第10話(最終話):“偽りの婚約”と、本当の想い
「リリア様、魔王様が……正式に、婚約破棄を――」
「………………は?」
その一言に、薬草の束を落としそうになった。
いや、実際落とした。
「え、ちょっと待って。今なんて言った?」
「こ、公式発表が……“魔王ジルハは、聖女リリアとの婚約を解消する”と……」
「…………本人からは?」
「ま、まだ……お会いになってはおらず……」
何か、引っかかる。
あのジルハが、そんな大事なことを私に直接言わず、正式発表だけするなんて――
「……絶対、裏があるわね」
私は薬草を一式まとめ、まっすぐ玉座の間へ向かった。
扉を開けると、そこには――
「ジルハ。ちょっと“ご説明”いただこうかしら?」
「……来たか」
「来たに決まってるでしょうが。何よ、“婚約破棄”って?」
「――リリア。お前を、これ以上“俺の側”に置いておくのが怖くなった」
静かに、そして確かにジルハはそう言った。
「俺の婚約者でいる限り、今後もお前は狙われる。お前が倒れたとき、俺は……自分の無力さを痛感した」
「だからって、勝手に切り捨てるの?」
「切り捨てたくなど、ない。だが、お前を守りきれる自信もない」
「……バカね」
私は、彼の胸ぐらを掴んで引き寄せる。
「私は、“癒し手”よ。治せば治すほど嫌われて、それでも生きてきた。あんたの側でなら、ようやく“誰かのために癒す”ってことができた。――あんたが怖くても、私はあんたの隣にいたいの」
「……リリア」
「“婚約者”って、ただの肩書きでしょ? 本当は、どうしたいのよ。ジルハの“本当の想い”を、私に聞かせてよ」
ジルハは目を伏せ、それから、はっきりと顔を上げた。
「――愛している」
その声は低く、けれど揺るぎなかった。
「俺は、お前が側にいてくれるだけで、心が救われる。……偽りの婚約などではなかった。初めから、俺は“本物の気持ち”でお前を選んだ」
「なら、答えは決まってるじゃない」
私は彼の手を取り、しっかりと握った。
「私も、あんたが好きよ。……薬草いじってる時の邪魔くさい顔も、民の子供に甘すぎるとこも、ぜんぶ」
その日、魔王城には新たな宣言が響き渡った。
──“魔王ジルハと、聖女リリアは、正式に婚約しました”──
もう、偽りではない。
“守るため”でも、“政治的理由”でもない。
たった一つの、本当の気持ちから生まれた絆。
それが、私とジルハの“始まり”だった。
──完──
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
『“治せば治すほど嫌われる”聖女、追放されたので辺境で気ままに薬草生活します』は、「追放」「ざまぁ」「無自覚チート」「癒し」「魔王との偽装婚約からの本気」と、なろう系の要素を詰め込みつつ、
物語全体に散りばめた小ネタや伏線が後半につながっていく構成に、今回初めて挑戦しました。
たとえば――
・1話の「薬を飲ませたら嫌がられた」→10話では「毒を飲ませて助ける」構図へ逆転
・2話の「魔王と初めて出会った薬湯」→後半では城全体の癒し施設になる
・5話の“仮の婚約”→10話で“本物の想い”として結実
といった具合です。
読者の皆さまに楽しんでもらえるよう、今後も“追放”や“癒し”、“毒舌ヒロイン”など、読みやすさと感情の波を両立した物語を目指していきたいと思っています!
ご感想・ブクマ・評価いただけると励みになります!
──次回作も、どうぞお楽しみに!




