第02話 聖女の役割
ひどい有様だった。
道端にも、畑にも、そこかしこに死体が放置されていた。
生ぬるい風が吹くたび、鼻をつく死臭が辺りに漂う。
麦畑も、半分以上が枯れていた。
残った穂も細く、とても実をつけているようには見えない。
この領地から、王都へ救援の要請が届いた。
本来、メアリが聖女として各地を巡るのは、学園を卒業してからの予定だった。
だが、今回は非常事態ということで、急遽この地を訪れることになった。
「聖女様……」
それでも、どうにか生き延びた人々は、メアリの姿を見つけると縋りついてきた。
誰もが痩せこけ、頬は落ちくぼんでいる。
それでも目だけは大きく見開かれ、救いを求めるようにメアリを見つめていた。
「お助けください、聖女様」
「子供だけでも……」
「どうか、どうか……」
メアリは歯を食いしばり、懸命に癒しの力を行使した。
けれど、無駄だった。
病ではない。
皆、飢えているのだ。
体を蝕む病を癒すことはできる。
傷を塞ぐこともできる。
だが、空になった腹を満たすことはできない。
私にはできない。
私には、私には……。
「聖女様」
「聖女様……」
それでも、人々は縋ってくる。
メアリならば助けてくれる。
聖女ならば、すべてを救ってくれる。
その目が、ただ、怖かった。
「うっ……」
込み上げてきたものを抑えきれず、メアリはその場に吐いた。
麦も同じだった。
まだわずかに命を残している穂なら、祝福によって立ち直らせることができる。
けれど、完全に枯れてしまった麦は戻らない。
死者が蘇らないのと同じように。
――それでも、残された麦を……。
メアリが目を覚ますと、精霊教会のベッドに寝かされていた。
どうやら、いつの間にか気を失っていたらしい。
村の家々を一軒ずつ回ったことは覚えている。
倒れた者に手をかざし、泣き叫ぶ子供を抱きしめ、枯れた畑で何度も祈った。
けれど途中から、記憶が曖昧だった。
メアリは教会に来た領主の使者へ、領主に会わせてほしいと訴えた。
だが、まだ正式な聖女ではないからと、遠回しに断られてしまった。
でも、領主様と話すことができたとしても、私に何ができただろう。
どうか、領民に食料を。
そんな、当たり前のことしか思いつかない。
それができるのなら、もうやっているはずだ。
怖い。
見えていたはずの道が、見えない。
私はこの先、どうすればいいの?
わからない。
「レミリア様……」
無意識に、メアリはあの方の名を口にしていた。




