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彼女が竜族の神子と呼ばれるまで  作者: にゃんたるとうふ
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第十節

「えぇーーっと・・・そろそろいいかしら?」

未だ終わる気配のない触れ合いを続ける彼女と二体の竜族に痺れをきらせたラメは声をかけ、彼女はハッとした様子でラメに視線を向けて頬を朱に染める。

「すすっ、すみません!ラメさん・・・!もっ、もう大丈夫ですっ・・・!」

明らかに不満そうなトウカとエレナを宥める彼女の姿に和みながら、ラメは一つ咳払いをして口を開く。

「こほんっ・・・貴女たちが仲良しなのはわかったけれど、あまり道の真ん中でしない方がいいわよ?」

「えっ?あ・・・はぅっ」

そう口にして周りに視線を向けたラメにつられるように視線を向けた彼女は、道行く人々が自身に目を向けていることに気付いて頬に手を当てて縮こまる。

「(はぁぁっ!可愛すぎるわっ・・・!)ふぶっ・・・!と、とにかく気を付けておいてね?」

「感情が漏れ出てたわね」

エレナのツッコミを聞かなかったことにしたラメは照れる彼女の姿を脳裏に焼き付けながら、先程話したことを再度注意してからその場を後にしようと足を動かす。

「ぁっ・・・ラメさんはこれから依頼、ですか?」

「うん?あぁ、私はさっき戻ってきたのよ。魔物が思いのほか多くて夜明けにようやく終わってね、今から宿屋に戻って休むの・・・あっ、ネネの顔を見れてむしろ癒されたから無理はしていないからね?」

ラメの言葉を聞いて申し訳なさそうに眉を下げる彼女が口を開くよりも先に声をかけると、彼女は言おうとしていたことを言われて口をパクパクッと動かしてから小さく頷く。

「それじゃあ依頼がんばってね、帰ってきたらゆっくりお話ししましょう」

「は、はいっ!がが、がんばりますっ・・・!」

小さく手を振って宿屋へと向けて歩き出したラメを見送った彼女は、よしっと意気込みを入れてからギルドに向けて二体の竜族の手を引いて歩き出した――――






―――――〇▲▲▲〇―――――






またも遅くギルドを訪れた彼女を心配するルースナの言葉を受けながら、討伐依頼を三つほど請け負った彼女たちは前日も訪れた草原を目的地を目指して魔鬼馬に揺られながら進んでいた。

「今日は昨日とは違うゴブリンの巣とポイズンボア、それとバードハートの討伐だね」

目的地が近くなったことで魔鬼馬から降りた一行は、依頼書を広げてそう口にする彼女の後ろから覗き込むエレナと下から見上げるトウカは、得意げな笑みを浮かべながら口を開く。

「全部アタシに任せてくれてもいいのよ、主君っ!すべて根絶やしにしてやるわっ!」

「ね、根絶やしにはしちゃダメだと思うけど・・・」

胸を張るエレナに苦笑を浮かべながらそう口にする彼女は、くいっと服を引っ張られたことに気付いてそちらに視線を向ける。

「んんっ!」

「トウカもやる気なのは嬉しいけど、森を氷漬けにするとか言わないでね?」

鼻息荒く期待のこもった瞳を向けるトウカにまたも彼女は苦笑を浮かべ、自身のために頑張ろうとしてくれているトウカの髪を手櫛で梳くようにして優しく撫でる。

「むっ、主君っ。アタシも!」

「わわわっ・・・!?えぇっと、よ・・・よしよしっ?」

背後から飛びつくように抱き着いてきたエレナに驚きながら、肩に顎を乗ったエレナの頬を壊れ物を扱うように優しく触れる。

「とっ、とにかくこの先なんだよね?早く終わらせないと暗くなっちゃうから、行こっか?」

「むふふーっ・・・主君の期待には答えるわ、想像以上の成果を出してねっ!――むっ」

「んーっ!――ん?」

二体の竜族を促して歩き始めた彼女を挟むように歩くトウカとエレナは、不意に同じ方向へと視線を向ける。

「? 二人ともどうしっ―――ひゃっ!?」

二体の竜族の様子に気付いた彼女が口を開いた瞬間、足元から眩い光が広がって彼女たちを包み込む。

「―――あ、れっ?急に何がっ――え、トウカ?エレ、ナ?」

白く塗り潰された視界が晴れた彼女は自身の感じていた温もりが無くなっていることに困惑し、周りに視線を向けて姿を確認できないことに顔を青褪める。

「(ふ、二人の姿がどこにもない・・・!?魔鬼馬も側にいないし・・・しかもさっきまで草原にいたはずなのに森の中だし、もしかしてまた転移・・・した!?)どどっ、どうしよう・・・もしここで獣や、魔物に出会ったらっ――ひっ!?」

一人になった心細さで身を縮こませる彼女が囁くように呟いていると、近くの茂みが揺れる音が聞こえて小さく悲鳴を上げる。

「(どどどっ、どうすれば・・・逃げる?ここがどこだかわからないのに、走り回るなんてできないっ。立ち向かう?数秒も持たずお腹の中だよっ・・・!)どう、しようっ・・・ひぁっ!?」

次の行動を決めあぐねていた彼女は、大きく茂みが揺れて大きな黒い影が飛び出したことに驚いてその場にしゃがみこんだ。

「―――あれ?寧々・・・?」

「ふえっ・・・?」

聞き慣れた声と自身の名を呼ばれたことで彼女が顔を上げると、そこには二人目の幼馴染である璃玖の姿があった――――






―――――〇▲▲▲〇―――――






瞼を開いた白銀の竜族は握っていたはずの温もりが消えていることに、小さく眉を顰める。

「・・・」

自身の主人である彼女の気配を感じ取ったトウカがその場から一歩踏み出すと、まるで行く手を阻むようにローブに身を包んだ数十人の人型が姿を現す。

「すまないがここから先は通行止めだ、もっとも・・・君には私たちと一緒に来てもらうがね」

集団の一番前に立つ(声色的に)男はそう口にすると大きな鏡を取り出し、鏡面をトウカへと見えるように向ける。

「・・・」

そこにはトウカが求める人物が映し出されており、トウカは無言でその姿を見つめている。

「今彼女は私たちの仲間が狙っている、殺しはしないが・・・君が言う通りにしてくれなければ、彼女が傷付くことになるぞ?」

男の言葉にピクッと眉を動かしたトウカ、それを確認した男は口角を上げて醜悪な笑みを浮かべる。

「彼女が大事なら我々に従ってもらおうか?(まぁあの小娘は操るなりなんなりすればいいだろうしな、しかし何故あんな弱い小娘の側に竜族という最強種がいるのかね?)」

問うように投げ掛けられた命令に、トウカは表情を変えることなく底冷えするような無感情の瞳を男たちへと向ける。

「―――ぐっ・・・!?な、んだっ!?」

男は突然草原を包むように吹き荒れた冷気に顔を顰め、発生源へと視線を向けると驚愕のあまり目を見開く。

「・・・」

何故なら目の前の小柄な少女から氷柱を模した角と鞭のようにしなる尻尾が現れたからである、まさか敵対行動に移るとは思っていなかった男たちに動揺が走る。

「きっ、貴様!現状を理解していないのか!?彼女がどうなってもっ・・・?」

慌てて声を荒げる男だが、トウカが空に向けて指を差したことに疑問符を浮かべて言葉が途切れる。

男はトウカから視線を逸らさずに他の者たちに確認を促す、しかし上空を確認した者たちは雲が流れる青空を視認しただけであった。

「? なんだ?いったい何をっ―――」

男が報告を受けてさらに疑問を深くしていると、辺りを照らすほどの光が瞬き、次いで地響きのような轟音が鼓膜を揺らしたことに驚きの表情を浮かべる。

「―――なっ!?なんだ、今度はいったい・・・っ?」

状況の理解が追い付いていない男だったが驚きのあまり鏡を落としていることに気付き、急いで拾い上げた男は鏡面を確認してまたも驚愕する。

「かっ、鏡が割れている・・・!?ばかな、落下の衝撃程度で割れるはずが・・・まさかっ!?」

男が手にする鏡は『魔鏡(まきょう)』と呼ばれる魔道具で、指定した者の視界を移すことができるが指定した者が何らかの理由で命を落とすと鏡面は砕け散る。

「クソッ・・・!作戦は失敗したのか!?何故っ・・・いやっ、それよりも早く離脱をっ・・・?」

そこまで口にしてようやく自身の異変に気付いた男は、冷や汗を流しながら周りの仲間へと視線を向ける。

そこには不自然なまでに動きを止めた仲間たちがおり、ぎこちなくでも身体を動かせているのは自身だけなのだと認識する。

「これは、まるで時が止まっているような・・・っ!なっ、だ・・・口が、回らなっ・・・!?」

悠長に喋っていた男が周りの異変に気付いた時には、男も周りの仲間と同じ''終わり,,を迎えようとしていた。

「(そういうこと、かっ・・・!時が止まったように動かないのは、''内側から凍らされていたから,,かっ!だがっ、いったい何時・・・!ぐうぅぅっ!?思考が凍り付いていくのが、わかるっ・・・!わたし、が・・・こんな、ところで―――)」

男たちが慌てふためく姿をただ静かに見つめていたトウカは、最後の一人が動かなくなるのを確認してから歩みを再開する。

「・・・んっ」

目の前に並ぶ男たちを前にしたトウカは、腕を振るってまるで埃を払うような仕草を行う。

すると男たちの身体に一斉にヒビが入り、まるで氷が崩れ落ちるように粉々に砕け散って空に溶けるように消えていった。

トウカはそれを見ることなく小さくタメ息を吐き、愛する主人の元へと一秒でも早く駆け出すのだった。



余談だが・・・トウカは本来の姿と竜人状態の時は常に冷気を纏っており、その冷気は生物の体内に取り込まれるとその生物を内側から凍らせる力がある。

これは冷気を放つ本人ですら抑えられない力であり、生きている間は永遠に放たれる一種の防衛本能である。

ではトウカの側にいる彼女はどうだろうか、未だ凍りつくことなく普段通りの行動を行っているのは何故か?

それが明かされるのは、もう少し先の話である――――






―――――〇▲▲▲〇―――――






自身を包む光が消えたことを確認したエレナは、複数の視線が自身に向けられていることに気付いて不快そうに眉を顰める。

「転移魔法陣まで使って何をするかと思えば、アタシと主君を引き剥がして・・・こんな下等生物たちと会わせるなんてね」

エレナの視線の先には開けた森の広場のような場所が広がっており、そこには数人の魔族が率いる数十体を越える魔物が(ひし)めき合っていた。

「おっと、無駄な行動はやめてもらおうか?今他の仲間があの小娘を狙っているからな、不審な行動をすればっ「はっ?」―――っ!?」

ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら言葉を発していた男は、エレナの発した声を耳にしただけでその顔を青褪める。

「・・・あぁ、たしかに主君を狙う羽虫がいるみたいね。下等生物風情が、主君に、また、舐めたことをするのねっ・・・アハッ、アハハハハハハハッ!!」

突然大きな声をあげて笑い始めたエレナに魔族たちは一歩後退り、魔物たちは今か今かと襲う機会を窺っていた。

「ハハハハッ・・・はぁーあ、もういいわ」

ひとしきり笑い声をあげたエレナは一息吐くとそう零し、それはもう獰猛な笑みと鋭い視線を浮かべて竜人状態へと変化する。

「なっ、なにを―――」

「耳障りよ、消えろっ」

言葉を遮るように声を漏らしたエレナが帯電する振り上げた腕を下ろすと、辺りを眩い光が包み込み、少し遅れて地を揺るがす轟音が鳴り響く。

その音はエレナがいる場所の他にもう一か所、周りを見渡せるほど高い岩場でも起こり、岩場は跡形もなく崩れ落ちていた。

「はぁ・・・くだらないことに時間を使わされたわ、早く主君の元まで行かないとっ―――」

踵を返して主の元へと向かおうとしたエレナだが、自身の主の心の波長の乱れを感じ取ったエレナは青筋を立てて怒りを露わにする。

「まだ主君に危害を加える塵がいるわけっ!?いい加減ウンザリねっ、全部根絶やしにしてやるわっ!!」

身体から放電したエレナは辺りを蹴散らしながら本来の姿へと変化すると、槌になった尻尾を地面に叩きつけると両翼を羽ばたかせてその場を後にする。

後に残ったものは荒れ果てた大地と魔族か魔物と思しき残骸のみで、生命活動を行う生物の姿は一つも残されていなかった――――






―――――〇▲▲▲〇―――――






「寧々!あぁ、よかった・・・生きていたんだねっ!」

彼女の無事を目で確認した璃玖は深く安堵の息を吐き、歩み寄ろうと足を動かした瞬間に別の声が聞こえたことで彼女は一歩後退る。

「おいっ、璃玖!勝手に何処にっ――って、テメェは・・・!」

璃玖を追ってきた様子の彼女のクラスメイトである匠は、彼女の姿を視認すると眉間に皺を寄せて苛立たしげな声を漏らす。

「ぇうっ、あのっ・・・」

匠が姿を見せると同時に彼女は怯えたように身を縮こませてまた一歩後退る、そのことに匠は苛立ちを表すように舌打ちを一つしてから彼女に歩み寄る。

「こっちでも迷惑を振り撒くんだな、お前はよっ!だがお前みたいな役立たずでもいねぇよりマシだろ、せめて皆の壁役にでもなれやっ」

そう口にして彼女の手首を強引に掴んだ匠に、彼女は痛みで少し顔を歪めながら口を開く。

「ぁっ、や・・・」

しかし口から漏れ出た言葉は意味を成しておらず、身体は金縛りにでもあったかのように身動きが取れずにただ首を横に振ることしかできない。

「匠っ!寧々が嫌がってるだろ、その手を離せっ!」

彼女の幼馴染である璃玖は彼女の異変にすぐに気付き、止めに入ると匠の手を彼女から振り払う。

「チッ・・・何すんだよ、璃玖。俺はただっ―――」

「寧々が嫌がることをさせ続けるわけにはいかない、俺は寧々を助ける義務・・・いや、使命があるんだからね」

彼女を自身の背に隠して匠の言葉を遮るように口にする璃玖に、匠は鋭い視線を向けながら口を開く。

「そんなこと知ったこっちゃねぇよっ!俺はな、役立たずなそいつのためを思って言ってやってんだよっ!いいからどけっ!」

声を荒げながら荒々しく璃玖を押し退けた匠は、迷うことなく彼女の前に立つ。

「ぐっ・・・!」

「っ、璃玖・・・!いっ!?」

力任せに押し退けられた璃玖は尻餅をついて呻き声を漏らす、璃玖に心配そうな声を上げて駆け寄ろうとした彼女だが再び手首を掴まれて苦悶の表情を浮かべる。

「役立たずにも仕事を与えてやるんだ、感謝しろよなっ。おいっ、あっちに城の兵士がいるから早くっ―――」

手首を掴んだ匠は来た道を戻ろうと踵を返そうとしたところで、一瞬の光で照らされた少し後に凄まじい轟音と地響きが起こったことで体勢を崩してふらつく。

「――ひゃっ!?(いっ、今のはもしかして・・・エレナ?)」

「―――っ、おぉっ!?何だ、一体っ!?・・・ぅおっ!?」

先程の光がエレナの使う雷だと瞬時に理解した彼女はふらつく匠の腕を振り払い、雷の発生源へと向かって駆け出す。

「このっ・・・待ちやがれっ!」

「(早く合流しないと・・・!)――ぁっ!?」

慌てて走り出した彼女だが足元にある小石に気付かずに躓いてしまい、振り払われたことで声を荒げる匠は前のめりに倒れる彼女の姿を見て咄嗟にその手を掴んで支える。

「あーっ、クソッ・・・手間かけさせんなよなっ!」

そう口にしながら掴んだ手を引っ張って彼女の体勢を立て直させる、彼女は困惑した様子ながらもぎこちなく口を開く。

「あぇ、えぇっと・・・あっ、りがとう?」

その言葉を聞いた匠は我に返ったようにハッとして、顔を背けながら視線を彷徨わせつつ口を開く。

「かっ、勘違いしてんじゃねぇよ!俺は壁役がいなくならねぇように掴んだだけで、お前を助けようとしたわけじゃっ―――」

彼女のお礼にそう返す匠の言葉にそうだよねと内心で気落ちした彼女だが、背後から地響きと共に自身を覆うほどの影が現れたことで反射的に振り返る。

「あっ・・・エレっ――(っと・・・!話せることは内緒なんだった!)」

咄嗟に名前を呼びそうになった彼女は空いた片手で自身の口を抑え、エレナはそんな彼女の姿を一瞥してから近くの匠へと視線を向ける。


『下等生物の分際で、主君に気安く触るだなんて・・・許されることじゃないわっ!』


そう吠えるように口にするエレナに驚きのあまり硬直する匠は、エレナの大きく開かれた口が光を発したことで眩しさのあまり目を瞑る。

「っ、なんっ―――ガッ、あああぁぁぁぁっ!?」

光が収まったことで視界が晴れた匠だが、突然左腕に襲ってきた痛みに絶叫を上げながらその場に膝をつく。

「ぐっ、ぁああぁぁぁっ・・・!!うっ、腕がっ・・・!俺の左腕がぁっ・・・!」

「っ!匠っ!」

黄金の竜族が姿を見せたことに呆然としていた璃玖は匠の叫び声で我に返り、駆け寄って視線を向けた先の光景に思わず戦慄して足を止める。

璃玖の視線の先には、左腕の肩から先が焼き切られて灰と化している光景があった。

「今の一瞬で、こんなっ・・・っ!」

そう呟いてから再び光が瞬き始めたことに気付いた璃玖が顔を上げると、エレナが口を開いて雷光を放とうとする姿を目にする。

「くっ・・・!「まっ、待って!」―――っ!」

匠を庇うように前に出ようとした璃玖だったが、それよりも先に両腕を広げて盾になるように立ち塞がる。


『しゅっ、主君・・・!?どうして邪魔するの!?』


「んーっ、んーっ!(さすがにこれ以上するのはやりすぎだし、それに璃玖が傷付く姿は見たくないもんっ)」

まるでトウカのように口を噤みながら首を左右に振る彼女に困惑しつつ、主の意思を尊重したエレナは雷光を鎮めるとその開いた口で彼女の胴を咥える。

「え、ひゃぁっ!?」

「ね、寧々っ!?」

咄嗟に彼女に手を伸ばした璃玖だがあと一歩届かず、翼を動かして羽ばたこうとするエレナに気付いた彼女は慌てて口を開く。

「りっ、璃玖!私は大丈夫だからっ、翁草くんを見てあげてっ―――わっ」

そう告げた彼女はエレナに咥えられたままその場を飛び立ち、璃玖の悔しげに手を伸ばす姿と匠の驚愕した表情を最後に視界に捉えたのだった――――






―――――〇▲▲▲〇―――――






「え、エレナ?もう下ろしてくれても・・・」

璃玖と匠のいた場所から咥えられたまま飛び立った彼女は、着地する気配のないエレナに声をかける。


『・・・むぅ』


彼女の言葉に不服そうな声を漏らすエレナだが、ゆっくりと高度を下げて着地する体制へと入る。

「(怒ってるわけじゃなさそうだけど、私なにかしちゃったかな・・・?)」

ドスンッと地響きを起こしながら地面へと降り立ったエレナは咥えていた彼女を降ろし、眩い光を放ちながら放電して竜人状態へと変化する。

「えっと、エレナ・・・もしかして、怒ってる?」

「むーぅっ?まぁ主君が狙われたことには怒ってるというか殺意が湧いたけど、別に主君へは怒りを抱いていないわよ?あっ、でも・・・」

怒っていないとわかった彼女はホッと安堵の息を吐いたが、何かを思い出したかのように声を漏らしたエレナに詰め寄られて半歩下がる。

「あの下等生物を庇うように動いたことは、少し・・・いえ、かなーりヤキモチを焼いたわっ」

身を引こうとする彼女の腰に手を回して引き寄せたエレナは、彼女が逃げられないようにしっかり抱き寄せると瞳を覗き込むように見つめる。

「ひ、ぁっ・・・エレナ、その・・・ちかっ――ひゃんっ」

エレナの柔らかさと体温を感じた彼女は照れ臭そうに頬を朱に染めて狼狽え、その姿に愛おしさを感じたエレナはそっと赤く染まった頬に唇を落とす。

「はっ・・・主君が可愛すぎてつい、って主君も満更じゃなさそうね」

「ふえっ!?えとあのその・・・!」

自然と口元を緩ませる彼女の姿に気付いてそう零すエレナに、彼女は自身の口元に手を当ててさらに耳まで赤くする。

「・・・エレナのイジワルっ」

上目遣いで見つめながらボソッと呟くように漏らす彼女にエレナは胸が高鳴るのを感じて、さらに強く抱き締めて頬同士を合わせて頬擦りする。

「むーっ!どうして主君はそんなに可愛くて愛おしいのっ!?もう我慢が限界に近いんだけど、食べちゃっていい?食べちゃっていいわよねっ!?」

「え、えっ?」

荒い息を吐きながら顔を近づけてくるエレナに、彼女は状況が飲み込めず困惑した様子で疑問符を浮かべる。

「抵抗しないってことはいいのよねっ!?それじゃあ、いただきまっ「んっ!!」―――ぁいだっ!?」

彼女の顎を指で持ち上げて口を開けたエレナが唇同士を触れ合わせる瞬間、突然姿を現したトウカによって殴り飛ばされて数メートル先まで地面を転がるように滑る。

「っ、とぉ・・・!何すんのよ、トウカ!せっかくもう少しでっ―――ぁたっ!?」

片手を地面に着いて跳躍してから着地したエレナは邪魔するように現れたトウカに文句を口にしたが、一瞬で間合いを詰めて懐に入ったトウカによって顎を蹴り上げられたことで言葉が途切れる。

「やっ、る気みたいね・・・トウカ!!」

「んんっ、んーっ!!」

鋭い視線をトウカに向けて吠えるエレナと静かな怒りを露わにするトウカ、二体の竜族が睨み合いを始めたことに彼女は慌てて止めに入るために駆け出そうと一歩踏み出す。

「ふっ、二人とも落ち着いっ―――ひゃぁっ!?」

しかしもう一歩踏み出す前に、凄まじい冷気と雷鳴が轟いたことに驚いて頭を庇うように腕をクロスさせる。

「アンタには少し寝ててもらうわ、その間にアタシは主君ともっと親睦を深めておくわね?」

「・・・んっ?」

竜人状態に変化したエレナは帯電しながらそう告げ、同じく竜人状態に変化したトウカは告げられた言葉を耳にして額に青筋を立てる。


刹那―――エレナが立っていた場所に天に届くかと言わんばかりの氷山が現れ、それもまた瞬きをする間もなく雷に包まれて砕け散る。

「この程度でアタシがやれると、本気で思ってるのっ!?」

エレナが帯電する両手を振り下ろすと天から無数の稲妻が降り注いでトウカを飲み込む、前にその雷はトウカを囲うように現れた氷塊によって阻まれる。

「ん?」

トウカは何かしたかと言わんばかりに首を傾げて疑問を口にする、その姿にエレナは鋭い歯を剥き出しにしてさらに強く帯電する。

「二人ともっ!喧嘩はダメって―――わひゃっ!?」

彼女の声は届いていないように再びぶつかり合う二体の竜族によって、地面は抉れていきぶつかり合いの余波で周りの木々が薙ぎ倒される。

「・・・むうぅぅっ!」

自身のことを無視してぶつかり合いを続ける二体の竜族に、彼女は怒ったように頬を膨らませると喧嘩の余波で揺れる地面をしっかりとした足取りで走り出す。

「二人とも!喧嘩はダメーーーっ!!」

二体の竜族の間に入って両腕を広げて制止を促す彼女の姿が突然現れたことで、トウカとエレナは驚愕の表情を浮かべる。

「――っ!?主君!?まずっ・・・!」

「――っ、んんっ!?」

竜族といえど動きを途中で止めることはできず、二体の竜族が放った氷塊と雷撃は間に立つ彼女へと向かう。

「・・・え?」

ポカンとした表情を浮かべたのを最後に、彼女は二体の竜族の攻撃を受けて大きな爆発に飲み込まれてしまった。

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