ昔よりちょっと早く飛べるだの、やれ前のよりちょっと威力が上がっただのなんだの。バカバカしいと思わんかね――ちょっと、ちょっと、ちょっとだよ。まるで牛歩だ。大して変わってないんだよ。そんな程度で一喜一憂? はっ。退屈すぎて呆れが出るね。抜本的解決! それ以外に答えはないのに、今までの道程を一歩、一歩、また一歩? 時間の浪費だよ、それは」

「……じゃあ、あんたはどんなノブリスの研究を?」

「聞きたいかね? 決まってるじゃないか!」


 ふと気になったので、何の気もなしにそう訊いてみると。

 アルマは待ってましたと言わんばかりに相好を崩し、ばっと手を広げて叫んできた。


「私が目指したいのはただ一つ! “最強”のノブリスさ!!」

「最強の……」

「……ノブリス?」


 思わず繰り返す。

 意味は分かる。まさにそのまんまだからだ。だがだからこそ、何を言われたのかと一瞬頭が硬直する。

 だが疑問符をなぜか同意か肯定のように受け取って、アルマのボルテージはうなぎのぼりのようだった。


「そうだよ!! <キング>、<ヒーロー>、<ユニーク>、<メサイア>!! 伝説に語られる、英雄機を超える機体の開発!! それが私の研究目標――すなわちロマン!! そのためのノブリス!!」

「……はあ……」

「あ、ピンと来てないな!? なら見せてやる。構想はもう既に出来上がっている――これだ!!」


 言いながら、アルマはパッとどこかから設計パッドを取り出した。

 見せつけられたディスプレイには、まだ設計データしかないノブリスの姿がある。壁際のマギコンと繋がっているようで、壁面ディスプレイにも同じものが映り込んでいた。

 リムと二人で、まじまじとその“構想”とやらを見入る――が。

 

「ん? え? は……はあ? うわあ……」

「……………………」


 思わずそんなうめき声が漏れる。一方のリムはひたすら無言。どうやら言葉も出ないようだが、気持ちはムジカも理解できた。いきなりこんなものを見せられれば、誰だって絶句する。

 なにしろ、そこに書かれていたのは――

 言うなれば、“わたしのかんがえたさいきょーののぶりす”だった。

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25/5/31
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