19話
これで最後です。
次の話は魔法界に行きます。
「ね、これとか良い感じじゃない?」
アリエルは棚に陳列されたTシャツを一枚手に取り、傍らにいる少年に見せた。黒の下地にピンクのハート模様がプリントされたそれは、男性である総悟にも一目で良デザインと解る代物だった。
「へえ。可愛いじゃ無いですか。似合うと思いますよ」
あれから2人は住宅街の外れにある服屋に買い物に来ていた。アリエル曰く神楽から「以前先輩に服選んでもらったことあるんですけど、師匠もどうですか?」と助言されたそうなので、それに従ったらしい。。
「ありがとう。じゃあ次は…」
Tシャツを籠に入れ、その向かいの棚に陳列されていた短パンを手に取る。
「これなんかどうかしら」
「良いですね。組み合わせ的にすごく合うと思いますよ?俺はこっちのデニムの短パンも良いと思いますけど」
「あら、そうかしら」
アリエルは笑顔を浮かべながら、その実心中では邪なことを考えていた。
(ふふ。良いわぁこの子)
彼女は、総悟のような外見が幼い少年を好む趣向を持っていた。今まで彼女が執筆した漫画の大部分も、その趣向を反映したものである。
「試着して来るわね」
「あ、はい。ここで待ってますね」
焦る反応が見たかったので、からかってみることにする。
「ね、ソウゴ君」
「何ですか?」
スカートを、中身が見える寸前の所まで捲る。
「一緒に試着室入らない?そんなに人もいないからバレる心配も少ないし」
すると少年は慌てて眼を反らし、手を顔の前でぱたぱたと振った。
「ちょ…アリエルさん!見えてますって!」
にやけながら続ける。
「見えるって…何が、かなぁ?」
「そ、その…パンツが…」
店内を巡回している店員に気付かれない程度の声量で、少年に向かって言う。
「うわぁ…ソウゴ君私のパンツ何て見てた興奮してたんだ…君、可愛い顔してヘンタイさんなんだね~」
「違いますって!早くスカート下ろして下さい!」
するとアリエルはわざと顔を赤らめ、口に手を当てた。
「こ、こんな所で脱がそうとするなんて…やっぱりヘンタイね、君」
「そ、そういう意味じゃ…」
あたふたする少年を、アリエルは恍惚めいた顔で見ていた。あーやっぱいいわー男の子の照れ顔ってやっぱいいわー。
総悟の大声を聞き取ってか店員がこちらに接近して来たので、いい加減に切り上げることにする。
「冗談冗談。君って可愛い反応するね」
けらけらと笑う彼女に、総悟は既視感を覚えた。
(マリベルさんみたいなノリの人だな…)
むしろ魔法少女自体がそういった性格の持ち主の集まりなのか、と推測しているとアリエルは彼に言った。
「じゃ、試着して来るわね」
「お客様、店内で騒ぐのはお止め下さい」
アリエルが試着室に入ったタイミングで店員が、不愛想な顔で総悟に注意して来た。慌てて謝ろうとするとアリエルが試着室のカーテンから首だけ出して言った。
「あ、すいませんでした。すごく良い商品が見つかったものでしてテンションが上がってしまったんです。良いモノを扱っておられるんですね」
「そうでしたか。こちらこそ失礼しました」
外見にして30代程の店員はその言葉に満足げに頷き、その場から立ち去った。
「お世辞が通じる人で助かったわ。さて、試着するとしますか」
アリエルはそう呟くとカーテンの中に首を引っ込めた。
彼女の試着が終わるまでの数分間、総悟は悶々とした心持で衣擦れの音を背中越しに聴いていた。
(神楽ちゃんこの人と上手くやって行けてるのかな…)
「やっぱり私は表紙詐欺は許されざる大罪だと思うんです」
「解る。イチャラブものかと期待して開いてみたら鬱系とかリョナだった時の失望感と言ったらもうね。カップリングにモブを乱入させるとかも論外よ」
神楽の自室にて、彼女とアリエルはハイテンションで語り合っていた。買い物が終わって帰って来た後総悟に選んでもらった衣服を神楽に紹介していたのだったが、ひょんなことから脇道に話が逸れてしまって今に至る。
例え話が脱線したとしても、それが互いに盛り上がっていれば起動修正する気も起きない。2人は昼間から深夜もかくやなテンションの猥談で盛り上がっていた。
かれこれ一時間近く話していると、不意にチャイムが鳴った。
「お、届いたみたいね」
アリエルはおもむろに立ち上がり、玄関へと向かう。ドアを開けるとそこには誰もおらず、ルーンのような文様が記された小包と褐色の手紙が一通無造作に置かれていた。それらを手に取り、神楽の部屋へと戻る。
「…それが発注したベッドですか」
奇妙なデザインの小包を神楽は訝し気に見つめる。今朝アリエルの寝床について検討していたのだったが、最終的には魔法界にベッドを注文して神楽の部屋に置く、という方針で固まったのだった。この時期には物資購入のサービスを利用する者が少ないため、今日中には届くとのことだったが、どうやら本当のようだった。
「…そのサイズからしてまた魔道具ってヤツですか?」
「ご明察よ。さて…」
アリエルは指先に魔力を込める。そのまま指で陣を描くと、宙に魔法陣が出現した。魔法陣は壁に接触すると同時に霧のように分散し、魔力を周囲に巻き散らした。
「ってうわっ!壁が…動いてる…」
神楽の部屋の壁は音を立てて動き出し、部屋の中心から遠ざかって行った。2人で住むには狭いきらいがあった子供部屋は、たちまちの内にリビングもかくやな広さへとグレードアップした。
「さて、この辺にセッティングすれば良いかしら」
床に魔法陣を描き、小包に入っていた宝石をその中心に置く。すると魔法陣は光を放ち出し、仕舞には眼が痛くなるような閃光を放出した。神楽はそれに慌てて眼を覆う。
「眩しっ!」
「あ、ごめん」
ほんの数秒程度でそれは収まり、発光源の魔法陣があった場所には一台のベッドが設置されていた。それは神楽のものと比べると粗末なものだったが、アリエルのの間道具で出した部屋にあったものよりは比較的豪勢だった。
(こんなのでも結構いい値段するのよね…)
アリエルは内心で急な出費を嘆いていた。神楽と同じベッドで寝る訳にも行かなかったので背に腹は代えられなかったのだが、溜息を吐かずにはいられない。
一方で神楽は閃光と共に出現したソレをまじまじと眺めていた。
「こんな大きなものが一瞬で出て来るなんて…魔法の力ってすごいですね…」
間の辺りにした未知の技術に、神楽は感嘆していた。昔から彼女は魔術や魔法といったオカルトチックなものに憧憬の念を抱いていた。神秘のベールに包まれたそれを目の当たりにしているのは、今でも夢を見ているかのように思っている。
「これも同梱されてたけど…何かしら?」
アリエルは魔法界の字で自身の名が記された封筒を開封する。無地のソレは、彼女が所属する組織の重要事項を伝達する際のものだった。
内包されていた文書に目を通す。それに記されている内容を理解した所で、神楽に告げた。
「ねえカグラ」
「何ですか?師匠」
「貴女、今晩何か予定ある?」
「…特にありませんけど。何かあったんですか?」
アリエルは同封されていた日本語訳の文書を、彼女に手渡した。
「招集令状よ。それも魔人も一緒に来いっていうね」
「緊急集会、ですか」
文書に記されていた内容を、口の中で反芻する。
「ええ。最近強力な無魔の出現が増加していたのだけれども…恐らくそのことについてでしょうね」
アリエルは椅子に腰かけると、懐から煙草を取り出した。
「煙草吸ってもいいかしら?」
すると神楽は、申し訳なさそうに答えた。
「すいません。煙草は外でお願い出来ますか?」
「あらそう。解ったわ」
アリエルは徐に振り返ると、玄関へ向かった。
15話の前書きにも書きましたが、4カ月近くも投稿に間が空いてしまい、大変申し訳ありません。
まだ至らない所もあると思いますが、これからも頑張って行く所存です。




