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みんなの憧れ騎士団長様

「子爵、ここの前菜美味しいですね」


「そうだろう。ショーンくん」

個室の中で、私を除いて会話が進む。父は、心做しか嬉しそうな表情である。


黒の騎士団。団長のショーン。

その名前を知らない人は、我が国サーチ王国・しいては周辺国においてもいないだろう。


騎士達を束ね幾多の戦果をあげた、”平民出身の最強騎士団長"。

これまで騎士団長というのは、ある程度良い家柄を持って生まれた人物がなるのが通説であった。


しかし、ショーンは圧倒的な強さと戦術を考える能力の高さと実力で騎士団長に選ばれたのである。


身分差別が残っている我が国では、彼が騎士団長に決定した当初、国中で賛否が巻き起こり悪質なウワサまで広がった。


例えば、ルックスを上手く使って性的な接待をしたとか、決定権を持つ人を脅したとかである。今思えば、特権階級の人達が意図的に流した根も葉もない噂であるが、当時はそれを信じた人も多かった。


しかし、彼が率いる騎士団が多くの戦果を挙げ、ここ100年もたらされていなかった安寧秩序を国にもたらしたことで、ショーンは国中の人気者となった。


そんな彼がうちの養子になるですって?ありえない。

最近、何かのメディア企画で「息子にしたいランキングNO.1」を取っていた騎士団長様が、我が家みたいな落ちぶれた子爵家の養子になるなんて信じ難い。


「あの…何で私たちは一緒にディナーを食べてるんでしょうか?」


和やかな空気を壊すようで申し訳なかったが、私はそう聞かざるを得なかった。ありえないと言ってくれないかな。そんな一縷の望みを込めて私は、聞いてみた。


「あれ?子爵から聞いてないかな。僕、ブラッド家の養子になるんだよ」


しかし私の願いも虚しく、ショーンはあっけらかんとした様子で返答をする。まさか。とは思っていたがショーンの口からその事が本当なのだと分かった。


「アンナ、彼には来月から養子になってもらうんだ。なので、今日は顔合わせだよ。後々には、ジョーンズ家の跡取りとして、ショーンくんに活躍してもらおうと思っている」

父は、さも当然という感じで再び、跡取りという単語を口にした。


ありえない、。

微かに持っていた希望と、私の自尊心はたったその3文字で打ち砕かれるようだった。


我がブラッド家は、代々ヒーラーとして王家に貢献し名を挙げた貴族である。


しかしその力は曾祖父の代から弱まっていき、それに比例して名誉や評判も落ちていった。


ただ、ヒーラーのように特殊能力を持って王家に貢献した貴族が、世代を超えるごとに力が弱まるというのは我が家に限ったケースではない。


上手く能力が受け継がれないケースが、曾祖母が生きていた時代、約100年前に発生した。



今、我が国に特殊能力を持っている人間は数えるほどとなってしまった。理由は明確には不明だが、その当時に蔓延した流行病のせいではないかというのが、最近明らかになってきている。



国は、100年前から能力が低下し専門的な仕事を受けることができず生活が難しくなった貴族に対して、福祉として補助金を出している。


貴族として一度認めたものを剥奪するのは惨い。

当時の王様によるその温情の元で100年後の私達は生きられている。


そのため、能力を失った貴族は贅沢をしない限りは働かなくてもいい。


ただ落ちぶれた貴族に対して向けられる世間からの視線は、優しくはない。


過去の祖先の栄光に縋って、生活をしている無能な貴族。それが、私達のような貴族に向けられる視線だ。


ただ私はそれに耐えられなかった。家の名誉を取り戻すために。私は、父の反対も押し切り2年前に医院を開業をしたのであった。


屋敷から数メートルの所に建っている医院は、小規模ではあるが【誰にでも丁寧に】をモットーに経営を行い近所の住民がかかりつけにしてくれる事が増え、最近ようやく黒字になった。


赤字から黒字に転換させるのは、大変だった。しかし、それを諦めなかったのはブラッド家の名前を再興させるためだ。



そんな風にブラッド家を背負ってきた私は、当然家督を継ぐつもりであった。なので、その自尊心が思いもよらないタイミングで打ち砕かれたのには耐えられなかった。



その日食べたディナーの味は覚えていない。

私は、その後ディナーを食べて屋敷に帰ってから、父を説得しようとしたが「今日からお屋敷でお世話になります」というショーンの言葉でその計画も頓挫した。


その晩から、ショーンは我が家に住むこととなったのだ。本格的に、家族の一員になろうとしていた。


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