18話
ここに投稿し始めてから6カ月経ったことに気が付きました。
未だに感想が付かない底辺投稿者ですが、これからも頑張って行きたいと思います。
山奥にある廃墟の地下で、ヨルムンガンドは憂鬱に浸っていた。確かに『材料』は問題なくこの拠点まで転送されて来た。業腹だったがフェンリルは仕事を果たしたのだろう。これに関してはヨルムンガンドの上司のロキも、「あら、良いじゃない」と満面の笑みを見せていた。だが、ヨルムンガンドからして見れば、それは明らかな問題行動だった。
(これでは魔法少女に勘づかれてしまうではないか…)
魔法で宙に浮かせたバスを見上げながら、彼は溜息を吐く。フェンリルの仕事は大雑把だった。隠密性を捨て、効率のみを重視するのが彼の仕事だった。1人1人『材料』を調達するとか幾らでもマシな方法があるだろうが。
突如として起きた出来事に阿鼻叫喚の様を見せるバスの乗客達を無視して、ヨルムンガンドはバスの真下にある塊まで歩み寄った。
それは純白のキューブだった。汚れ1つ無い立方体が、廃墟の地下に鎮座する様は酷く滑稽だった。内心でそのシュールさを笑いながら、ヨルムンガンドは先程ビルの屋上でロキから手渡された宝石を埋め込む。肉塊のような質感のソレにめりこんだ宝石は内部へと取り込まれ、完全にその姿が見えなくなった。宝石が吸収された所でソレはぶるぶると振動を始めた。ソレはまるで生物のようだった。
次に彼はバスに手を翳し、浮遊魔法を解除した。支えを失ったバスは一直線にキューブへと落下する。キューブはバスをクッションのように受け止めると、その車体を呑み込み始めた。
先ずは車輪が呑まれ、次に車体がキューブの中へと消えて行く。車内はパニック状態だった。
「皆さん、落ち着いて下さい。脱出出来る希望は———」
廃墟に転送された時から乗客を励ましていた運転手が、床を浸食する白い地面に呑み込まれた。ソレは生物のように脈動し、スライムのように伸びあがっては手当たりしだいに人間を呑み込んでいた。
「ドアは開かないの!?」
「駄目だ!びくともしない!」
「窓だ!窓を突き破って…」
「無理だ…妙に頑丈で壊せないしそれにもう…ぎゃあ!」
みるみる内に、浸食は進行する。1人、また1人と白い床に呑み込まれて行く。
「嫌だ…助けて…鋼牙く…ああああああああああ!」
人を取り込んだそれからは何かが砕けるような鈍い音と、食べ物を咀嚼するような音が発されていた。人を包み込み、人の形そのものだったそれは時間が経つごとにその姿を崩し、最終的には床と同化する。悲鳴と乗客達の体が砕ける度に鳴る音。それらが混ざり合った様は格調高いクラシックよりも素晴らしい音楽だ、ヨルムンガンドは常々そう考えていた。
獲物を全て呑み込んだキューブは、満足気にぶるぶる震える。その運動を10秒程度行った後、心臓のように脈を打ち出した。
「あら、もう仕込みは終わったのね」
ふと背後を振り返ると、地上に続く階段にロキが腰掛けていた。麓のコンビニで買って来たであろうアイスクリームを食している彼女に、ヨルムンガンドは言った。
「はい。この通り順調に進んでおります。しかし…」
「しかし?何かしら」
「人間共はフェンリルが調達して来たのですがその方法が非常に隠密に欠けたものでして…このままあ奴が手段を改めねば奴らに我々の計画が露見してしまう危険性があります。どうか、フェンリルに忠告して下さいませんか?」
その言葉にロキは指を顎にやって考えた後、口を開いた。
「別に構わないわ。今はあの子達を量産することが優先よ」
「しかし…」
いつの間にかヨルムンガンドの眼の前まで歩み寄っていたロキは、彼の唇に指を置く。
「いいのよ。あの子にはあのやり方が一番合ってるみたいだし、ヨルちゃんにもそういうのあるでしょ?」
そう言い残して階段を上って行く彼女に、彼は何も言い返さなかった。幾ら不服でも創造主である彼女には逆らわない、それがヨルムンガンドの矜持だった。以前本人の前で言った所、息子がそんなことを言ってはいけないと叱責を受けたが。
眼前にあるキューブは、依然として脈動を続けている。完成まではまだ時間がかかりそうだ。
「…やれやれ」
ヨルムンガンドは新な生命を生み出すソレを見守りながら、深い溜息を吐いた。




