1話「傘2本あるけど?」
「俺はどうすればいい?」
雨の日、俺こと相川 優斗頭を抱えていた。偏頭痛?そんな事ではない、もっと深刻な問題だ。そんな中でも、風呂場には猫の声と幼なじみの水瀬 七海の声、子猫を洗うのに悪戦苦闘しているのだろうか。そんな声が風呂場から聞こえてくる。
そんな中、俺は今日、子猫を拾ったはずなのに、幼なじみまで着いてきてしまったことに、頭を悩ますしか無かった。
そして、今日の学校帰りの事をもう一度思い出してみた。
ーー
お昼、購買で買ったメロンパンを食べていた時、雨が少しだけ降り出した。
朝の予報では曇り、降る予定は無かったが、降水確率60%だったので念の為、折りたたみ傘を持ってきていた。
「優斗…俺、今日傘持ってきてねぇ…」
優斗はメロンパンを食べながら目の前の友達、杉浦 拓真の愚痴を聞いていた。
「あ、そう」
「優斗!親友の俺を見捨てるのか……」
「見捨てる」
「おい、見捨てんな!」
興味が無さそうな優斗の返事に、拓真は思わずツッコミを入れた。
「そういうお前はなんかあるのか?もしあるなら俺に献上するんだな?そのメロンパンは誰のおかげだ?」
拓真は、ケロッと挑発気味に、メロンパンをモグモグしている優斗に聞いてきた。
このメロンパンは拓真が購買限定メロンパン、1人ひとつ、数量限定のメロンパンを何故かくれた。
優斗はため息をつきながら、カバンの中を探り、折りたたみ傘を取りだした。しかも2本。
「これでいいな?」
「優斗様、ありがとうございます!!」
拓真は目の前に傘が2本置かれた瞬間、優斗の手を取り、膝を着いた。大袈裟すぎだろ?
「でもなんで2本なんだ?」
「恋愛イベントあるかもだろ?」
拓真の質問に優斗はニヤニヤしながら答えた。
その時、廊下の方から声が聞こえた。
2人は、廊下に目をやると顔は整っており、少し茶髪の入った綺麗な女子が、男共の視線を浴びながら、歩いていった。
「水瀬か」
拓真は美少女が廊下を過ぎ去るのを見届け、呟いた。
優斗は何も喋らずメロンパンを貪り食べてたが、拓真はこちらに振り返り、優斗に目を輝かせながら話し出した。
「優斗、水瀬の連絡先……」
「知らん、てか知ってても教えん」
「お前は幼なじみなんだろぉ」
「教えんと言ったら教えん」
優斗はいつも拓真に絡まれているからか、こんな返しをいつもしている。ちなみに、水瀬の連絡先は知っている。幼なじみだし?
「お前、そのメロンパン……」
「傘、回収していいか?」
「うぉぉぉ……」
拓真は傘を回収されそうになってやっと、諦めた。
ーー
放課後、曇りの予報は見事にハズレて、なかなかの大粒の雨が降っていた。
「うお、これはヒデーな」
「どっかで雨宿りでもするか?」
拓真の言葉に優斗は、同感であった。
この雨の中、真っ直ぐ帰れば、確実にパンツまでずぶ濡れになる。
「そう……あ!忘れてた、俺今日サッカー部に用事があったんだ!」
「流石生徒会。忙しいんだな?」
「まぁな。じゃぁ、そろそろ俺は行くわ」
「気よつけろよ?あと傘明日返せよ?」
優斗は笑顔で手を振っている拓真を見送りながら、自分は通学路の近くにあるファミレスに行き、雨宿りしようと、傘を拡げた。
「優斗!」
帰ろうとすると後ろから声が聞こえた。
「返すで思い出した、タオルありがとな!」
拓真からタオルが渡された。別にいいのに。
そんな事を思いながら、後ろで手を振ってる拓真を背に帰路についた。
ーー