22話
年明け最初の投稿です
リアルが忙しくて更新が大幅に遅れてしまったことをお詫び申し上げます。
書類を全て書き終えた頃には、時刻は既に正午を回っていた。うんと背伸びをし、一息吐く。
「お疲れ様。結構早かったね」
ウートガルザがパイプオルガンの前に座ったまま首だけをこちらに向け、話しかけてくる。
「書類仕事は得意なもんで」
「あら、ならこの倍でも良かったかしら?」
「それは勘弁ですよ…」
本来であればそれ程の懲罰を課されていただけあって、何も言えない。無魔討伐の功績で何度も表章されていて良かった、とマリベルは安堵した。
「もう規律違反なんてしないでねー」
「…善処します」
形式的に言われた言葉を、マリベルは自嘲しながら聞く。彼女は規律を違反することがこれが初めてではなく、ウートガルザもそれを知っていた。極力違反を起こさない努力はするが、どうせまたやらかすのだと。今回は彼女が懲罰を下したから良いが、他の厳格な上官ではそうは行かないだろう。
(あたしも少しは真面目になった方が良いかねぇ)
マリベルは内心で自嘲すると、部屋を後にした。
今回宛がわれた部屋に戻った時、アリエルたちは既に帰り支度を整えていた。何やら買い物をしていたらしく、三者一様に紙袋を手に提げている。
「おう。待たせて悪かったな。何せあたしじゃないと出来ない仕事だったもんでよ」
恥ずかしかったのと、理由が理由なので、懲罰を受けていたことは隠しておくことにした。同業者のアリエルは察している顔だったので、秘密にしてくれるよう目配せをする。
「所でアリエル。何か買い物にでも行ってたのか?紙袋提げてるが」
「バリー・スティックシリーズの最新刊をね。前回は黒幕が明らかになったんだけど…」
「ストップ」
アリエルの言葉を遮り、掌を突き出して引き留める。
「あたしまだ前刊読んでないんだ。ネタバレして来る奴は死すべし。そうだろ?」
「あら、そうだったの。だったら早く読んだ方が良いわよ。物語の根幹に関わる話も入って来るし」
「おう。帰ったらそうさせてもらうぜ。ソーゴとカグラはどうだった?観光は楽しめたかい?」
「はい。喫茶店のスイーツとか劇場でやってたミュージカルとかすごく良かったです」
「俺たちだけ楽しんじゃって、何かすいません」
マリベルは笑いながら、手を振り「気にするなよ」と言った。
「いいんだよ。あたしはいつでも見られるんだからさ」
「アリエルさんもありがとうございます。案内してもらった上にお金も出してもらって」
「良いのよ。お金ぐらい出さなきゃ戦士の名折れってものよ」
総悟も神楽もこの世界の通貨を持っていないため、観光代は全額アリエルが受け持ったようだ。
「じゃ、そろそろ帰るかい?それともまだ観光してく?」
「いえ。これ以上お2人に負担してもらう訳にはいきませんし」
「私も…。結構歩き回ったんで疲れちゃいました」
「そうかい。ならそろそろ帰りますか」
マリベルは彼方に聳える大樹へ足を向け、歩き出した。
奈須山市の山奥の廃墟。かつてホテルのパーティ会場だったホールで、ヨルムンガンドは地図と睨みあっていた。今回の作戦を実行する上で、どの地形が戦闘に有利に立ち回れるのかを考察する。
彼が戦略を立てていると、不意に頭にノイズが走った。別世界にいる、ロキからの通信だ。
「はい。何でしょう。………はい。それなら先程完成しました。はい。ではただちに作戦を実行致します」
通信を切り上げたのと同時に、階段に腰掛けていたフェンリルが立ち上がる。
「お?やっと行けるのか。待ちくたびれたぜ」
小気味いい音を立てて関節を鳴らすフェンリルに、ヨルムンガンドは釘を刺す。
「言っておくが今回行うのは例のアレの試運転だ。断じて貴様が魔法少女どもと戦うためではない」
「そいつはどうかな」
フェンリルは得意げな顔になり、指を左右に振ってみせた。
「昨日母ちゃんに頼み込んで奴らと戦うのを許してもらったのさ。嘘だと思うんなら母ちゃんに聴いて確認してみるといいぜ」
口ぶりからして、嘘を吐いているとは考えにくかった。
「…そうか。すぐに出発する。アレを連れて行くのを忘れるなよ?」
「へいへい。言われなくても解ってますよ」
フェンリルは溜息を吐き、ホールのステージ側に向き直る。その視線の先では、白い正方形の物体の前で、巨大な鳥が唸り声を上げていた。




