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病棟に戻ると私は談話室に身を潜めた。
健一郎の病室は501号室。奥まった場所にあるそこにたどり着くためには必ずここの前を通らなければならない。
この時間は面会者も閑散としていて静けさが漂っている。
帽子のつばをグッと下げると、私は廊下の奥に目を凝らした。
(――――! 誰か来る!)
蛍光灯の淡い光に浮かび上がるシルエット。
女性だということはわかるが、私と同じように目深に帽子をかぶっているので顔が影になっている。
(じろじろ見て気づかれるとまずい。病室に入る前に引き返されたら台無しだから)
談話室を通り過ぎるまで、私は俯いて足元だけを目で追った。
ピタッとした黒デニムとスニーカーを履いた下半身は談話室の前を通り過ぎ、501号室のあるほうに向かっていく。
私はゆっくりと腰を浮かせ、音を立てないように動きした。
心臓の鼓動が速まり、呼吸が浅くなる。
談話室の壁から少しずつ顔を出して向こうをのぞきこんだ――。
(――――! 501に入った!)
とうとう餌にかかったのだ。
顔を見たくてたまらなかった"Kちゃん"。
私から夫を奪い、妻という戸籍まで取り上げた女。
(もう逃さない!)
自然と歩みが速くなり、ほとんど駆け込むように501号室のドアを引き開けた。
どんな顔をして驚くのか。私はその顔を想像しては溜飲を下げていたのに。
その女は私を待っていたとでもいうようにこちらを向いていて、口角を上げて不敵に嗤ってみせた。
「え……嘘でしょう」
ここにいるはずのない女に、私の心臓は一瞬で凍りついた。




