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復讐者はこの世界でも頂点を目指す  作者: くまけん
第六章 〜迫り来る四つの色〜
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第106話 「悪夢の前兆」

 今日の学校は午前中だけの授業だった。早めに帰り支度を終えて下校していると、街が何やら騒がしかった。

 また事件でも起きたのかと怪しみつつ様子を窺うと、人集りの中央にはやたらとアクセサリーを身に付けた老婆が強く主張していた。

「災いじゃ! 間も無くこの世界に大いなる災いが降り注ぐ! 滅亡の日は近いぞよ!」


 そういった内容の発言を、老婆は何度も何度も繰り返していた。真面目に老婆の言葉に耳を傾けている人もいれば、呆れ顔で笑う人もいた。

「何の騒ぎなんですか? これ」

 気になって近くの通行人に尋ねてみると「いつもの事だよ。発作みたいなもんだ」と鼻で笑った。

「この婆さんは自称占い師でさ。未来が見えるんだとさ」

「へー、それは凄いですね」

「凄い訳ないさ。婆さん、いつも嘘ばっか言うんだ。占いが当たった事なんて無い。誰も信じちゃいないよ」

 通行人は老婆を見下すように睨んで、この場から去った。老婆は、鬼みたいな形相で騒ぎ続ける。

青の光じゃ(・・・・・)! 六つの青き光が天を貫く! それこそが終焉の合図じゃ! 人間は皆、厄災に飲まれ消え行くのじゃああああ!」

 必死に訴える老婆は、完全に見せ物になっていた。空は、夜と見間違えるような曇り空だった。


「未来を見る魔術ってあるのかな」

 帰宅し、俺は何気なくペトリーナに聞いてみた。ペトリーナはリビングでお茶を飲みながら「ありますわよ」と答えた。

「ですが、メジャーな魔術ではありませんわね。それに、予言魔術は一般的にオカルトとして扱われています」

 ペトリーナの話を聞いて、おれはさっきの騒動を思い出した。老婆の占いは、誰も本気で聞いてはいなかった。

「占いってオカルトなんだ」

 魔術は確かなものとして信用されているのに。この違いは何だろう。

「適当な発言がたまたま的中したのと、予言魔術で見た景色を語るのと、第三者からすれば違いを判別しかねますから。予言魔術を使ってないのに、使ったと偽る人もいますの。魔流眼のような魔力を確認する術が無ければ、占い師を騙る詐欺師と本物の予言者を見分けられないんです」

「そうなんだ。悪知恵の働く人がいるんだな」

 魔術師が魔術師を信用するとは限らない。技術と偶然の違いを、みんな理解しない。

 だったら、あの老婆は本物だったんだろうか。それとも、虚言癖のあるだけの老人だったのか。


 帰り道の小さな騒ぎに考え込んでいた時、来客を伝えるベルの音が鳴った。

「はぁい。今参りますわ」

 ペトリーナはティーカップを置いて玄関へ向かう。特にやる事も無かった俺は、一緒に玄関に行く事にした。


 ペトリーナがドアを開けると、そこにはフード姿の男が立っていた。やけに深くフードを被っていて、顔がよく見えない。

「はじめまして。ペトリーナ・コルティさんですね」

 男は口元をあまり動かさずに言った。どこかで聞いたような声だった。

「はい。えっと、どちら様ですの?」

「僕は旅の古物商。大変価値あるお宝を、値打ちの分かる方々にお買い求め頂きたく、こうして世界を回っております。お父様はご在宅ですか?」

「いえ。父は仕事に出かけておりますが……」

 ペトリーナは困り顔だった。要するにこの男はセールスマンだ。高級な商品を売るために家柄のいい家庭を渡り歩いているのだろう。コルティ家は国の認定を受けた神降宮守護者の家系。この国でも一二を争う名家だ。


「そうでしたか。いえお構いなく。ペトリーナさんもきっと僕のお宝の良さが分かるお方でしょう。是非、ご覧になって下さい。一目で素晴らしい品だとご理解頂けるはずです」

 セールスの男は背中に担いだ箱を前に出した。手袋を嵌めた後に、箱の中身を取り出す。陶芸の壺が、緩衝材の海から顔を出した。

「かつて名だたるコレクター達がオークションで奪いあったとされる、伝説の一品。一億シルの値を叩き出したこの壺を、今回は特別、一千万シルでお譲りしたいと思っております。どうですか、ペトリーナさん」

「いや、その……私、そういった事には疎くて」

 ペトリーナは断る言葉を見つけられずに困っていた。古物商は意に介さず壺を前に出す。

「そうおっしゃらずに。さあさあ。手に取ってご覧下さい。ペトリーナさんには特別、直接お触り頂きたく存じます。滅多に無いチャンスですよ。ご遠慮なさらず」

 古物商は『お宝』と呼ぶ壺をペトリーナに渡そうとする。さっきからこの男の言動に違和感があった。


 この男、本当に古物商か? セールスをするにしても、強引で口下手だ。人の購買意欲を刺激する工夫を一切せず、売り手側の都合を押し付けてるように聞こえる。それに、大切な物を扱っているにしては、壺の扱いが雑なように思えた。

「と、とにかく! 壺は要りませんから! お引き取り下さいまし!」

 何でもいいから拒絶する言葉を捻り出したという雰囲気で、ペトリーナは古物商の壺を両手で押し戻した。壺を売りたい古物商と、買いたくないペトリーナ。二人の攻防が玄関で繰り広げられた。


 その時だった。耳を劈くような粉砕音が鳴り響いた。地面には、粉々に割れた壺が散らばっている。

「あっ……!」

 ペトリーナは息を飲んだ。古物商も動きが固まる。壺が落ちてしまった事実が、この場の空気に大きなショックを与えた。

「す、すみません!」

 礼儀正しいペトリーナは、真っ先に謝った。反射的に謝罪の言葉が出てきたようだった。


「すみませんじゃないですよ! 何やってくれてるんですか! うちの大切な商品なのに!」

 古物商は声を上擦らせて激怒した。捲し立て、ペトリーナを責める。

「一億シルの価値がある至宝ですよ! 壊してしまうだなんて、弁償してくれるんでしょうね!」

「そんな……一億なんて大金、払えませんわ」

 ペトリーナは顔を青くした。ペトリーナが誘拐された日にサブヴァータから要求された身代金が一千万シル。それすらすぐには用意出来ず、ズォリアは国王に頭を下げて資金を確保したのだ。一億シルの弁償が不可能なのは明らかだった。


「出来ないで済む話じゃないですよ! あなた、自分が何をしでかしたか理解してるんですか?」

「すみません、すみません……!」

 怒鳴り散らす古物商に、ペトリーナは必死になって頭を下げていた。これ以上見ていられなかった。

「ちょっと、やめて下さいよ。ペトリーナが壊したって決め付けないで下さい」

 俺はペトリーナの前に出て抗議した。俺は後ろで軽く見てただけだから断言は出来ないけど、あれはペトリーナが割ったようには見えなかった。むしろ、古物商がわざと落としたような。

「何ですか君は白々しい態度で……」

 古物商は俺に視線を向けた。しかし、動きを止めて短く「げっ」と呟く。


 古物商の頭が動いた勢いで、彼のフードが靡いた。その隙間から、古物商の顔が見えた。

「ジェイル……? お前、ジェイルだよな」

 古物商の正体はジェイル・ハルメタリアだった。ザガゼロール王国の兵士で、サブヴァータとも協力していた『呪い屋』。俺と同じ異世界転移者だ。なんでジェイルがここに。というか、何故押し売りなんてやってるんだ。


「アレイヤ、なんで……。この時間は学校にいるはずじゃが……」

 ジェイルは声を小さくして視線を逸らした。

「とにかく! 壺を割った責任は取って貰う! 後で出直すから反省して神に祈るがいい!」

 演技じみた大袈裟な叫びを残して、ジェイルは走り出した。あっという間にジェイルの姿が遠くなる。

「ま、待て!」

 俺は咄嗟にジェイルを追った。彼の謎の言動が気になったし、ペトリーナへの威圧的な態度に文句の一つも言いたかった。


 ジェイルはやたら足が速かった。《(しつ)》で追いかけてもなかなか距離が縮まない。人間離れしたスピードだ。

 こんな事が前にもあった気がする。フードで顔を隠した人間が、とんでもない速度で逃げた光景……。


「しつこいのぉ、お主」

 ジェイルは辟易した様子で立ち止まった。さっきとは違い、ジェイルらしい自然な口調だった。

 俺も立ち止まり、ジェイルに問いかける。

「何だったんだよ、さっきのは」

「んー、そうじゃのぉ。まだそれを語るには早いの。お主に邪魔されても敵わんし」

「答えになってない。はぐらかす気か?」

「時期が過ぎればいくらでも教えてやるわい。しかし、お主がいるとはの。予想が外れた。予言魔術は細部が曖昧で困るのぉ」

 予言魔術? それがジェイルと何の関係が。いやそれよりこの男は、もっと重要な事を隠している。そんな態度だ。


「……ユフィーリカの神降宮を襲撃したのは、お前だな?」

 俺は尋問した。既視感の正体を、今ついに暴き出した。

「……はてさて。何の事じゃろうな?」

「とぼけるな。俺から逃げられる程のスピード……あのフード姿にも見覚えがある」

 俺がユフィーリカ王国に研修旅行に行った初日、神降宮とそこにいた女性が襲われる事件があった。俺が犯人扱いされたあの事件だ。未だに真犯人は捕まっていない。神降宮を爆破し、被害者を拐ったフード姿の不審者が怪しいと噂されていた。

 あの不審者も足が速かった。体格や所作も、非常に似ている。


「…………」

 ジェイルは黙った。否定しない。

「答えろ、ジェイル。コルティ家に何をしに来た? 本当に壺を売りたかっただけか?」

 単なるビジネスで来たにしては、色々と怪しかった。言動が商売人らしくない程に雑だったし、「売る」というより「押し付けてる」感じだった。壺が割れて怒っているにしては、今のジェイルは落ち着きすぎている。

 あれは古物商のフリをした演技だったのか? だとしたら、何のために。


「どうしたものかの……」

 ジェイルは言いあぐねていた。ジェイルの表情に注意を向けていると、突如として空が光った。

「っ!?」

 曇り空を照らす眩さ。雷か? でも、何秒待っても雷の音は轟かない。

「おぉ! もう始まったのか! あの娘、神降宮に懺悔しに行ったな! 僥倖僥倖! 信心深さが神に仇なすとは皮肉じゃの!」

 ジェイルは空を見上げて愉快そうに叫んだ。彼の輝く視線の先には、天を貫く青い光。


 ……天を貫く青い光(・・・・・・・)

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