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復讐者はこの世界でも頂点を目指す  作者: くまけん
第七章 〜悪魔復活〜
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第113話 「一方その頃ユフィーリカ王国では」

 留学中のザハド・キーマンの元へ手紙が届いたのは、ユフィーリカ王国の神降宮から青い光が発せられて三日後の事だった。

 『休学手続きを取り、すぐさま国へ帰れ』。手紙にはそう書いてあった。差出人はザハドの父。ユフィーリカの現国王だった。


 何故帰らねばならないのか、詳細は書かれていなかった。こんな短い手紙一つ、無視する事も出来ただろう。しかしザハドは荷物をまとめた。帰らねばならない事情があると察したからだ。

 ユフィーリカ国王は外国で一人暮らしする息子に手紙を送るような人物ではない。教育熱心で非常に厳しく、親族だからと言って甘やかさない。冷血にも思えるが、息子を心配する素振りは見せない男だ。そんな国王が、帰れと言った。そこには重い意味があるとザハドは悟った。


 研修旅行以来の帰省だ。つい最近帰ったばかりだから、懐かしさはあまり感じない。母国はやはり変わらなかった。強いて言うなら、近頃新聞を賑わせている『青い光』の話題で井戸端会議が盛り上がっているくらいだろうか。

「ザハド王子。お待ちしておりました」

 ユフィーリカに戻ったザハドを出迎えたのは神降宮守護部隊の副兵士長、ライラッタだった。ザハドが子供の頃からの長い付き合いの忠臣だ。彼女はいつだって凛とした佇まいで職務をこなす。リリアンゼ兵士長と同じく、若くして守護部隊の重役に抜擢される程の実力者だった。


「久しぶり、ライラッタ。忙しいだろうに出迎えさせてごめんね。元気してた?」

「お気遣い恐れ入ります、ザハド王子。ワタシは健勝です」

 ワタシは、と告げる彼女の声に含みがあった。ザハドは違和感を覚えて尋ねる。

「リリアンゼ兵士長は?」

「兵士長は……今はおりません」

「え?」

 予想外の返答だった。休暇という意味だろうか。ザハドの疑問を先回りするようにライラッタは答えた。


「休暇ではなく、突然姿を消したのです。彼が神降宮に勝手に侵入した痕跡もあり、王宮では既に事件として調査を進めています」

「それは……驚いたな。リリアンゼが容疑者として追われてるの? それとも誘拐事件の被害者として探しているのかな」

「両方です。リリアンゼ兵士長とは別に、何者かが侵入した形跡もあります。その不審者が神降玉を破壊し、リリアンゼ兵士長を拉致した可能性も……」

「ちょっと待って。神降玉が破壊された? どういう事なのさ」

 ザハドは目を丸くした。神が君臨する場所とされ、国の宝として丁重に扱われている神降玉が壊されただなんて。とんでもない大事件だ。

「ご存知なかったのですか? すみません、てっきり国王陛下から聞き及んでいるのかと」

「ううん。初耳。それで俺が呼ばれたのかな。捜査に協力しろって事?」

 手紙だけでは父の真意が分からなかった。ライラッタも「ワタシには分かりかねます。詳しくは王宮まで」と言い、ザハドを案内した。


 ザハドは王宮へ向かう道中、ユフィーリカの神降宮を目の当たりにした。王室直属の魔術師が忙しなく調査をしている。神降玉損壊事件、そして兵士長行方不明事件の解決のために身を粉にして働いていた。

 ただならぬ雰囲気を、ザハドは感じた。リリアンゼは見た目と口調こそ変だが、悪人ではなかった。むしろ正義感が強く、その正義感で迷惑をかけてしまうタイプだ。リリアンゼの強引なやり口には内部反発も少なくなかったが、強い支持も得ていた。彼の職務への熱心さと信心深さは誰もが認めていた。

 だからザハドは驚いたのだ。リリアンゼは仕事を放棄して勝手に出ていく男ではない。ましてや、国を裏切って神降玉を壊すような人物にも思えない。兵士長を任されている程の実力者が、易々と誘拐されるのも考えにくかった。

 だが、現にリリアンゼはいなくなっている。この状況をどう説明するのか。この前アレイヤを勝手に処罰しようとして叱責を受けたが、それで責任感を背負って逃げ出すような性格でもない。


「ハルト神官が珍しく落ち込んでいましたよ」

 歩きながら、ふとライラッタは呟いた。

「え? あの人が?」

 ハルト神官とは、この国の宮守である。五つ星の魔術師で、ユフィーリカ最強とも謳われる男だ。しかし人格に難があって、お世辞にも仕事熱心とは言えなかった。神降宮で何か不祥事があっても気にしなさそうなのに。

「流石に神降玉を破壊される失態は大きかったようです。国王陛下も慌てていらっしゃいましたし。今ユフィーリカは混乱していますから、猫の手も借りたいでしょう」

「へー。俺は猫って訳。だったら力を貸してやるかにゃー」

 ザハドはふざけて猫のポーズを取った。するとライラッタは立ち止まり、ザハドを睨む。

「……解釈違いです。ザハド王子はもっとクールでいて下さい」

「え、何それ? 何か理不尽な怒られ方した気がする」


 雑談も束の間、二人はユフィーリカ城に到着した。二人が来る事は事前に伝えてあるため、スムーズに城内へ案内された。

 ザハドが連れて行かれたのは会議室だ。国の重鎮が議論を重ねる荘厳な場である。本来ならライラッタ副兵士長は入室出来ないが、今回は特別にザハドと同行を許された。


「よくぞ来た。我が息子ザハド。そしてライラッタ副兵士長」

 会議机の上座で、国王は堂々と待っていた。広々とした会議室に、集まっているのはザハドとライラッタと国王、そしてハルト神官だけだった。

「お久しぶりです、って言う程久々でもないですね。父さん」

 挨拶も程々に、ザハドは席に座った。ライラッタも一礼してザハドの隣に座った。

「まだ全員揃ってないみたいですけど、俺早く来すぎでした?」

 ザハドには大勢の兄弟姉妹がいる。母親さえ、実母以外に義理の母が何人もいる。それら親族の内『王族』として扱われているのは11人のみだが、その面子の姿は見えない。


「貴様は気楽だな。会いたかったのか? ライバル達と」

 ユフィーリカ国王は微笑し、言った。ザハドは首を横に振る。

「出来れば、戦場以外で会いたくないですね。会議室に血を流したくないので」

「言いおる。その減らず口を聞いて確信した。やはり我が子を一堂に会するべきではなかったとな」

 国王はワイングラスに注がれた水を飲み干した。

「今日招集をかけた王族は貴様だけだ、ザハド。王位継承候補者には一人ずつ日程をズラして事情を伝える。いらぬ争いは避けねばならんからな」

「事情?」

「あぁ。本来であれば正式に王位を継承していない貴様には知られない真実だ。だが状況が変わった。この大災害を止めるには禁忌すら破る覚悟が必要であろうよ」

 国王は歴史の真実を告げた。六柱の神々が、実は悪魔であった事。魔術は神の力ではなく、悪魔の力であった事。創世神話の時代に人間に敗北した悪魔が、神降宮に封印されていた事。そして悪魔を封じていた宝玉が破壊され、再びこの世に悪魔が解き放たれてしまった事を。


 ザハドとライラッタは驚愕した。学んできた歴史が偽りだと知って驚かないはずがない。ただ一人ハルト神官だけは「あ、そうなんすか」と興味なさげだった。

「神っていなかったんすね。じゃあオレの仕事無くなったんすよね。帰っていいすか?」

「待てハルト神官。状況を理解しているのか? 悪魔は人の精神を蝕み、人間に取って代わる邪悪な生物だ。このまま奴らの繁栄を許せば、人間の社会は滅亡し、この世界は悪魔の物となる」

「だったら単純な話でしょう。悪魔を倒せばいい」

 ハルト神官はニヤリと笑った。自信に満ちた顔だった。

「いやー、良かった良かった。神降玉を守れなかったからどう責任を取ればいいかと戦々恐々だったけど。自分なりの責任の取り方が見つかったんで一安心っす」

「ほう。頼もしい言葉だな。だが虚勢は力に非ず」

「虚勢じゃないっすよ。神だろうと悪魔だろうと、オレなら殺せる。って言うか、そうじゃないと困るからオレを呼んだんすよね? 『悪魔を倒せ』って、そう命令するために呼んだんすよね?」

 ハルト神官は落ち着いていた。三千年前の恐怖が蘇ろうとしている現状で、それでも希望を口にした。

 悪魔が復活したなら、倒せばいい。単純にして困難な目標を、彼は自信を持って宣言する。


「話が早すぎるな、貴様は」

 予想だにしない反応に戸惑う国王だが、ハルトの堂々とした態度は嫌いではなかった。国王は徹底した実力主義者だ。力ある者は評価する。ハルト神官の実力は国王が認めるに相応しいものだ。『五つ星』とは、それだけの重さがある。

「聞いたな、ザハド。貴様はどうする。この国は全勢力を挙げて悪魔討伐に挑むつもりだ。戦力は少しでも多い方がいい。協力するのであれば、次期国王選出に近付けてやろう」

 国王の要件は一つだった。復活した悪魔を倒すべく、息子に協力を願い出た。

 ザハドは正直困惑していた。まだ状況の全てを理解した訳ではない。だが、戦わなければならないと本能が告げていた。

 ザハドは何としても次期国王の座を勝ち取らねばならない。そして、この魔術の才能は民のために振るうべきだと考えていた。悪魔が人々を脅かす存在ならば、すなわちザハドの敵だ。


「お願いします。戦わせて下さい、父さん」

 断る理由は無かった。


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