第十二節
エレナの膝枕で眠りについていた彼女が目を覚ますと、頬が緩みに緩んだエレナの尊顔が視界いっぱいに広がる。
「あっ!おはよう、主君。よく眠れた?」
緩んだ頬を少し引き締めてそう声をかけるエレナに、彼女は眠気が吹き飛んだ様子で口を開く。
「えっ、う・・・うん、え?もしかして、ずっと膝枕をしてくれてたの・・・?」
困惑した様子で問いかける彼女の姿を不思議そうに眺めながら、エレナは当然と言わんばかりに豊満な胸を張りながら口を開く。
「当たり前でしょ?主君と触れ合っていられる機会だし、寝顔も眺められてとっても幸福な時間だったわっ!」
満足そうに大きく息を吐くエレナに、彼女は朱に染まる頬に手を当てて恥ずかしそうに目を伏せながら口を開く。
「ぁうっ・・・ぁっ、あんまり見ないでよぅ・・・」
「――は?可愛すぎない?目覚めのキスをしてもいい?(寝てる間に何回か、我慢できずにしてるけど)」
エレナの言葉に可愛い小さな悲鳴を漏らした彼女は視線を彷徨わせてから、意を決したように瞼を閉じる。
「むふっ・・・んーっ「んーーーっ!!」―――ぁいたっ!?」
彼女の唇を目指して顔を下げたエレナだが、飛び出すようにして彼女とエレナの間に入り込んだトウカの頭突きによって阻止される。
「ふあっ・・・と、うか?――んむっ」
「んっ、ちゅぅ・・・」
「あーーっ!割り込むなんてズルいわよ、トウカ!」
朝から言い合いを続ける二体の竜族の姿に、彼女は頬を緩ませながらついつい笑みを零すのだった――――
―――――〇▲▲▲〇―――――
身支度を済ませた彼女たちは昨夜のやり取りの通り、ギルドへと足を運んで目当ての人物の元に向かう。
「―――っ!!」
その目当ての人物であるルースナはギルドに姿を見せた彼女を確認した瞬間にイスから立ち上がり、目を見開いた状態で鼻息を荒くする。
「っ・・・んっ、んんっ!」
しかしすぐに我に返ったのか腰を下ろし、咳払いをしてから髪や服をいじったりして身だしなみを整える。
「あからさますぎない?」
「んー・・・」
「? 何の話?」
二体の竜族はそんな獣人の受付嬢の姿に呆れた視線を向け、よく分かっていない彼女だけが首を傾げていた。
彼女がソワソワと落ち着きのないルースナの待つ受付へと辿り着くと、待ってましたとばかりに身を乗り出したルースナと・・・壁を背にして佇んでいたラメが歩み寄って口を開く。
「待ってました!ネネさんっ!ご無事で何よりです、依頼が終わってなくてもギルドに寄って姿を見せてくださいね?私の精神衛生上、ネネさんを見ないと落ち着かないので!」
「おはよう、ネネ。ルースナの言い分はあまり気にしなくていいけど、元気な姿を見せてくれると私も嬉しいわ」
ルースナとラメがほぼ同時に喋りかけたことで彼女は困惑するが、自身の心配をしてくれていることを感じ取って気恥ずかしさで俯き気味になりながら言葉を返す。
「えと、心配させてすみません。これからは帰りもギルドに寄るのでその、待っていて・・・くれますか?」
少し上目遣いで視線を向ける彼女の姿にルースナは「はうっ・・・!」という声を漏らして胸を押さえ、ラメは満面の笑みを浮かべる。
「一生待っていますっ!!」
「可愛い、じゃなくてもちろんよ。ネネの帰りをいつまでも待っているわ、ずっとね」
「そっ、そこまで深刻に受け取らなくてもいいんですよ・・・?」
二人の気概に少し圧倒される彼女は、苦笑を浮かべながらもどこか嬉しそうな雰囲気を纏っている。
「むっ・・・それで?何か主君に話があるんじゃないの、獣畜生っ」
「んっ・・・!」
見下す視線と極寒のような凍える視線を受けたルースナは、立っていた獣耳を伏せて怯えたように身を震わせる。
「ヒンッ・・・それはそのあの、実はネネさん宛てに依頼が来たんです・・・ハイッ」
「私に、依頼・・・?」
縮こまるルースナの口にした言葉を受けて、彼女は首を傾げながら不思議そうに声を漏らす。
「はいっ!えぇっと・・・こちらになります!」
受付台の引き出しから一枚の依頼書を取り出したルースナは彼女へと手渡し、受け取った彼女が目を通そうとするとトウカが下から見上げてエレナは彼女の肩越しに覗き込む。
「要人の護衛?主君の実力が認められたのは嬉しいけど、ギルドからでないのが気になるわね」
「え?あ、本当だ・・・って、聖騎士団団長って「それは本当っ!?」――わっ」
彼女の呟きに大きな反応を見せたラメは、彼女が手に持つ依頼書を覗き込むために距離を詰める。
「っ、たしかに彼の名前が書かれているわね・・・(何で彼自らが?要人ってもしかして、勇者?だとすると行く場所は・・・)つまり彼の目的はっ―――」
「ら、ラメさん・・・?」
顎に手を当ててブツブツと何かを思案するように呟くラメの姿に困惑した彼女が声をかけるも、思考を巡らせるラメの耳には届いていない様子で返事を聞くことはできなかった。
「あれは放っておいて、主君はそれ受けるの?」
依頼書から視線を外した彼女は、エレナとトウカに交互に視線を向けてから口を開く。
「どう、しょう・・・私よりもエレナとトウカの負担が大きいから、二人に決めてほしいかな?」
彼女の視線を受けたトウカとエレナは目を合わせると、トウカはギュッと彼女に抱き着いてエレナはふんっと胸を張りながら声をあげる。
「アタシたちは主君に従うけど、今回は受けてもいいんじゃないかな?主君がさらに認められる機会だしねっ!」
エレナの言葉に賛同するようにコクコクッと首を縦に振るトウカの二体の反応を見て、彼女は小さく頷いてからルースナに視線を向けて口を開く。
「それじゃあ、えぇっと・・・受けることに、します」
「は、はい!わかりました、えっと・・・こちらが依頼書になりますっ!」
手渡された紙を受け取った彼女は依頼書へと目を通し、護衛をする日時が三日後であることに気付く。
「あと三日・・・だったら今受けてる依頼もこなせる、かな?」
「主君のためならパパッと終わらせるわよ?」
「んーっ!」
彼女の疑問の声に自信満々に返す二体の竜族に、彼女は自然と頬を緩ませて声を漏らす。
「ありがとう、二人とも。それじゃあその、お願いね?」
「ふふんっ!任せておいて、主君!」
「んんっ!」
元気な二体の返事を聞いた彼女は申し訳なさそうに眉を下げながらも嬉しそうに顔を綻ばせ、それを眺めていたルースナは面白くなさそうに頬を膨らませる。
「ぬぐぐっ・・・!私だっていつかネネさんと・・・」
「一度大きく動いた方がっ―――って、あら?もしかして、もう話は終わってる・・・?」
長考していたラメは話が纏まっていることに気付いて声を漏らすが、二体の竜族に構っている彼女は気付かずに話を続けている。
「あっ、じゃあ私は依頼に向かいますね?えっと、ラメさんも依頼がんばってくださいっ!」
微笑みを浮かべて自身の手を握る彼女の姿に、ラメは小さな息を深く吐いてから口を開く。
「――えぇ、もちろん。全てを根絶やしにするわっ」
「さ、さすがにそれはダメなんじゃ・・・?」
いい笑顔を浮かべながらそう口にするラメに、彼女は困惑したような笑みを浮かべる。
「――っと、言ったけど・・・私は急用が出来たから、少し遠出するのだけどね」
ラメはそう言い残して彼女に手を振りながら足早にギルドを後にし、それを見送った彼女はルースナに声をかけてから依頼へと出向くのだった――――
―――――〇▲▲▲〇―――――
昨日と同じように魔鬼馬のクロに乗って討伐対象のいる森へと訪れた彼女は現在、手頃な大きさの切り株に腰を下ろしてトウカを膝枕していた。
「・・・って、いやいやっ。やっぱりおかしいよ!」
突然大きな声を上げる彼女にトウカは疑問符を浮かべながら見上げるように視線を向け、周りをウロウロしていたクロは何事かと彼女に歩み寄る。
「んー・・・?」
「ブル?」
眠け眼と純粋な疑問の視線を受けた彼女は、大きな声を出したことにハッとして口を押さえながら声を漏らす。
「あっ、えと・・・ゴメンね?起こしちゃって・・・でもやっぱり今の状況に疑問を感じちゃって、依頼をせずにこうしてていいのかなって」
「・・・?」
彼女の言葉にさらに疑問符を浮かべるトウカ、そして彼女の無事を確認したクロは再び周囲を警戒するように歩き回る。
「討伐の依頼だから私に出来ることがないのはわかってるよ?けど、ただこうして何もせず座ってるだけでいいのかなって・・・これじゃあ完全にヒモ・・・」
「んん、んーっ。んんーっ」
彼女の言葉に反応するように声をあげたトウカは、膝枕をされた状態から彼女の腰に腕を回す。
「うっ・・・たしかにエレナに任せるのが一番だけど、やっぱり何もしてないと落ち着かないというか・・・いやっ、できることがないのも事実なんだけどね」
そう口にした彼女は乾いた笑い声を漏らすが、それにムッとした表情を浮かべたトウカは腰に回す腕に力を込める。
「んんっ、んっ!んーんんっ!」
「トウカ?・・・うん、ありがとう。そう言ってくれるのは嬉しいけど、私にもできることはしていきたいんだ」
励ましの言葉を口にするトウカに微笑みを向けながら、トウカの髪を手櫛で梳くように撫でつつ彼女は心情をこぼす。
「・・・んー」
「でも私が困った時は助けてくれると嬉しいな、ってそれはいつものことか。あはは・・・はぁっ「ギヤァァャアァァァァッ!!」――ひぇっ!?」
気持ち良さそうな声を漏らすトウカを目にして自然と口元を緩ませていた彼女だが、突然聞こえてきた耳を劈く奇声に身体を大きく震わせて周りに視線を向ける。
「ギャギャギャギャギャッ!!―――ギョッ!?」
「へっ?」
すると茂みの奥からけたたましい鳴き声を上げながら一羽の大きなダチョウにも似た鳥が姿を見せ、彼女と目を合わせると身体を小刻みに震わせながら縮み始め・・・ひよこサイズまで小さくなると、羽をパタパタと動かしながら彼女の足元へとやってくる。
「ち、小さくなっちゃった・・・っ?」
「チッ・・・!逃げ足だけはあるんだから――って、主君!」
困惑しながら小さくなった鳥を両手で掬うように持ち上げた彼女は、再び茂みが揺れて姿を見せたエレナに目を丸くする。
「エレナ?あっ、もしかしてこの子が依頼にあった・・・」
「そうよ、それがバードハート。他者の心を汲み取って姿を変える鳥類よ、アタシを視界に捉えた瞬間に走り出すから面倒だったけど・・・主君の前に出てくれたのは嬉しい誤算ね、これなら生け捕りにできるわ」
エレナの言葉に彼女は首を傾げ、頭に浮かんだ疑問を口にする。
「生け捕り?この子ってたしか、討伐依頼だったよね?」
「主君の言うとおりよ、でも生け捕りにして連れ帰ったほうが報酬は高いのよ。捕獲報酬ってやつね、それに生態に謎が多い鳥類だから研究にも用いられて報酬の上乗せもあるの」
彼女はエレナの話に感嘆の声を漏らしていたが、ふと疑問に思ったことを口にする。
「そういえば、エレナってギルドのシステムとかに詳しいよね。どうして?」
彼女にそう尋ねられたエレナは、あぁという声を漏らしてから言葉を紡ぐ。
「主君と出会う前に一度だけ好奇心で街に潜伏していた時期があったの、それで色々と見聞きしたってわけよ」
「そうなんだ、どうだったの?」
続けて彼女に問を投げかけられたエレナは、顔をこれでもかと顰めさせて吐き捨てるように言葉を漏らす。
「やっぱり、人間なんて所詮下等生物だと再認識したわ。あっ、主君は別だからね?」
一体何があったんだろうと困惑した心持ちになったが彼女だが、嫌な気持ちを思い出させるのはどうかと考えてそれ以上追求はせずに手元のバードハートに視線を戻す。
「じゃあこの子は連れて帰るの?」
「えぇ。主君が持っていれば暴れることはないでしょうから、安心して運んで帰れるわよ・・・あっ、あとこれが他の依頼対象から剥ぎ取ったものよ」
そう口にして革袋を彼女に手渡すエレナ、受け取った彼女は中身を見ないように心掛けつつ自身の背負うカバンへと放り込む。
「・・・主君、好き」
「へ?な、何で急に・・・?」
突然エレナから飛び出した愛の言葉に困惑と共に頬を朱に染める彼女、その姿を見つめるエレナは頬を緩ませて満面の笑みを浮かべている。
「別に深い意味はないわ、ただ純粋なアタシの気持ちを口にしただけよ」
「へぁ、うぅっ・・・あ、ありがと」
真っ直ぐそう告げられた彼女は頬だけでなく耳まで赤くしてお礼を口にする、それに負けじとトウカも彼女に愛を囁くのだが・・・恥ずかしさが頂点に達した彼女が無理矢理話を打ち切り、クロに乗って『スロー』の街への帰路に着くまで愛の告白は続いたのだった――――
―――――〇▲▲▲〇―――――
『スロー』の街へと戻ってきた彼女はクロに労いの言葉をかけ、エレナが厩舎にクロを戻しに行く間に彼女はルースナの元へと赴いて依頼の報告を行う。
「おかえりなさい、ネネさん!依頼の報告ですね、剥ぎ取った素材を出してください!」
「あっ、はい!えぇっと・・・ど、どうぞっ」
ルースナの言葉に返事をしてから背負っているカバンから素材の入った皮袋を取り出し、トウカの頭の上で寝息を漏らすひよこサイズの鳥類を持ち上げて受付台へとそっと乗せる。
「? これはもしかして、バードハートの幼体・・・ですか?」
「えっと、多分成体?だと思います。初めて見た時は凄く大きかったですから」
彼女の言葉を耳にしたルースナは、彼女とバードハートを交互に見つめてからポカンと口を開く。
「(バードハートは他者の心を読み取ってその姿と強さを変える生き物、それがこんなに小さくなって警戒せず寝てるなんて・・・さすがネネさんです!心まで純粋で綺麗だなんて、素敵ですっ!)―――はぁーっ、お腹がキュンとしちゃいます」
「キュン・・・?」
ボソリと呟いたルースナに首を傾げる彼女、ルースナはルースナで呟きを聞かれたことに内心で大慌てしながらも笑顔を向けてから自身の仕事に取り掛かる。
「? 気のせい、だったのかな?」
そのことにさらに首を傾げる彼女だが、トウカに握っている手を引っ張られたことで視線をそちらに向ける。
「んー」
「んっ、そうだね。今日はもう遅いから、ギルドの食堂に寄ろっか?明日は護衛に必要な物をラメさんに聞いて・・・」
彼女の返事を聞いたトウカは少しだけ不満げな雰囲気を醸し出したがすぐに引っ込め、彼女の手をニギニギすることで気を紛らわす。
ちなみにいつもであれば、宿屋にある食堂で彼女が料理を作るので二体の竜族を始め、ラメもちゃっかり食事に参加したりしている。
食材費は宿泊代に含まれているため、自炊するか宿の従業員に作ってもらうかを選ぶことができる。
普段依頼で頑張る二体を労うために料理を振る舞う彼女に、完全に胃袋を掴まれているトウカとエレナ・・・そしてラメなのでした。
「でしたら後ほど報酬を渡しに行くので、先に食堂でご飯を食べてきてくださいっ!精算に少しだけ時間がかかると思うので!」
「そ、そうですか?じゃあお言葉に甘えて・・・あっ!エレナ!」
ルースナの言葉に驚いたような声を上げてから厚意を受け取り、入口へと視線を向けた彼女はエレナの存在に気付いて声をかける。
「主君、どうかしたの?」
「うん。今日はギルドの食堂を利用しようと思って、今から行くんだけど」
「えっ・・・つまり主君の作った食事じゃないの?」
彼女の発言にショックを受けた表情で口にするエレナに、困惑した表情を浮かべながらも言葉を続ける。
「だ、大丈夫だよ!ギルドの食事の方が美味しいと思うし、エレナも気に入るとっ「主君の作る食事に比べたらどれも残飯よっ!」――そっ、そういうことは大声で言っちゃだめだよっ!?」
慌ててエレナの口を塞いだ彼女は周りに視線を向け、誰も見ていないことを確認するとホッと安堵の息を吐く。
「う、嬉しいけど外ではあんまり言わないでね?」
「まぁ・・・主君がそう言うなら、じゃあ明日の朝食は主君が作ってくれる?」
「んーっ!」
頬を染めて恥ずかしそうに声を漏らす彼女の姿にキュンッとしながら了承の返事をしたエレナは、一つの提案を口にすると同意するようにトウカも声を上げる。
「それぐらいなら全然いいよ、いつも二人には頑張ってもらってるもんね。腕によりをかけて作るね?」
「んーんっ!」
「やったーっ!」
彼女の返事に歓喜の声を上げる二体に微笑みを浮かべながら、不意に視線を感じた彼女が顔を向けると目をいっぱいいっぱいに開いたルースナと目が合った。
「ひゃぁっ・・・!?」
あまりの表情に驚きの声を上げる彼女の姿にハッとしたルースナは一つ笑みを浮かべてから奥へと引っ込んでいった。
「? ど、どうしたんだろ?」
「別に気にしなくてもいいわよ、それより早く食堂に行きましょう」
「ん」
疑問符を浮かべる彼女の手を引いて食堂に向かう二体の竜族に促されるまま、疑問を頭の片隅にやった彼女は歩みに集中するのだった――――
―――――○▲▲▲○―――――
ギルドの食堂へと足を踏み入れた彼女たちは、賑わい立つ冒険者たちに三者三様の声を漏らす。
「すごいね、活気に溢れてるっていうのかな?」
「光に群がる虫ケラみたいで滑稽ね」
「んんー」
感嘆の声を上げる彼女を尻目に、エレナは冷めた瞳でそれを見つめて、トウカに至っては視線すら向けずに彼女の手の感触を堪能している。
「とっ、とにかく何か食べようか?えっと、空いてる席は・・・」
周りを見渡して空いている席を探す彼女と同じように周りに視線を向けるエレナ、しかし見渡すテーブルにはどこも人が座っており、空席は無いふうに見える。
「どこもかしこも座ってるわね、排除しよっか?」
「ダメだからねっ!?でもどうしよう、座れないんじゃどうしようもっ「あん?お前何してんだ?」――へっ?」
突然声をかけられた彼女が反射的に振り返ると、そこにはラメと同じAランク冒険者のオードとその取り巻き二人が立っていた。
「この前は色々言っちまったがよ、お前が無事で良かったとも思ってるんだよ。だから遠慮することはねぇぞ」
「あっ、えぇっと・・・あ、ありがとうございます」
そう口にしたオードはテーブルに並べられた料理を彼女と二体の竜族に勧める、そのことに彼女は遠慮気味に頷きながらも手を出せずにいた。
現在彼女は声をかけてきたオードと同じテーブルを囲み、頼まれた料理を前に困惑した様子で視線を彷徨わせている。
「人間にしては殊勝な心がけね、もっと主君を敬いなさい」
「んむ、んむっ」
エレナは感心したように頷きながら腕を組み、トウカは運ばれてきた料理に真っ先に手を伸ばして頬張っている。
「あ、あのっ・・・お金はちゃんとありますから、奢ってもらわなくても・・・」
「そういう問題じゃねぇよ、初対面の時や竜族撃退の時とかに見た目で判断して色々あったろ?それで嫌な思いとかさせちまっただろうからな、謝罪みたいなもんだ。だからグダグダ言わずに黙って受け取っとけ」
でも・・・とまだ渋った様子で口を開く彼女に、オードの取り巻きである二人が先に声を上げる。
「お詫びの品とか色々考えてたんっすけど、兄貴はそういうのには疎いんで」
「そうして悩んでいる所に件の嬢ちゃんが食事をしに来たってことで、お詫びの品が思いつかなかった兄貴の苦肉の策なんで・・・どうか甘んじて受け取ってくだせぇ」
「わわわっ・・・!頭を上げてくださいっ!そういうことなら、受け取りますから・・・!」
「つーか、お前ら!それは言うんじゃねぇって言っといただろうがっ!」
逆に頭を下げられた彼女は慌てて了承の返事をし、オードは羞恥で顔を赤らめながら取り巻き二人に苦言を呈す。
「話は一段落ついたみたいね、それじゃあ主君。はい、あーん」
「へぇっ?じ、自分で食べられるよ・・・?」
フォークに刺さったお肉を突き出すエレナにそう声をかける彼女だが、エレナはフォークを引っ込めたりはせずに口を開く。
「トウカが上に乗っていて料理を取りづらいでしょ?こうした方が主君も食べやすいと思うけど、それともアタシが差し出したものじゃイヤ?」
悲しげに眉を下げるエレナに、困ったような笑みを浮かべた彼女が口を開く。
「そういう聞き方はズルいと思う・・・あ、あーっ・・・んっ」
そう答えてから大きく開いた口で差し出されたお肉を咀嚼した彼女に、エレナは嬉しさを表現したような満面の笑みを浮かべる。
「さぁさぁっ、主君!まだまだいっぱいあるから、どんどんあーんしてあげるわねっ!」
「ふえっ?いっ、いや別にあーんしてもらわなくても食べれる・・・よ?」
困惑した彼女の言葉が聞こえているのかいないのか、色々な料理を吟味するエレナは楽しそうな微笑みを浮かべていた。
「(今だけはエレナの厚意に甘えよう、かな・・・嬉しそうなエレナに水を差す必要もないし)・・・うんっ、そうしよう」
「? 主君、どうかした?」
「え?う、うぅん!なんでもないよっ、気にしないで」
彼女の返事にそう?と短く答えたエレナは再び料理へと目を向け、ホッと一息ついたのも束の間に下からフォークに刺さったお肉が口元に運ばれる。
「トウカ?別に私は気にせず食べていいんだよ?・・・え?自分もあーんがしたい、の?」
「んっ」
彼女を見上げながら期待に満ちた視線を向けるトウカに、彼女は抗いきれずに差し出されたお肉を口に含む。
「んー?」
「んぐ、んむっ・・・んっ、美味しいよ。ありがとね、トウカ」
自身の足の上に座るトウカの頭を優しく撫でて、それを受けたトウカはくすぐったそうに目を細めながら彼女に身を委ねる。
「むー?あっ!トウカ、ズルいわよ!アタシも撫でてっ、主君!」
「わわっ!?分かったから落ち着いて、エレナっ――ひゃあっ!?」
勢いよく駆け寄ってきたエレナを制止しようとした彼女だが、エレナは止まることなく彼女に抱き着いてソワソワとした様子で頭を差し出している。
「えっ、あぅ・・・よ、よしよし?」
「っ!むふふぅーっ♪」
豊満な膨らみの柔らかさにドギマギしながらもエレナの髪を梳くように撫でる彼女に、エレナは満足そうな笑みを零しながらもっともっとと催促するように手のひらに頭を押し付ける。
「んーっ・・・!」
「ぁわわっ、トウカ落ち着いてっ!?そんなに押し付けなくても、撫でてあげるからっ・・・!」
エレナに対抗するように身体を擦り寄せてくるトウカに、彼女は慌てながらも空いたもう片方の手でトウカの頭を優しく撫でる。
「・・・最近の女子は皆こうなのか?」
「よく知りませんが、そうなんじゃないっすかね?」
「目の保養になるっすね」
そんな彼女たちのやり取りを間近で見ていたオードは困惑と呆れを含んだ言葉を漏らし、取り巻き二人はありがたいものを見るように目を細めながら和んでいた。
「――ってそうだ、オードさん。質問してもいい、ですか?」
「ぁん?それは構わねぇが、どうした急に?」
二体の竜族と戯れていた彼女がおもむろに口を開いたので、オードは片眉を上げながら疑問を投げかける。
「オードさんはラメさんと同じAランク冒険者なので、色々な依頼のことを知っていますよね?だから今度受ける護衛の依頼について、必要なものとかを教えてもらえたらと思って・・・」
彼女の返事を聞いて納得したような息を吐いたオードは、目前に座る少女が護衛の依頼を任せられるほどになっていることに内心で驚きと称賛の声を零す。
「護衛の依頼を出すってことはそれだけ位の高い相手ってことだな、だからまぁ・・・礼儀はしっかりしといた方がいい、つってもお前はそこら辺は大丈夫そうだな」
今までの彼女の言動や行動を鑑みてそう判断したオードは、少し照れ笑いを浮かべる彼女を一瞥してから続きを口にする。
「護衛の依頼といっても内容は様々だ。商人の馬車を目的地まで無事に守りきるや要人を無事に送り届けるとか、経験を積ませてやりたいからと周りの露払いをしたりとかな。もっとも、どっちも実力がねぇとできねぇ依頼だが・・・」
緊張した面持ちでオードの話に耳を傾ける彼女を真っ直ぐ見つめてから、側にくっついている二体の竜族へと視線を向ける。
「まっ、実力に関しちゃあ問題ねぇだろ。竜族と対峙して生きて帰ってるくらいなんだからな、あとは場所によって取る行動は変わるが・・・護衛対象が余程のやつじゃない限り、目の届く範囲に居りゃあ対処はできるだろうぜ」
「そそっ、そうですか?なら、よかったです・・・あ、あはは」
どこか慌てた様子で返事をしてから愛想笑いを浮かべる彼女に、疑問符を浮かべながらもオードはふと思い出したことを口にする。
「? あぁ、それと前から思ってたんだが・・・もう少し動きやすい服装に着替えといたほうがいいぜ、そんな長ぇスカートなんて履いてたらどっかに引っ掛けて身動き取れなくなっちまうぞ?」
そう指摘された彼女は自身の着る服へと視線を向け、たしかに森では茂みに引っ掛けて破れそうだなという感想を抱く。
「そう、ですね・・・せっかくラメさんに貰った物なのに、破れたりしたら申し訳ないですもんね。明日にでも新しい服に着替えようと思います、ズボンの方がいいかな・・・?」
「そうした方がいいぞ――ってそれ、ラメが用意した服かよ!・・・アイツ抜かりねぇな」
オードの最後の呟きを聞いて首を傾げる彼女だったが、自身を呼ぶ声に気づいてそちらに視線を向けると、彼女の姿を確認して輝くような笑みを浮かべるルースナと・・・目が笑っていないラメの姿があった。
彼女たちが囲むテーブルへと辿り着いたルースナは手に持つ皮袋を彼女の前に置き、そしてもう一つ持っていた革袋をオードの前に置く。
「ネネさん、こちらが今回の報酬です!こっちがオードさんの報奨金です」
「おぉ、わりぃな」
お礼を口にするオードにぎこちない笑みを向けていたルースナは、彼女に顔を向けると心からの笑顔を浮かべる。
「ありがとうございます、ルースナさん・・・えぇっと、その・・・ラメさん?近くない、ですか?」
お礼を言われて満面の笑みを咲かせるルースナから視線を隣へと移した彼女は、困惑した様子で空いたイスに腰掛けて彼女との距離を詰めるラメに声をかけると少し頬を膨らませる。
「待ってても全く宿屋に帰ってこないから心配したのよ?それでギルドに見に来たら、食堂にいるって聞いたから来てみれば・・・どうしてよりによってオードと一緒に食事をしているの!?」
「よりによってってなんだ、おいっ!そいつが席を探してたからちょうど空いてる俺のテーブルに誘っただけだろうがっ、あとついでに前回のことの謝罪を含んでるだけだぞ?他意はねぇ」
ラメの口にした物言いに苦言を呈しながら事のあらましを告げるオードに、ラメは冷めた視線を向けながら彼女を庇うように身を乗り出す。
「貴方と一緒にいる時点で不満なの、わかる?」
「喧嘩売ってんのか、テメェ!?」
ワーギャーと言い合いを続ける二人を尻目に、一向に戻ろうとしないルースナがどうしていいのかわからずにオロオロする彼女へと声をかける。
「ネネさん、気にしないでください!あのお二方はいつもあぁした言い合いをしているので、気にするだけ無駄ですっ!」
少しだけ棘のある言い方をするルースナに苦笑を浮かべる彼女は、気を取り直して未だ立ち去る気のないルースナに問いを投げる。
「えと、ルースナさんは戻らなくてもいいんですか?自分の仕事があるんじゃ・・・」
それに対してにこやかな笑みを絶やさないルースナは、彼女の疑問に返答する。
「私の今日の仕事(寧々限定)は終わりましたから大丈夫です!書類の整理とかもありますけど、それくらいなら明日の内に終わるのでっ!」
「そう、なんですか?じゃあこれから夕食ですよね、席も空いてないようですから私たちはこれで・・・」
そう口にして足の上に座るトウカの脇の下に手を入れてから席を立とうとした彼女だが、隣に座るラメが肩に手を置いているために立ち上がることができなかった。
「ら、ラメさん?手を離してもらえるとっ「ダーメっ」――えぅっ・・・?」
優しく却下された自身の意見に困った声を漏らした彼女、そんな彼女を横目で確認しながら追加のイスを用意するラメとそのイスに腰を下ろすルースナ。
「今日はオードの奢りなんでしょ?だったら遠慮しないでもっと食べた方がいいわ、ただでさえネネはそんなに食べないんだから」
「お前に奢るとは言ってねぇ!!」
声を荒らげてそう主張するオードだが、当のラメ本人はどこ吹く風でウェイトレスに追加の注文をしている。
「あぁっ、それと明日の服選び・・・私とルースナも参加するから、よろしくね?」
「色んな恰好をしたネネさん・・・楽しみですっ!」
「え、えっ・・・?」
流れるように話が決まっていくことに彼女は目を白黒させるばかりで、そんな彼女を可哀想なものを見る目でオードは眺めていた。
「ちなみに費用はオード持ちよ」
「なんでだよっ!?俺は関係ないだろうがっ!!」
「ネネと無断で相席した罰よ、反省しなさい」
「お前はコイツの何なんだっ!?」
とばっちりを受けるオードの姿をよそに、トウカは未だに出された食事に手を付けながらたまに彼女にあーんをし、エレナは主である彼女の体温と匂いを感じながら腕に抱き着いて肩を枕にしながら寝息を立てていた。




