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復讐者はこの世界でも頂点を目指す  作者: くまけん
第六章 〜迫り来る四つの色〜
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第98話 「真相は残酷に」

 世界が終わった音がした。俺の心をかろうじて維持していた柱が、ポキリと折れた。

「……嘘だ」

 呟く声は、力無い。

「嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だぁっ!」

 拒絶する。否定する。想像を絶する罪悪感から逃れるために。

 現実を理解してなお、俺は虚構を求めて叫ぶ。


「いいえ、本当ですよ。ミリーナさんを殺したのは僕ではなく、君なんです。僕はクラスメイトの誰一人殺してませんよ? 皆さん、僕の中で生きていますから」

 グリミラズは俺の耳元で囁く。静かで優しげな声が、図々しく俺の心へ流れ込む。

 嘘だと思いたい。だがグリミラズが生き返ったという事実が、ミリーナも生き返ったのだという覆し難い根拠だった。いや、そもそも死んですらいなかったんだ。ミリーナの『命』は、ずっとグリミラズの中で存在し続けていたのに。


 あの偽ミリーナだと思っていた彼女が、本物のミリーナ……?

 俺がこの手で、ミリーナの命を奪った?


 ああああああ……。

 ああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!


「でも君は僕を憎んでいましたねぇ。復讐してやろうと、殺してやろうと、そう誓ったのではないですか?」

 その通り、俺は復讐者だ。グリミラズを憎悪して、追いかけて、必ず殺すのだと決意した。

 殺す、殺す、殺す、殺さなきゃ。




 何故だ?




「……あれ?」

 俺は何故、こんなにもグリミラズを憎んでいる? そりゃ、大切な人が殺されたら辛いし、その犯人を憎むのは当然だ。でも……。

 ここまで恨み続けるか?

 物事には限度ってものがある。異世界にまで来て、毎日復讐の事ばかり考えて、必死に努力して、強くなろうとして。

 気が狂いそうになる程の怒りの奔流は、どこから来た。俺はこんな人間だっただろうか。


 強く、過激な言葉だけが脳裏を刺激する。目立つ単語で思考が束縛される。そしていつしか、俺の『本心』はどこへ消えた?


「おやおやおや。きょとんとした顔をしてますね。気付いちゃいました? 君が復讐者になった本当の理由」

 グリミラズは俺の目の前で微笑む。何を言っている、この人は。まだ何か、俺に隠しているのか?

「でも、まだ早い。いえ、全て遅過ぎたと言うべきでしょうか。君は結局真実に辿り着けないまま、僕の掌の上にいたのだと知るだけ。哀れな操り人形。牧場だけが世界の全てだと勘違いする家畜と同じ。そろそろ、君の養殖を待ちきれなくなりました」

 グリミラズが俺に手を伸ばす。捕食者の目付きで俺を睨む。

 殺される。食われる。

 早く、早く抵抗しなきゃ。戦って、こいつを倒さなきゃ。


 どうやって?


 グリミラズは不老不死だ。殺したって死にはしない。そんな化け物みたいな奴を、どうやって倒せって言うんだ。

 俺の『復讐』なんて、そもそも叶わない願いだったんだ。


 きっとそれは……偽物の願いだから。


「食べ頃の君。いただきます」

 グリミラズが俺の首を掴む。身動きの取れない俺は、捕食されるのを待つだけの獲物だった。グリミラズの口が、ゆっくりゆっくり俺に近付いて……。

 もう、どうだっていいか。

 どうせ俺は勝てない。復讐なんて無意味だ。愛する人を手にかけた罪人の俺に、これ以上生き続ける価値なんか。






「アレイヤさん!」

 俺を呼ぶ、必死な声。鋭く、それでいて暖かなその声は、俺の固まった心を溶かした。

「!?」

 何が起きたのか。少なくとも、俺が食われてないのは確かだった。

 俺を今まさに食おうとしていたグリミラズは、半身を氷漬けにされて動けなくなっていた。口を開けたままで、不格好に固まっている。全身を覆う氷塊から僅かにはみ出た腕が、彼の動揺を表すように暴れていた。


 グリミラズを捕らえた氷の波。それの行先を目で追うと、そこにはペトリーナが立っていた。

「『アイス・レストレイント』……間に合いましたわね」

 彼女は掌を突き出して息を切らしていた。氷魔術を放ったペトリーナの周囲が、冷たく輝く。

「ペトリーナ……?」

 なんでペトリーナがここに? 俺を助けてくれたのか?


 グリミラズから離れた俺は、一歩一歩、ペトリーナへ向かう。なんだか無性に引き寄せられた。

「もう、いきなりいなくなって! 心配したんですのよ!」

 ペトリーナは俺の姿を見て明るい笑みを溢し、俺を抱きしめた。温かい。足元の曖昧な地獄にいたような気分だったのに、晴れの日の花園へ迷い込んだような安らかな気持ちになっていく。


「ペトリーナ……」

「危ない所でしたわね。とにかく逃げましょう。あの人が動き出す前に……」

 ペトリーナは氷漬けのグリミラズに視線を向ける。その瞬間、彼女は息を飲んだ。

 氷に囚われ動けないはずのグリミラズは、とっくに自由の身になっていた。体を覆う氷を砕き、凍傷になりかけた半身を引き摺って歩く。


「誰ですか? 貴方は。僕とアレイヤ君が一つになろうとしていたのに、邪魔しないで下さい」

 グリミラズは頬を引き攣らせて振り子のように体を揺らした。言葉は礼儀正しく装っているが、食事を邪魔された怒りが隠し切れていない。

「あなたは……グリミラズ・バーハウベルゲ! 指名手配犯の……! まさか、あなたがアレイヤさんの御学友の仇ですの!?」

 ペトリーナは声を高くした。グリミラズの顔写真は今や全世界に広まっている。ハンドレド王国の魔術師を殺した殺人者、そしてザガゼロール王国の軍隊を襲撃した危険人物として。

「事情は聞いてるようですね。そうですよ。僕が噂のグリミラズ先生です」

 つまらなそうに、グリミラズは言った。奴は俺しか興味が無い。乱入してきたペトリーナなんて食事とすら思っていないようだった。


「……そう、でしたのね」

 ペトリーナは俺を抱えた手を下ろし、俺の前へ出た。凛々しく立つその姿は、先陣を切る武将のようだった。

「ペトリーナ?」

「すみません、アレイヤさん。先程の発言は撤回させて下さい。私、逃げたくなくなりました」

 ペトリーナは胸元をギュッと押さえ、まっすぐにグリミラズを睨む。

「アレイヤさんを悲しませるあの人だけは……少々お仕置きしなければ気が済みませんの!」

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