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【連載版】愛してると言われても、頭上の数値は『殺意MAX』ですが?  作者: セトガワ トウ


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20/20

20話 裏切られた令嬢

 耳をつんざくような魔物の咆哮。

 それは、建物のすぐ外から聞こえてきた。

 私たちがそちらに顔を向けるのとほぼ同時、大窓が割られて一体の魔物が侵入してくる。


「きゃあああ!?」

 

 令嬢たちが激しく取り乱す。

 ……狼? 

 ただしかなりの巨体だ。

 前世の動物園で大きめのヒグマを見たことがあるけれど、それとほぼ変わらない。

 体毛は灰色で尻尾がない。

 いや、あったけれど今は失っている。

 赤黒い血が、傷口からボタボタと床に落ちている。


「どうして、この子がここにいますの!?」

 

 セリアが叫んだ。

 ……この子?

 いや、それよりまずは逃げなくてはいけない。


「ソラリス、俺の背後へ」


 レオンは剣も持っていないのに私の前に出る。

 

「ガルァッ」


 狼の魔物が獰猛に襲いかかってくる。でもレオンのことは素通りして、一目散に贈呈用の魔道具に攻撃を始めた。

 前足で台ごと破壊すると、転がった万能の魔石に噛み付く。

 異常な執着心だった。

 私はこの隙に、相手側のテーブルに置いてあるレオンの剣を取りに走る。


「レオン様、これを」

「助かる!」

 

 すぐにレオンに剣を手渡す。


「ただ、ここでは戦いたくないな。こいつは毒狼といって、厄介な相手だ。一度外に逃げるぞ」

「わかりました」

 

 レオンの指示に従って入口に静かに移動する。幸い、毒狼は魔石に夢中なのでターゲットにされることもなかった。


「お待ちなって!」

 

 奥側にいたセリアたちが一斉に逃げてきたことで、毒狼の注意がこちらに向いた。

 魔石を噛み砕くと、再び咆哮をして今度は私たちに狙いを定める。


「走れソラリス、逃げるぞ!」


 廊下に飛び出て、そこからは外を目指して全力で逃げる。

 毒狼は扉を破壊して私たちの後を追ってきた。


「キャァアアッ! 誰か、誰か助けてぇ!」

 

 セリアたちは必死過ぎて、私を犠牲にしてでも逃げようと手を伸ばしてくる。

 こちらもそれを避けながら、玄関のドアを蹴り開けた。


「おっ、ソラリスじゃねぇか」


 カゲロウが刀を肩に担ぐようにして、庭に立っていた。


「カゲロウ、あなたも逃げて。魔物が来ているの」

「逃げる? いや、逃げたのはあいつだ。戻ってきてくれて手間が省ける」

 

 ……そうか、あの魔物の尻尾を切ったのはカゲロウなのね。

 よく見れば、近くに尻尾が落ちている。

 私たちは庭を駆け抜け、カゲロウの背後に移動する。

 少し遅れてやってきた毒狼はカゲロウと対面すると、警戒したように低く唸った。


「なに唸ってんだお前? 面倒かけてごめんなさいだろうが」

 

 カゲロウが一睨みした途端のことだ。

 魔物が急にガタガタと震え出して、戦意喪失する。

 こんなことあるのかと私たちは驚く。

 あれだけ凶暴で強そうだった魔物が小型犬のようにすら思えてくる。

 目すら合わせようとしないのだ。

 カゲロウがゆっくりと近づいていくと、毒狼は恐怖心から庭の垣の方へ逃走した。

 それはそれでまずい。

 もし垣を越えていったら、町中に魔物が放たれてしまう。


「──撃て」

 

 誰かの一声が庭に響く。

 間髪入れずに何本もの矢が飛んでいって毒狼の胴体に突き刺さる。


「グルゥゥアアア!?」

 

 毒狼が悲鳴をあげながら、痛みで地面を転がる。

 

「氷魔法で動きを止めろ」

 

 先ほどの命令を出した人と同じ人物が、また指示を出す。

 ……ジークだった。

 しかもアーサーまでいる。

 兵士を十人ほど引き連れているのだが、彼らは武装している。

 初めから魔物退治に来たかのようだ。

 ただ、あまりにも到着が早過ぎる。

 命令を受けた兵士が魔法を使って、毒狼の足を四本とも凍らせ、身動きできないようにした。

 

「僕がトドメを刺そう」

 

 アーサーが歩きながら剣を抜くと、ジークが恭しく道を譲る。

 そこから決着までは早かった。

 アーサーは幼い頃から英才教育を受けているだけあって、その剣の腕は確かだ。

 あっという間に毒狼の首を切り落とす。

 なんの危なげもなかった。

 彼は剣を収めると私の前にやってくる。


「ソラリス、怪我はないかな?」

「……ええ、私は平気です。どうして、私たちが襲われているとわかったのですか?」

 

 彼らは明らかに、戦う気満々で乗り込んできている。

 アーサーはジークを見ながら話す。


「それについては、ジークから」

  

 みんなの視線がジークに集まる中、セリアが一歩前に出る。

 瞳を潤わせ、不安そうな表情で。


「ジーク様……」

「セリア様、あの毒狼は、あなたが飼っていたものですね?」

「わたくしというより、バートリ家で最近飼い始めたのですわ。それより、どうしてここにいるのでしょう?」

「この間締結した、婚約解除の契約書を持ってきました。もう一つ、貴方がソラリス様をお茶会に招いたと聞いて、嫌な予感がしたのですよ」

 

 ジークの声音には温度がない。それどころか軽蔑しているような話し方だ。


「私の集めた情報によると、貴方は最近毒狼の毒の血清を探していた」

「それは、万が一刺されたときのためですわ……」


 セリアが顔を逸らしながら答える。

 確かに筋は通っている。

 毒の魔物を飼うのなら、万が一に備えて解毒薬を探すのは当たり前だろう。

 ただ、【Gap80%】と出ている。

 保険は嘘じゃないが、真の目的は他にあるということね。

 そして私にはそれがわかった。

 さっきの魔石だ。

毒狼が異常なほど執着を示していた私への贈り物となる予定だったもの。

 ジークは毒狼の尻尾を拾い上げて、私たちに先端を見せる。


「特殊な魔物で、尻尾の先が蜂のような毒針です。解毒しなければ、数日で死ぬこともあります」

「僕が倒すときには、すでに尻尾は切られていたな。やったのはレオンくんかな?」

 

 アーサーの質問に、レオンより先にカゲロウが答える。


「俺に決まってんだろ」

「……また君か。一体何者なんだ?」

「なんでもいい。俺はそいつが襲ってきたから返り討ちにしただけだ」

「どういう状況か、教えていただけますか?」

 

 ジークの質問に、カゲロウは面倒くさそうに答える。


「あの小屋から何人か逃げてったんで行ってみたら、鎖を外した毒狼が暴れてたんだよ」

「管理人たちですね。セリア様は毒狼にソラリス様を襲わせて、血清で契約を有利に運ばせるつもりだったのでしょう」

「なにをおっしゃいますの!?」

 

 突然の鋭い指摘に、セリアが癇癪起こしたように怒鳴る。

 そこまでハッキリ言うのは私も少々驚いた。

 でも指摘は、きっと間違ってない。 

 

「確かにセリア様は、私に対して恨みを抱いているようでした」

「思い違いですのよ」

「毒狼は人より、あの魔石に執着していましたわ。私があれを持って帰ったら、襲われていたでしょう。おそらく、触れただけで狙われるのでは?」

「そんなことは……」

 

 言葉に詰まるところを見るに正解だ。

 だからレオンか私に触らせたかった。

 どちらかが毒になったら血清を出して、契約すれば渡すと交渉するつもりだったのだろう。

 アーサーが言う。


「ソラリス、どんな魔石なんだ?」

「万能の魔石という黒い石です」

「なんだって!? それは禁忌魔道具とされ、所持するのも禁止されている物だぞっ」


 バートリ家ほどにもなれば、そういった物を手に入れるのも容易いのだろう。

 すべての策を見破られたセリアは膝から頽れる。


「すべてはジーク様のため……。あなたをソラリス様から救い出すためにやったのに、どうして」

「意味がわかりません」

「新しいサブパートナーに選ばれそうだから、わたくしと婚約破棄したのでしょう!?」

「私が婚約破棄したのは、貴方の異常さに辟易したからです。たとえば、毒狼の飼育も罪です。日頃から貴方は罪を犯し過ぎている。正直なところ、呆れてしまいました」

「酷いですわぁぁあ……!」

 

 セリアは顔を手で覆って号泣する。

 私は狙われていたわけだし、助ける義理なんてないけれど、それでも口を挟ませてもらう。


「ジーク様、そこまでです。彼女はあなたを愛し過ぎたあまり、道を間違えただけですわ」

 

 もちろん、セリアに対して同情したわけじゃない。

 酷い仕打ちを受けて、はいそうですかとは許せない。

 これは皮肉みたいなものだ。

 婚約者を簡単に切り捨てて冷たくするジークに対して、命を狙われたのに温情をかける私。

 人としての器が違うますよアピールをしておく。

 これに最も簡単に引っかかったアーサーが感動しだす。


「君は本当に変わったよ……! 以前の君なら『死刑ですわ!』と叫んでいたのに……。今日、君が無事で本当によかった。ジークの勘のおかげだ」

 

 おそらくジークの狙いは複数ある。

 アーサーの信頼を完全なものにしたいのは、その一つかな。

 実際、そこはかなり順調だ。


「ソラリス様はお優しいのですね。ただ、今回の件は見過ごせません。少なくとも魔道具と毒狼、これは重罪になります。たとえ名家であろうと、許されません」

 

 これが二つ目かしら。

 仮に公爵家であろうと、こうやって潰すことはできるぞ。

 私に対する、遠回しな脅迫でもある。

 その挑戦を受け、私は彼に近づく。

 

「ジーク様、その契約書をお見せください」

「これは両家の契約書。いくらソラリス様であろうと、お見せできません」

「私には見る権利あるはずですわ。あなたは婚約破棄に私を利用したのですから」

 

 周りに聞こえないよう小声で告げると、ジークは不敵な笑みを浮かべる。

 

「驚きました。そこまで見抜かれたら、もう隠す気も失せます」


 この場だけの確認、かつ口外禁止を守れますかとジークは念を推してくる。

 私が頷くと、契約書を差し出してきた。

 目を通していく。

 まず、この契約が結ばれたのは二週間前。

 そして正式な婚約破棄の期日は契約から一ヶ月後、つまり今日から二週間後に設定してある。

 契約から破棄までの一ヶ月の間に、両者が心変わりした場合、再度婚約を結ぶこともできる。

 その上で、こう書かれてある。


 該期間中に、新たな損害または名誉を著しく毀損する事態を生じさせた場合、違約罰として、バートリ家が保有する一切の資産および利権の管理、処分権限を直ちにディスレイル家に委譲する。


 もちろん、立場が逆でも同じ条件で書かれてある。

 さて、やはりジークの真の目的は、バートリ家の権力を手に入れることだった。

 

「ジーク様はすごいのですね。まるで今日ここで魔物が暴れることも、彼女が禁忌魔道具を所持していたことも、すべて想定していたみたいな内容ですわ」

「偶然ですね。ただディスレイル家は常に先を見据えることを家訓としています。それが活きた形です。残念なことでもありますが」

 

 もの悲しそうな顔で、彼は泣き喚くセリアを見つめる。

 ジークからすれば、絶対に犯罪の証拠を押さえたかったはずだ。

 つまり、セリアが仕掛ける日は絶対に把握しておきたかった。

 しかし彼女だって馬鹿じゃない。

 止められるのを恐れて、今回のことはジークには黙っていたはず。

 だからわざわざ、こんな郊外にある屋敷を使ったのだ。

 どうして、今日やるとわかったの?

 たぶん、内通者がいる。

 私は彼女の取り巻きの令嬢三人に目を向ける。

 それから、執事であるエルバスに。


「そちらのお三方と、エルバスさん。突然ですけれど、今回のお茶会のこと、ジーク様にお話しになりました?」

「……は、話していません」

「わたくしもです」

「お、同じです……」

「私も話しておりません」


 【Gap100%】

 エルバスだ。

 お前が犯人だろ、という意味を込めて軽蔑の視線を送る。

 するとエルバスは、私の視線に耐えられ なくなり狼狽えだした。

 裏切り者なのに度胸がないのね。

 ただ、エルバスはお茶会中、ずっと室内かその近くにいた。

 どうやって合図を出したの?

 ここで私は、最初にここの庭に来たときのことを思い出す。

 地中に、なにか埋めてあった。

 グレイが言うには魔道具だという。


「セリア様、最後に答えてください。あそこに埋められている魔道具は、なんですの?」

「……魔道具? わたしくは、そんなもの知りませんわ」

 

 嘘はない。

 

「あー、そういや、そんなのあったな」

「掘り起こしてみよう!」 

 

 カゲロウとレオンが、土の中を掘り起こして中から魔道具を取り出す。

 出てきたのは三十センチほどの黒ずんだ金属の杭だ。

 先端は深く地面に刺さるようになっており、上部には淀んだ色の魔石が埋められている。


「あぁ、これやっぱ魔道具だわ。どこの馬鹿がこんなとこに入れたんだ?」

 

 カゲロウの質問に誰も答えない。

 自分の所有物だと名乗り出るわけにもいかないのだろう。

 ふっ、と私は口元に笑みを浮かべる。


「カゲロウ。誰の所有物でもないのなら、いただいておきましょう」

「いや、俺はいらねぇし」

「では俺が預かっておこう」


 レオンが受け取ってくれたので、よしとする。


「セリア様の物でもなく、所有者もいない。別に構いませんわよね、ジーク様? エルバス様?」

 

 私が微笑しながら尋ねると、エルバスは顔面蒼白なった。

 それとは対照的にジークには一向に焦りが見えない。


「所有者のいないガラクタです。どうぞ、ご自由に」

 

 では持ち帰って、グレイに分析をしてもらいましょう。


「おい、俺はもう帰るぜ。飽きてきた」

「ええ、私も帰りますわ。それでは皆さん、また学校でお会いましょうね」


 退学するセリア以外は。


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