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第1話:魔王に拾われました

森の中。静かで、誰にも邪魔されない場所。


 私は、薬草を摘んでいた。

 早朝に咲く「月草げっそう」は、採取から三時間以内であれば発熱に効く。葉の裏に軽く朝露が残っているものが、良品だ。


「ふむ……今年のは香りが強い。保存にも使えるかもしれないわね」


 誰に聞かせるでもなく、ぽつりとつぶやく。

 癒しの力も、魔力も、教会も、もう関係ない。私はただ、静かに薬草と向き合っていたいだけだった。


 


 ──バサッ。


 低木を踏みつける音に、私はぴくりと肩を揺らす。

 この森には、イノシシや魔獣もいる。だが、今のはそれよりずっと……重い。


「……誰?」


 答えはなかった。

 だが、数歩先の茂みから、黒い影が崩れ落ちる。


 血まみれの身体、長く伸びた黒髪、焼け焦げたような外套──そして、何より異様なほどの魔力。


「……魔族?」


 だが、その男は動かない。どうやら意識を失っているらしい。

 私は慎重に近づき、呼吸と脈を確認した。心拍は不安定、出血も多い。今処置しなければ、確実に死ぬ。


「……もう知らない。ほんとに厄介ごとばっかり」


 そうぼやきつつ、私は背負っていた小さなポーチから道具を取り出す。

 傷の洗浄、止血、痛み止めの調合……慣れた手つきで作業を進めていく。


「これで……生きてる間に目が覚めたら儲けものね」




「──なぜ助けた」


 目を覚ましたのは、翌日の夕方だった。


 がっしりした体を起こしながら、男は私を睨みつけた。

 目つきが完全に“敵”を見るそれで、私は肩をすくめる。


「手近にいたからよ。あんた死にそうだったし」


「俺は魔族だぞ? 人間の女が俺を……?」


「知ってるわよ。ていうか、魔力漏れすぎ。魔王クラスでしょ、あんた」


「……正確には、“魔王”だ」


「でしょうね」


 私はあっさり受け流し、薬草をすりつぶしながら答える。


「で? 私に感謝の一言でもくれるの? それとも“人間風情が”って斬りかかる?」


「……貴様、何者だ」


「元・聖女。今はただの薬草女よ」


 


 魔王はしばし沈黙し、それから低く笑った。


「……面白い女だ。なら、俺の城へ来い。お前の力、必要になるかもしれん」


「え? やだ」


「即答か」


「森の暮らし、最高なのよ。うるさい神官もいないし、薬草は新鮮だし、寝たい時に寝られるし」


 


 私は寝袋にくるまりながら、気だるげに言った。


「どうしてもって言うなら、まず畑の手伝いからしてもらうわね」


 


 こうして、私は魔王に拾われた。

 そして気づいた。


 ──魔族には、私の癒しがめちゃくちゃ効くということに。


 


 人間からは追われたけど、魔族からは“神扱い”。

 なんなのこれ、やってられない……でも、ちょっと悪くない。

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