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彼女が竜族の神子と呼ばれるまで  作者: にゃんたるとうふ
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第十四節

「いっつ・・・っ!」

「あ、あんまり動かないで・・・消毒しないといけない、から」

彼女の補助も相まって匠の才能によって広場全体を炎で包み込むことに成功し、見事骸骨を灰に帰すことのできた二人だが・・・気力で立っていた匠が緊張が切れると共に倒れたことで、彼女に介抱されることとなった。

「回復薬で大きな傷は治したけど、細かな傷は塗るタイプの回復薬を使わないと・・・」

「べっ、別にそれくらい自分でっ―――」

「うぅん。戦いでは役に立たないんだから、これぐらいさせてほしい」

強い意志の乗った言葉を返された匠はそれ以上何も言えず、ただじっと待つのも居心地が悪いので視線を逸らしていたが・・・意を決したように顔を彼女に向けて口を開く。

「あぁっとその・・・悪かったな、今までその・・・嫌な態度取っちまって」

「そ、れは・・・私にも非があることだと、思うし・・・」

彼女の言葉にすぐさま首を左右に振った匠は、今までの自身の行いを悔いるように視線を下げながら言葉を漏らす。

「昔、小五の時に・・・たまたま聞いちまったんだよ、自分に宛てたラブレターに''こんなのいらない,,って言ってるのを」

「え・・・?」

驚いた表情を浮かべる彼女に、匠は一つ溜め息を吐いてから続きを口にする。

「それを聞いてよ、竜胆が人の心を踏みにじる奴だって勝手に判断して、勝手に幻滅してあんな態度を取っちまった・・・まったくもってあの頃の俺はガキだった、少し考えれば竜胆にも何か訳があったんじゃねぇかって思えたのにな」

「小学五年生の時の、ラブレター・・・?こんなのいらっ―――ぁ、あぁっ!そうなの!聞いてよ、翁草君っ!」

「え?お、おう?」

突然大きな声を上げて前のめりになる彼女の勢いに押されるように身体を仰け反らせた匠は、一体どうしたのかという疑問を抱きながら耳を傾ける。

「実はその時に貰ったラブレターが初めてでね、少しだけ浮かれちゃってたのも事実だよ?でもね?わざわざ代わりに断ってあげるって言ってついてくるのは違うと思うの、瑠子も璃玖も私が自力で返事できないと思ってたみたいでね?待ち合わせ場所にまでついてきてくれたけど、さすがに第三者がいるのはおかしいと思って二人に付き添いは(こんなの)いらないって言ったの!でも結局、相手の人は来なかったんだけど・・・ってなんで翁草君が知ってるの?」

早口でまくし立てるように声を上げる彼女の様子に驚いていた匠だが、思考がようやく話を理解した時には間抜けに口をポカンと開けて目を点にしていた。

「つまり、あれか?竜胆がいらないっつってたのはラブレターじゃなくて、璃玖と瑠子の付き添いの方だったってことか?」

「? うん、そうだよ?」

疑問符を浮かべながら頷きつつそう返事をする彼女に、匠は乾いた笑いを漏らしながら力が抜けたように背中から倒れ込む。

「え、えっ・・・?ど、どうしたの?翁草君?」

「なんでもねぇ・・・ただ自分の愚かさと恥ずかしさで死にたくなっただけだ」

自身の発言に慌てた様子であたふたする彼女の姿を目にして、昔自身を気にかけてくれた優しい少女のままだと認識した匠は自然と頬を緩ませて笑みを浮かべていた。




ある程度傷の手当てを終えた匠は彼女へとお礼を口にして、二体の竜族と彼女の幼馴染との再会を果たすために重い腰を上げる。

「もっ、もうちょっとゆっくりしてた方がいいんじゃないかな?」

「竜胆の回復薬のおかげでだいぶ楽になった、それに何時さっきみたいなのに襲われるかわからねぇしな。それで竜胆を守り切れなかったら、俺は俺を許せねぇ・・・だから早く合流できるならした方がいいだろ」

「それは、そうだけど・・・っ?あれ、この音っ―――」

不安気に匠を見つめていた彼女だが不意に顔を明後日の方向へと向け、匠もつられる形で彼女の視線の先である大きな扉を注視した瞬間・・・轟音と共にその扉が粉々に吹き飛んだ。

「―――は?」

匠は驚きで目を見開いていたが、彼女は砂埃が舞っている奥の人影を目にして喜色の籠った声を上げる。

「エレっ「んーっ!!」――わっ、トウカ?」

人影に呼びかけようと口を開いたがそれよりも早く白銀の風が砂埃を吹き飛ばしながら彼女に飛びつき、彼女は驚きながらもしっかりと抱き留めて頬を緩ませる。

「ちょっ、トウカ!抜け駆けはズルいわよっ!主君ー--っ!!」

「エレナっ――わぷっ」

扉を吹き飛ばした自身より早く主の元へと駆け寄ったトウカに苦言を呈しながらも、すぐさま彼女の元へと辿り着いた黄金の雷は嬉しさを爆発させながら包み込むように抱き締める。

「主君ケガしてない!?嫌な気配を感じて道中の有象無象を塵にしながら進んでたんだけど、遅くなってごめんなさいっ!」

「ん、んんっ・・・んー!」

「わ、わわっ・・・!ふ、二人とも心配してくれてありがとう。少し危なかったけど、翁草君のおかげで何とかなったんだ」

彼女の言葉を受けてようやく匠へと視線を向けた二体の竜族は、これでもかと不服そうな表情を浮かべながら口を開く。

「主君を守ってくれたことには礼を言うわ、下等っ――人間」

「ん」

「え、あっ・・・おう」

お礼を口にする顔じゃねぇと匠は思ったが、それを声に出すと面倒臭いことになるなと察して流すことにした。


「ぬぐぐぐっ・・・!寧々にあんなに密着してぇ・・・!寧々が自然に受け入れてるのも悔しいっ!」

「俺たちが離れている間にあの二人と何があったのか、気になるな・・・尊さを感じるね」

悔しさで顔を歪ませる瑠子とは対照的に、落ち着いた様子で彼女と二体の竜族の馴れ初めを気にする璃玖なのでした――――






―――――〇▲▲▲〇―――――






「そっ、そうだ・・・!瑠子たちの目的ってたぶん、この部屋の真ん中にあるあの白い剣だよね?早く取って戻ろうよっ・・・あ、あれ?」

二体の竜族に迫られながら思い出したように声を上げる彼女に、そういえばそうだったとハッとした表情を浮かべた三人は部屋の中央へと顔を向ける。

「そういやそれが目的だったな、って・・・あ」

視線の先には匠の放った竜炎の衝撃で粉々に砕けた白い剣の残骸があり、剣の刺さっていた台座からは白い光が漏れ出していた。

「砕けてるけど」

「砕けてるね」

瑠子と璃玖はそう声を揃えて口にして匠へと視線を向ける、視線の先では気まずそうに顔を歪めた匠がどうすればいいかと思考を巡らせながら頭を掻く。

「お、翁草君だけのせいじゃないよっ。私も忘れてたし、何なら威力を上げたのは私の才能だと思うから・・・!」

「おまっ・・・何でわざわざ言うんだよ、俺のせいにしときゃあ丸く収まったろうがっ!」

「私も原因の一端なんだから、翁草君だけのせいにはできないよ!・・・私の才能が役に立ってなかったのなら、話は別だけど」

「いや、それは役に立った。竜胆がいなかったら、あの骸骨野郎も倒せなかっただろうしな」

「っ、そっか・・・よかったぁ。ありがとう、翁草君」

「・・・おう」

お礼を口にしながら微笑む彼女の顔を直視できずに顔を逸らす匠の頬は少し赤く、二人の間には少し前まであった重い空気はなくなって和やかな雰囲気が流れている。

「―――んっ!!」

「―――むっ!!」

そんな雰囲気を察した二体の竜族は彼女を抱き寄せるようにして間に割って入り、鋭い視線と唸り声を上げて匠を牽制する。

「ふ、二人とも・・・?どうかしたの?」

「深い意味はないわ、主君。ただ主君はアタシたちの(モノ)だって証明するだけだからっ!」

「ん、んーっ!」

強く抱き締めながら徐々に顔を近付けてくるトウカとエレナに困惑しつつも、抵抗らしい抵抗を試みない自身に気付いて頬を朱に染めて縮こまる。

「・・・うぅ、これも二人のせいなんだから」

「? 何のことを言ってるのかわからないけど、ちゃんと責任は取るわよ?そもそも手放す気はないし」

「んっ、んーっ・・・んちゅっ」

ささやかな抵抗とばかりに頬を膨らませる彼女を気にすることなく距離を詰めたエレナは自身の意志を見せるように強く彼女を抱き締め、トウカも気持ちを表すように彼女の膨らんだ頬に口付けを落とす。

「わ、ひゃっ・・・二人とも落ち着いて・・・わわっ」

二体の竜族の求愛を止めようと声をかける彼女だがその頬は緩んでおり、それを遠目でも確認できた瑠子は不機嫌そうにこれでもかと頬を膨らませる。

「寧々に抱き着いてほっぺにチューまで・・・っ!羨ましっ、ズルっ、悔しっ、慌ててる寧々かわいいっ―――私も寧々とチュッチュしたいっ!!」

「えぇっ!?る、瑠子!?き、急に恥ずかしいこと叫んじゃダメだよっ!?」

気持ちが溢れに溢れた瑠子の本心を聞かされた彼女は、耳まで赤く染めながら慌てた様子で声を上げる。

「そうよ、主君と愛し合うのはアタシたちなんだから、下等生物はそこで指を咥えて見ておくことね。それにさっさと目的を果たしてくれる?アタシたちも暇じゃないの、わかる?」

彼女を瑠子から隠すために包むようにして抱き締めたエレナは、吐き捨てるようにそう口にしてから手で払う仕草をする。

「・・・そういえば、結局ここには何をしに来たの?瑠子たちを護衛するのが依頼だったけど、目的までは聞いてない・・・よね?」

二体の竜族に包まれる暖かさに目を細めていた彼女が口にした問いに、話す前に離れ離れになったことを思い出した璃玖が口を開く。

「ここへは聖なる武具を取りに来たんだよ。ほら、この部屋の真ん中にある台座に刺さっていただろうあれだよ」

璃玖の返事を聞いてやはりそうなのかと自身の失態を再確認した彼女は目に見えて気持ちを沈ませ、それを目にして慌てる璃玖へとエレナが鋭い視線を向ける。

「ふんっ。あんなのただの蓋でしかないわ、本当に見るべきはあの台座よ」

言葉を紡いだエレナと彼女への頬擦りで忙しいトウカ以外の面々は、頭上に疑問符を浮かべながら台座へと注目する。

「あの台座から漏れ出ている光は聖なる光、女神が魔王が誕生した時の人間の為の対抗策として生み出したそうよ。台座に属性の付与していない武器を突き刺すことで、その武器を聖なる武具へと昇華する・・・だったかしら?」

その先では未だ白い光を放ち続けている台座が無傷で鎮座しており、よく見ると漏れ出る光が凝固するようにして形を作っている。

「そして光が溢れないようにあぁして蓋をするってわけ、わかったらさっさと手に持つ武器を突き刺してきなさい。アタシたちは主君と愛を確かめ合ってるから」

エレナの言葉に何か言いたげに歯を食いしばっていた瑠子だが、璃玖に引っ張られる形で台座の方へと連れていかれるのだった。




「・・・すげぇな、台座に刺しただけでこうも変わるもんか?」

匠が背負っていた大剣を台座に刺してから数瞬で大剣を包んでいた光が収束し、光が収まった頃には全く別の見た目へと変化していた。

「これで聖なる武具になったの?たしかに心做しか軽くなった気がする、璃玖は?」

「俺のは杖だからそこまで大きな変化はないよ、ただ薄っすらと魔力を帯びている気がするくらいかな?」

そう口にしてから手首の捻りを利用して杖を一回転させる璃玖、そんな光景を驚いた様子で眺めていた彼女は何かを思いついたようにハッとする。

「私の持つナイフも聖なる武具にできないかな?」

彼女たっての提案に応えようとしたエレナだが、すぐに渋い顔をして申し訳無さそうに眉を下げながら口を開く。

「ごめんなさい、主君。主君の期待に応えられそうにないわ、あの台座が壊れるのはともかく最悪の場合は主君がケガしてしまうおそれがあるの・・・アタシたち竜族と女神はかっなー-っり!相性が悪いからっ!」

エレナの言葉にキョトンとした表情を浮かべる彼女に強く抱き着いて同意するように何度も頷くトウカ、そのことに首を傾げた彼女が恐る恐る口を開く。

「もしかして、女神様と喧嘩でもしたの・・・?」

「喧嘩って程のものでもないけど、滅ぼしてやろうって考えてるくらいかな?」

それは相当なものなのでは!?と驚きの表情を浮かべて視線を向ける彼女に対して、エレナは彼女と目が合っていることに口元を緩ませて頬同士を擦り合わせる。

「ん、むぅ・・・く、くすぐったいよエレナ・・・わぷっ、トウカまで・・・わわっ」

「んんーっ」

二体の竜族に挟まれる形で頬擦りされる彼女は困惑した様子を見せながらも、抗うことなくしっかりと受け止めて頬を緩ませる。

「ぐぬぬぬっ・・・!」

「・・・うん、心が洗われるようだね」

「(犬とかがじゃれついてるみてぇだな、声に出すと面倒そうだから口には出さねぇけど)」

彼女たちのやり取りを遠巻きに見ていた瑠子たちは、三者三葉の反応を見せながら彼女たちの側に歩み寄るのだった――――






―――――〇▲▲▲〇―――――






「主君、足元には気を付けて」

彼女の手を取って先導するようにして歩いていたエレナの言葉に視線を下げる彼女は、自身を支えるように身体に抱き着いていたトウカと視線が交わると嬉しそうに声を漏らす。

「んっ」

「うん、二人ともありがとう。もう外に出たから大丈夫だよ」

彼女の言葉に了承の頷きを二体の竜族が返すのを見て、ようやく視線を上げると自身の存在に気付いたクロが駆け寄ってくる姿を目にする。

「クロ、ただいま。何もなかった?魔物に襲われたりしてない?」

「ブルルッ」

彼女の問い掛けに首を横に振って答えたクロは鼻先を彼女の頭に押し当てる、そのことにくすぐったそうに目を細めつつ安堵の息を吐く。

「クロが怖い思いをしてないならよかった、私の方は色々あったんだ・・・うん、色々」

何処か疲れたように目を伏せる彼女の姿を目にして不安そうにそわそわし始めるクロ、そんな光景を眺めていた騎士たちは信じられないものを見たと言わんばかりに驚きで目を見開いていた。

彼らが見てきた魔鬼馬はとても獰猛で少女であろうと喰い散らかす野蛮さを持ち合わせている個体ばかりだったが、彼女と相対するクロにそのような素振りが見受けられないことに困惑するばかりだった。

「・・・(たしかにラメが言っていたように、不思議な魅力を秘めているみたいね。妙に声に熱がこもっていたのが気になるけど、それだけ衝撃が強かったのでしょうね・・・今の私たちのように)」

副団長であるラナも少なからず驚きの感情を抱いていたがそれを表に出すことなく、冷静に思考を巡らせながら彼女の行動を眺めていた。


彼女に対する不躾な視線にいち早く気付いたトウカは不機嫌そうに眉を顰めながら彼女と身体を密着させるように身動ぎし、それに気付いた彼女は首を傾げながらも優しく髪を梳くようにして頭を撫でる。

「・・・んっ」

彼女の手から伝わる優しい温もりを感じて目を細めるトウカにつられるように頬を緩ませる彼女、エレナも気付いた様子で視線に割って入るようにして身体を滑り込ませる。

「・・・ふんっ」

自身の行動に気付いたラナが気まずそうに視線を外すのを確認して鼻を鳴らすエレナに、彼女は不思議そうな視線を向けながら口を開く。

「? エレナ?何かあったの?」

「むっ?別に主君が気にするほどのことでもないわ、それにもう過ぎ去ったことだし・・・次はないわっ」

エレナの言葉にそうなの?とキョトンとした表情を浮かべる彼女を安心させるように頷いて返すエレナ、黄金の竜族の返事に疑いを持たずに口元を緩ませた彼女だが、すぐにハッとした表情を浮かべて顔を明後日の方向へと向ける。

「なんだか、嫌な気配が・・・する?」

彼女の呟きを耳にした二体の竜族は疑問符を浮かべるが、すぐに何かに気付いたように彼女が向いた方角へと顔を向ける。

「ん?――っ!」

「む?――っ!」

そんな彼女たちの奇怪な様子を不審に思いながら眺めていた騎士団の面々だが突如空が暗雲に覆われ、次いで凄まじい轟音が鼓膜を震わせたことで驚愕の表情を浮かべながら周りへと視線を向ける。

「なっ・・・!?この音はっ、それにこの方角はっ・・・!」

「副団長!駐屯騎士からの念話で、王城に大量の魔物が出現し・・・''黒い竜族,,が姿を現したそうですっ!!」

「なんですって!?にいっ――騎士団長、それに王と姫様はっ!?」

ラナの言葉に慌ただしく動きを始める騎士団を尻目に、彼女は震えを押さえるように自身の身体を抱く。

「主君、大丈夫よ。アタシとトウカが側に居るから、不安を感じるものは全て嚙み砕いてあげる」

彼女を包み込むように抱き締めたエレナの言葉に、彼女は小さく首を左右に振って濡れる瞳をエレナへと向ける。

「うぅん、違うの・・・たしかに嫌な気配を感じるけど、それ以上に苦しみに耐える声の方が・・・胸を締め付けるように痛いの、とっても苦しいよ・・・っ」

悲しげに眉を下げる彼女の姿を見たくないトウカは彼女の腰に回した腕に力を込めて身体を密着させ、エレナは彼女にこんな表情をさせる元凶に強い苛立ちを覚える。

「ん、んんーっ」

「そうね、トウカの言う通りだわ。どこのどいつだか知らないけれど、主君にこんな感情を抱かせたこと・・・後悔させてやるわっ」

エレナに抱き締められている彼女には気付くことができなかったが、彼女と二体の竜族以外のその場にいる者たちは凄まじい殺気と獰猛な笑みを浮かべるエレナの姿を目にして血の気が引いて青褪める。

「アタシが飛んで行った方が早いけど・・・クロっ!」

「ブルッ、ヒヒィーンッ!!」

エレナに掛けられた声に大きな鳴き声で返したクロはその場で足踏みをして脚の調子を確かめ、いつでもいいとばかりに力強く鼻から息を吐く。

「主君、これもいい機会だわ。竜族を名乗る''紛い物,,を抑えることができるのは主君、貴女しかいないわ」

「・・・え?」

耳にした言葉に顔を上げた彼女はエレナの真っ直ぐな視線を受けて、グッと歯を食いしばるように口元を引き締める。

「アタシとトウカなら紛い物を潰すことは簡単だけど、きっと主君は後悔してしまう。だから主君の力で、その紛い物を抑え込む・・・それが出来るのは主君だけ、でも身の危険が伴うわ。もちろんアタシとトウカが絶対に主君を守るけど、少しでも嫌だと思ったら断って」

「・・・やだ、ここで断ったらダメな気がする。だから、頑張るよ・・・それに二人が側に居てくれるなら、すごく安心できるから」

気丈な笑みを浮かべる彼女の頬を優しく撫でるエレナと彼女の胸に顔を埋めてジッと顔を見上げるトウカ、二体の竜族は視線を交わすと示し合わせたように頷いて彼女を抱き抱えてクロへと乗馬する。

「ね、寧々っ・・・!」

「瑠子、ごめん・・・私、先に行くね!」

瑠子が制止の言葉を口にする前に声を上げた彼女は、エレナに目配せしてそれを受け取ったエレナがクロに指示を出してその場から駆け出す。

「ちょっ、貴女たち・・・っ!?待ちなさいっ!!」

騎士たちに指示を出していたラナがそこでようやく彼女たちが魔鬼馬で走り出していることに気付き、声をかけるが通常の馬の数倍の速さで駆けていく魔鬼馬に届くことはなく、すぐに森の木々の中に消えていった後ろ姿に問題が増えたことに頭を抱えてしまうのだった――――






―――――〇▲▲▲〇―――――






今までで一番の速さを出しながら風のように木々の間をすり抜けていくクロに驚いた表情を浮かべていた彼女だが、森を抜けて見晴らしがよくなった先を目にして緊張で顔を強張らせる。

ある程度舗装された道の先には王都である『ララリナ』があり、その王都で最も大きな王城を中心に暗雲が広がり街を守るために城壁が建っているはずだがそれも無残に崩れ去り、遠くからでも街の惨状がありありと見て取れる。

「あ、あれ・・・!」

彼女が向ける視線の先には黒い靄を放つトウカと同じような四足の足で立ち、背中から生える翼を広げて咆哮を上げる黒い竜族が威圧を放っている。

「へぇ、随分と出来がいいじゃない。けど所詮は紛い物ね、アタシとトウカの一割程度しか力を発揮できてないわ」

エレナが少しばかり感心したような声を漏らすが、彼女からしたらあれで一割なのかと内心で驚愕を受けていた。

「それに城の人間を媒介に魔物を召喚しているみたいね・・・あぁ、だから勇者を呼び寄せたのね。重要な魔力源だから」

「んー」

「むっ?たしかに城の上にいるわね、やっぱり魔族が今回の元凶ね」

二体の竜族の話を耳にして視線を動かす彼女だが、魔族の姿は確認することが出来ずにジッと目を凝らす。

「とりあえず城の方はアタシがどうにかするわ、城ごとあの魔族を消し飛ばしてあげる」

「でっ、できれば犠牲になってるお城の人とか・・・私のクラスメイトも、助けてくれると嬉しい・・・かな?」

「えぇ?・・・まぁ、主君がそう言うなら」

彼女の提案に渋々ながら頷いたエレナを確認してホッと安堵の息を吐いた彼女、だが肝心なことを聞いてないことを思い出して口を開く。

「それで私は、何をすればいいの?私にしかできないことなんて、あるの?」

彼女の言葉に何度も頷いて答えたトウカは、これから彼女がすることを声に出す。

「んんっ、んーっん!」

トウカの言葉を聞いた彼女は驚いた表情を浮かべ、視線を未だ暴れる黒い竜族へと向けて決意を抱くように手を強く握り締めるのだった――――






―――――〇▲▲▲〇―――――






前方を埋め尽くすほどの魔物を目にしながらも怯むことなく聖槍を振るっていた騎士団長・ルアクだが、他の騎士団員が次々と物量で潰されてしまい戦況は絶望的に近かった。

「―――くっ、数が多いな・・・っ」

「るっ、ルアク様・・・っ!」

それでも背に隠す純白のドレスに身を包んで頭にティアラを乗せたこの国の姫君である『クムナ・ルード・サフォット』を護るために自身の才能『複製』を駆使して魔物を屠っていく、しかし数が一向に減ることはなくむしろ増えていくことに歯噛みする。

「ラメたちに城の対処を任せているが、難しいようだ・・・姫」

「いやですっ!貴方を置いて逃げるなど、わたくしにはできませんっ!」

頑なな様子にどうしたものかと思考を巡らせるルアクの耳に、馬が駆ける時の蹄の音が届いたことで援軍が来たのかと視線だけをそちらに向ける。

「有象無象がっ・・・主君の道の邪魔よ、消えろっ!」

声が聞こえたと同時に目の前に迫っていた魔物の軍勢の半数が地を走る雷によって消し飛び、驚愕に染まる思考を尻目に隣に立ち止まった馬を見上げたルアクは納得したような息を吐く。

「なるほど、貴様であったか」

「だ、大丈夫ですか!?騎士団長さん!」

不安そうに眉を下げて心配を口にする彼女の姿を確認したルアクは、先程まで感じていた焦燥が薄れていることに気付いて内心で苦笑する。

「エレナ、お城の方はお願いね?私はあの黒い竜族さんを、抑えるからっ!」

「わかってるわ、主君!終わったらご褒美のキスが欲しいわ」

「んーっ!」

「ひぅっ・・・か、考えておきます」

頬を朱に染める彼女の返事に嬉しそうに口元を緩ませるエレナは城へと顔を向けるとその笑みに獰猛さが増し、大回りをするようにして城に向かって駆け出す。

「それじゃあ、トウカ・・・私たちも、行こう・・・っ!」

「んっ!」

エレナの後ろ姿を見送った彼女は深呼吸を挟んでから声を上げて城へと顔を向け、それに合わせるように彼女の手を握るトウカも声を上げる。

「待て、貴様ら何をする気だ?」

「騎士団長さんたちは、ここで待っていてください。私があの黒い竜族さんを、いえあの人を助けますから」

「な、にを・・・っ」

ルアクが問いを投げ掛ける前に凍えるような吹雪が巻き起こり、目を開けた先には氷柱のような角と鞭のようにしなる尻尾を有した白銀の少女が立っており、ルアクが驚いた声を上げる前に迫ってきていた魔物が一斉に動きを止めて崩れ落ちる。

「まっ、また後で・・・っ!」

「――っ、おいっ!」

ルアクの制止の声を気にも留めず駆け出した彼女とトウカを追いかけようとしたルアクだが、すぐさま目にした光景が信じられずに目を見開く。

先程まで勢いが衰えることなく押し寄せていた魔物が増えるよりも早く消滅していく様に、ルアクは言葉を失って呆然としていたがすぐにハッとして先程の白銀の少女の姿を思い出す。

「あの姿、それにあの気配は・・・まさかっ」

とある結論に至ったルアクはどうやら自身の出る幕はなさそうだと考え、未だ魔物と戦闘を行う騎士団員たちを護るために姫を抱えながらその場から駆け出すのだった。

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