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我が家に養子が来るらしい。


「ちょっと待って下さい、父様。どういうことですか!?」

私は怒りに震え、思わずスカートを握りしめる。今日履いているのはお気に入りのシルクスカートだ。


いつもなら、座る時にもシワにならないように気をつけるが、今はそんなことすら気にならない。

怒りと驚きをを逃がす為に、何かを掴まざるを得なかった。


「だから、今言った通りだ。次の跡取りが決まった。アンリは、うちの事情に縛られなくていい。家督を継ぐとか、それは男がやる事だ」


父様は、お気に入りのキセルを吹きながら時代錯誤な言葉を真面目な顔で飄々と紡ぐ。


「そんなこと言ったって…ジーンが亡くなってうちの家に男は父様しかいないじゃない」


そう、我が家には父親の後を継ぐ予定の男がいない。本来であれば、私の一つ下に弟がいたのだが、弟は数年前に他界している。


そんな中で、跡取りが決まっているなんて言うのは父様の妄言か。それとも騙されているのか。その2択である。


「ああ、だから。養子をとることになったんだ」


養子!?元々、独断で大事なことを決めがちな父様ではあるがここまでだとは思いもよらなかった。私は、驚き過ぎて言葉が出ない。


「明日18時に、いつものレストランでその方を紹介するから来なさい。折角だ。婚約者のユージーンくんも呼びなさい」


自分本位な父様は、私が黙ったのをいいことにそう言って部屋から出ていった。


それから、どれくらいが経っただろう。我が家に昔からある有名な彫刻師が掘ったという木彫りの鳩時計の1時間に1度の鳴く甲高い声を2回ほど聞いたような気がする。


誰だか知らないけれど、私の居場所を奪うなんて許さない。私は熟考の上、そう決意をしてスカートから手を離した。長い時間、握っていた事を示すように私が手を離した時にはシルクにはシワが刻まれてしまっていた。




私と父様は、指定の時間に我が家の行きつけである個室があるレストランに来ていた。


「父様、やっぱりやめておいた方がいいんじゃないですか。こんな大事な場に遅れてくる方なんて、ロクな方じゃないです」


養子になる予定の人と会う約束の時刻から、30分が経った。私は父様に遠回しに養子をとる事を辞めるように伝える。


「業務が忙しくて、少し遅れるらしいと連絡は受けているから、待とうじゃないか。ところで、ユージーンくんは呼ばなかったのかね?」


忙しいなんてのは、言い訳でしかないに違いない。そんな陳腐な言葉で、こんな大事な場に遅刻をしてくるなんて、信用に足らない人だわ。


「ええ、彼も”忙しい”ので」

私は、嫌味っぽくそう言って返した。ちなみに婚約者であるユージーンは誘ってすらない。

ユージーンは、私の高校生からの許嫁だ。ただ、許嫁とはいえまだ他人であるユージーンをこの場に連れてくるのは気が引けた。揉める家族の姿は見せたくなかったからだ。


私が嫌味っぽく返してから、父様は話しづらくなったようだ。沈黙が流れる。



静かな部屋に父様の貧乏ゆすりの音が響く。神経質な父様の貧乏ゆすりは、均等なリズムを刻んでいる。


元々頑固で神経質な父様ではあったけれど、数年前はここまでではなかった。酷くなったのは母様が病気で死去し、翌年に弟のジーンが亡くなってからだ。


母様は太陽のような人であり、弟もその性格をよく受け継いでいた。そんな2人がなくなってから、我が家の太陽の輝きが失われてしまい、残ったのは今の暗い空気だけである。


このレストランは、我が家の御用達であるが、母と弟がいた頃は静かになる事がなかった。


このレストランが、こんなに過ごしにくい場所になるなんてね。父がたてる貧乏ゆすりの音を聞きながら、昔を思い返してセンチメンタルな気分になっていたら、外から足音が聞こえてきた。


そうしてパタパタ。という音が、どんどん近くなってきたと思うと、個室のドアが開いた。


「失礼します」

すると、そこに立っていたのは黒を基調としたジャケットに白のマントを身にまとった青年であった。それは、選ばれた人間しか着用を許されない我が国の騎士コスチュームである。


「遅れてすみません。仕事が長引いてしまったもので」

青年は、手に填めていた手袋を外して父と握手を交わす。


「いや、忙しい中で来てくれてありがとう。紹介する。こちら、私の娘のアンリだ」


父は、私を相手方に紹介する。私は、その紹介を受けて形式的に礼をしてから顔を上げる。すると、涼し気な顔をした端正な青年の顔が目に入る。


あっ、。私はある事に気がついた。


ーこの人の事、知ってる。


「…お久しぶりです。アンリ」

それは、昔のように左右対称の整った作り物のように美しい笑みだった。


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