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彼女が竜族の神子と呼ばれるまで  作者: にゃんたるとうふ
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第九節

宿屋の前で彼女に断りを入れてから別れたエレナは、トウカに視線で合図を送ってから『スロー』の街の出入り口の門へと向かわずに・・・街を囲う壁へと足を向ける。

「よっ・・・と」

大通りから外れたことで賑わいが少なく光も届かず暗くなった路地へと足を運ぶと地面を力強く踏み締め、曲げた足で勢いよく地面を蹴るようにして跳躍する。

一気に壁以上の高さまで跳んだエレナは一度壁に着地してから街の外へと飛び降り、静かに着地するとドレスの裾を翻しながらその場から駆け出す。

「――っ・・・へぇ、アタシの動きに気付いたようね。でも残念、逃がすわけ無いでしょう・・・がっ!」

その言葉と共に竜人状態へと変化したエレナは、口の端から放電したかと思うと口を大きく開けて雷を解き放つ。

それは暗闇の草原を駆け抜けるように進み、森に踏み入れようとする黒い影の足を焼き切った。

「ぎっ――あああぁぁぁぁっ!?」

張っていた防壁魔法をいとも簡単にすり抜けて足を奪われた黒い影は痛みで声を上げ、足という支えを失って叩きつけられた身体を引きずりながらなんとか逃げようと藻掻く。

「言ったはずだけど?逃がすわけない、ってね」

その言葉と同時に黒い影の胴体を踏みつけたエレナは、冷たい眼差しで黒い影を見下ろす。

「ぐ、ぎぃああぁっ・・・!お、俺から情報でも聞き出そうってのか?があぁっ!ざ、んねんだったなっ!俺は何も、喋らないぜっ・・・!は、ははははっ・・・!」

視線を鋭くしたエレナは踏みつけているのが魔族であることを視認していると、身動きの取れない魔族はそう声を上げて空笑いを漏らす。

「? 別にそんなことしないわ、下等生物のことなんて興味無いもの」

笑い声を漏らしていた魔族はエレナの返しにポカンとした表情を浮かべる、では何故追ってきたのかという疑問を抱いていると踏みつける足に力が増す。

「ぐっ、ぁああぁぁぁっ!?―――ぎゃっ」

「でもね・・・下等生物風情が、主君に舐めた視線を向けるのは我慢ならないのよねっ!そこらへんのどこにでもいるような(ごみ)がっ、主君を見下そうなんてっ、万死に値するわっ!!」

怒りと共に身体から放電したエレナは痛みで叫び声を上げる魔族を雷で包み込み、一切の容赦なく原型が分からなくなるほどの出力を流し込む。

すると数秒とかからずに肉が焦げたような臭いが立ち込め、エレナの足元にはかつて魔族だった炭が出来上がっていた。

「ふんっ、くだらない。そもそもお前みたいな捨て駒が有益な情報なんて持っていないでしょ、ほんっとくだらない・・・はぁ」

着るドレスを軽く払うと踵を返し、手を振るう仕草をしながら人差し指を下げる。

すると辺りを一瞬照らす雷鳴が起こり、それと同時に空中を飛んでいた生物が地面へと墜落する。

「信用もされてないなんて、捨て駒としても見られてなかったのね」

ふんっと鼻を鳴らしたエレナはもう興味はないとばかりに一瞥することなく歩き出す、その時にはすでに先程の出来事がなかったかのように自身の主の事で頭がいっぱいになっていた。

「戻ったら主君の温もりや匂いを感じながら添い寝して、あの時の返事も聞かないとね。最悪押し倒してしまえば・・・いえ、主君に嫌われる可能性があるから無理矢理はダメね(そういえば、トウカは調子を取り戻してるかしら?まぁ、そこは主君に任せるしかないわね)」

同族の憂いが払拭されていることを願いながら、早く逢いたい気持ちが溢れるように歩調も早くなるエレナは、再び壁を飛び越えて街に入ると主の元へと駆け抜けるのだった――――






―――――〇▲▲▲〇―――――






天井を背景に気持ちを昂らせるトウカを眺めながら、困惑した様子で彼女は問いを投げ掛ける。

「きっ、急にどうしたの?私、何かしちゃったかな・・・?――ひやっ!?」

彼女の問い掛けに応えることなく動きを見せたトウカは、彼女の首筋に口付けを落としてから噛み付くように歯を突き立てる。

「んむ、んぐっ・・・んっ、んちゅっ・・・」

皮膚が裂けない強さで甘噛みをしながら舌も這わせるトウカ、突然の刺激に声をあげた彼女は生暖かい感触を受けて咄嗟に手で口を塞ぐ。

「んぅ、ふっ・・・ぅあっ、はぅ・・・」

そんな彼女の様子に気付いたトウカは首筋から口を離し、彼女を押し倒したままジッと見下ろす。

「ん、んんっ・・・んっ、んんーっ」

「ふぅ、はぁ・・・ぇっ?もう、子供じゃない?え、えぇっと・・・?」

不思議そうに疑問符を浮かべる彼女を見つめながらプクッと頬を膨らませて不満そうな表情を浮かべるトウカ、そのことにさらに首を傾げる彼女だが・・・ふと、依頼中に交わした会話を思い出す。

「(もしかして、エレナが子供だって言ってたことを本当は気にしてたの?私はそういう意味で言ったんじゃないんだけど・・・)トウカ、私は別に子供だとは・・・んむぅっ」

彼女が誤解を解こうと口を開いた瞬間にトウカはその動く唇に舌を這わす、言葉を遮られた彼女は困惑しながらもどうにか引き離す。

「と、トウカ・・・!私はトウカを子供だとは思ってないよっ、むしろ頼りになる存在だと思ってるよ?」

「っ、ん・・・?」

彼女の言葉に動きを止めたトウカは、真偽を問うように小首を傾げて視線を投げかける。

「うん、本当だよ。トウカに嘘なんかつかないよ、あの時はたしかに見た目が幼くてって言ったけど・・・でも別に悪い意味でそう言ったんじゃなくて、なんていうかその・・・側にいると安心するというか、癒される感じかな?」

自身の感情をうまく説明できない彼女は歯がゆさを感じながらどうにか言葉を紡ぎ、トウカは自身のために言葉を絞り出そうとする姿に胸をキュンっと高鳴らせて彼女の頬っぺたに頬擦りする。

「わっ、ふふっ・・・だからその、別にトウカでドキドキしてないってわけじゃないんだよ?今も少しドキドキしてるから」

「んっ、んー?」

胸に手を添えてそう口にする彼女に、トウカは頬擦りをやめて彼女の胸元に耳を押し当てて目を閉じる。

「ん、んん・・・んぅーっ」

自身の膨らみに顔をうずめるようにして耳を押し当てるトウカに気恥ずかしさを感じる彼女は視線を彷徨わせ、少し感覚の短い鼓動音を耳にしながらトウカはどこか安らぎを感じて身体から力を抜いて彼女に全体重を預ける。

「? と、トウカ?」

唐突に身体をさらに密着させるトウカに彼女は疑問符を浮かべながら、彷徨わせていた視線を向けて声をかける。

「・・・んんぅ?」

彼女の声に反応して顔を上げたトウカは、重たげな瞼を開きながらジッと彼女の顔を見つめる。

「もしかして眠たいの?だったらこのまま寝てもいいんだよっ・・・え?もう少し聞いていたい、の?」

「んっ」

トウカの言葉に困惑しながらも了承の頷きを返した彼女に対して、トウカは嬉しそうに薄っすらと微笑みを浮かべながら彼女の胸元に耳を押し当てて目を閉じる。

「んっ、んん・・・」

ドクンドクンッと鳴り続ける音をもっと感じようと身を捩りながら腰に手を回して抱き着くトウカに、彼女はくすぐったさを感じながらもトウカの可愛い姿に思わず笑みが零れる。

「(・・・ただ、胸に頬擦りされてるみたいで少し恥ずかしいけどっ)」

ただし内心は羞恥心を感じながら身悶えしていたが、それは表に出さずにトウカを優しく抱き締める・・・ちなみに鼓動音を感じているトウカには動揺していることは伝わっているのだが、安らぎを得られるこの状況を失わないためにあえて口にはしなかった。



しばらくの間リズムよく響く鼓動を感じていたトウカは、不意に顔を上げると彼女の顔をジッと見つめる。

「あ、もういいの?」

「ん」

彼女の言葉に頷きで返したトウカは少しだけ身を乗り出し、瞼を閉じながら唇を差し出すように顔を向ける。

「えっ、と・・・トウカ?」

首を傾げる彼女に、トウカは瞼を開くと目を細めながら口を開く。

「んー、んんっ」

「うっ・・・た、たしかにエレナには私からしたけどっ・・・」

一切瞳を逸らさず目線を交差させるトウカに、とうとう彼女は根負けしたように大きく息を吸いこむ。

「すぅーっ・・・い、いくよ・・・?」

トウカは返事をする代わりに瞼を閉じ、彼女は意を決したように顔を近づけると軽く当てるように唇を重ねる。

「んっ・・・これで、いいっ――ひゃ、んむっ」

「んん、んっ・・・んちゅっ、んみゅ・・・」

唇を離した彼女が照れ臭そうに口にする姿を目にしたトウカは、一回で我慢できるはずもなく再び口付けを交わす。

「とぅ、かっ・・・ちゅぅ、んちゅっ・・・」

「んーっ、んちゅ・・・んんーっ、んぷぁ・・・んっ」

彼女の頭を抱き締めるように押さえたトウカは何度も唇を重ね、彼女は抵抗することもできずにただされるがまま口付けを続ける。

「ちゅぱ、ちゅぷっ・・・ちゅぅ・・・(いっ、いつまでするの・・・!?)」

内心で困惑しながらもトウカが満足するまでしてあげようと考えていた彼女だが、終わる気配のない口付けの嵐にただただ困惑を強めるのだった。



数十回の口付けを済ませた頃にようやくトウカは顔を離し、彼女は荒くなった息を整えながら安堵の息も吐く。

「はぁ、はぁっ・・・ふぅ・・・トウカも満足した、よね?」

「・・・」

息を整え終えた彼女の問い掛けに、トウカはジッと視線を向けるだけで返事をしない。

「(ど、どうして無言なの・・・!?)」

言葉を発さないトウカに内心で疑問符が浮かぶ彼女は、ずっと無言で視線を向けるトウカに落ち着かなくなった様子で視線を右往左往させる。

「・・・」

「(うぅっ・・・なんだか、恥ずかしくなってきた)とっ、トウカ?そろそろ何か喋ってほしい、かな?」

彼女のお願いを受けたトウカは目をパチパチッと瞬かせてから、一つ小さな息を吐いてからその小さな唇を開く。

「んっ・・・」

半分ほど開けた口から舌をちろっと出したトウカに、彼女は大きく胸が高鳴る感覚を受けて頬を朱に染める。

「ひゃっ、あの・・・えっとその、だめっ・・・!」

「んむっ」

何故か羞恥心が高まった彼女はトウカの口を自身の手で押さえて目に入らぬように隠す、そんな彼女の様子にトウカは気持ちの昂りを感じて頬を緩ませる。

「ん、んっ」

「それは私にもわからないけど、なんだかお腹がキュッとして・・・とっ、とにかくダメなの・・・!」

彼女の可愛さにトウカは胸の高鳴りが抑えられず、口を隠すように押さえている手をやんわりどかしてから身を乗り出す。

「ぇっ、トウカ・・・?まだする、の?」

「んっ!」

力強い頷きで返すトウカに彼女は驚きながらも、胸元で手を握り締めながらギュッと固く瞼を閉じる。

自身を受け入れてくれようとする彼女に嬉しさを感じたトウカは顔を近づけて唇を重ね、ようとした瞬間に扉が開かれて宿屋前で別れたエレナが部屋に足を踏み入れる。

「ただいまーっ――って二人とも何を・・・何だキスか、アタシも後でさせてね?主君」

そう口にしながらベッドに腰掛けたエレナは彼女とトウカの様子をジッと見つめる、さすがにそれにはトウカも興が削がれたらしく座るエレナの脇腹に見えない速度の拳を叩き込む。

「ぁいたっ!?なんでよっ!」

理由が分からないエレナに無言で拳を振るうトウカ、そんな二体の戯れ?を視界に捉えながら安堵と残念な気持ちの交ざった息を吐いた彼女だった――――






―――――〇▲▲▲〇―――――






「あっ、そうだ・・・えぇっと」

二体の竜族のじゃれあいを眺めていた彼女は何かを思い出したかのように声を漏らすとベッドから身体を起こし、イスの上に置いているカバンへと歩み寄って中を確認する。

「っ?ん・・・!」

トウカは彼女が離れたことにいち早く気付くと、ベッドを飛び降りる勢いで床に足をつけると彼女の元へと駆け寄る。

「むむむっ・・・何も本気で殴ることないじゃない、って主君?何を探してるの?」

トウカの猛攻が止んだことに安堵の息と抗議を口にするエレナは、自身の主が何やらカバンを漁っている姿を見て疑問を口にする。

「あ、エレナ。ちょっと確認しようかとおもっ――わっ、トウカ?急に飛び付いたら危ないよ?」

「んー、んっ」

エレナの問いに答えようとした彼女はトウカのタックル気味の抱き着きを受けて優しく注意を促す、トウカは一度頬擦りをしてから彼女の言葉に頷きで返す。

「アンタ・・・わかってないでしょ、それで何を探してるの?」

「あ、うん。えぇっと、あっ!あった、これを探してたんだ」

そう口にしてカバンから彼女が取り出した物は、この異世界に来てすぐに触らなくなったスマートフォンだった。

「? なにこれ、金属の板?ガラスが張ってあるけど、何か中に入って―――むっ?」

彼女が取り出したスマホの表面を指で突いていたエレナは、突然輝きを放ったスマホに怪訝そうな表情を浮かべる。

「え、なにこれ?人間が閉じ込められてるわよ、しかも微動だにしないし・・・主君、そういう趣味があったのね。言ってくれれば人間を捕まえてくるけど?」

「そっ、そんな趣味ないよ!これは写真であって人を閉じ込めてるわけじゃないんだよ?」

彼女の説明に不思議そうにスマホを眺めるエレナ、トウカは興味がないのかずっと彼女に抱き着いて頬擦りを続けている。

「って、あぁ!そういえば主君は違う世界から呼ばれた勇者とかいうのと同じ所から来たんだっけ?その世界の技術っていうわけね、へぇ・・・これ、どうやって動いてるの?」

「中にバッテリーっていうのが入っていて、それに電気を充電して動いてるんだけど・・・この世界だと充電ができないから、その内使えなくなると思うよ?そもそも電波がないから何もできないんだけどね」

興味深そうに耳を傾けていたエレナは、電気という単語を聞いて瞳を輝かせる。

「電気ならアタシが出せるわよ!微弱なものから全てを吹き飛ばす強力なものまで、なんでもできるわよっ!」

鼻息荒くそう声をあげるエレナの勢いに押されるように身を仰け反らせた彼女は、エレナの厚意に微笑みを浮かべて口を開く。

「それじゃあ充電が無くなった時にお願いしようかな、その時はお願いね?エレナ」

「っ!えぇっ!任せておいて、主君っ!期待以上の成果を出してみせるわっ!」

パァッと笑顔を咲かせたエレナは自身の豊満な胸を張りながらそう声をあげる、その姿に彼女は嬉しそうに頬を緩ませる。

「・・・んっ」

「あっ・・・ふっ」

不満そうに頬を膨らませたトウカはギュッと強く彼女に抱き着いて気を引こうとする、それに気付いたエレナは勝ち誇ったような笑みをトウカへ向けて浮かべる。

「っ・・・!」

「ちょっ――ぁたっ!?」

「えぇ・・・!?ふ、二人とも!?」

目にも止まらぬ速さでエレナに突撃を繰り出したトウカは先程のようなじゃれあい(本気)を再開する、突然の出来事に彼女は困惑の声をあげながらも止めるべく駆け寄るのだった――――






―――――〇▲▲▲〇―――――






二体の竜族の悶着を自身の添い寝という形で治めた彼女は、窓から差し込む日差しを感じて朝になったことを知覚する。

「ふあぁっ・・・よしっ、今日も頑張ろう(実際には私、何もしてないんだけど・・・)」

内心で嘆息しながら意気込みを口にする彼女だが、左右から抱き着かれているために身動きが取れないのでどうしようかと頭を捻る。

「んーっ・・・んんっ・・・」

「すぅ、すぅーっ・・・えへへ〜っ、主君主君〜っ・・・」

寝息と寝言を漏らす二体の竜族の姿に頬を緩ませながら、起きるまでそっとしておこうと考えて瞼を閉じる。


結果・・・彼女も二度寝という形で夢の世界へと旅立ってしまい、次に目を覚ましたのは太陽が真上に登ろうとする頃であった。



完全に寝過ごした彼女は身支度をそこそこに済ませて目を覚ました二体の竜族を連れて部屋を後にする、トウカは彼女の手を握りエレナは隣に並び立ちながら小さく欠伸をこぼす。

「どうしたの、エレナ?眠たそうだけど・・・」

「むぅ・・・?あぁ、ちょっとね(主君の寝顔を眺めていたら日が変わっていたなんて言ったら・・・それはそれで可愛い反応を返してくれそうね)・・・主君の可愛い寝顔を見てたら時間が経っちゃってたの」

濁そうとしたエレナだが一瞬で考えを改め、真実を口にしながら彼女へと微笑みを向ける。

「えっ、あっや・・・その・・・あ、あんまり見ないで・・・ね?」

エレナの予想通り頬を朱に染めた彼女は狼狽した様子で視線を彷徨わせ、頬に手を当てながら眉を下げて照れながら小さな声でそう零す。

「(予想通り可愛い反応を返してくれたけど・・・)予想以上に可愛さが溢れてるわね、やっぱり子作りしない?」

「へゃっ!?そそっ、それはまだ早いって昨日言ったよね!?」

「っ、んっ!」

手を突き出して首を左右に振る彼女ににじり寄るエレナだが、行く手に阻むように身を滑り込ませたトウカによってその動きを物理的に(拳で)封じられる。

「ぁいたっ!?このっ・・・!毎回毎回、アタシがやられっぱなしでいると思わないことねっ!」

振るわれる拳をはたき落としながらそう口にするエレナだが、徐々にトウカの速さに押され始め・・・最終的にはいつものように拳を受けていた。

「ぁいたたたたっ!何かいつもより強くない!?」

「んっ、んっ!」

何故か今日は朝から調子が良いらしいトウカはいつもの二割増しの力で拳を振るう、止めてくれたのは嬉しいがさすがにやり過ぎだと感じた彼女はトウカに歩み寄る。

「トウカ、私は大丈夫だからそこまでにしてあげてっ――わっ」

トウカを止めるために後ろから抱き着くようにして拳を包むようにして握った彼女に諭されたトウカは、踵に重心を置いてその場で一回転すると彼女の懐に飛び込む。

「はぁ・・・ありがとう、主君。でもトウカだけってズルいと思うの、そうでしょ?」

不満そうな視線を向けられた彼女は反論できず言い淀み、思考を巡らせた結果・・・


「むふーっ・・・やっぱり主君の抱き心地は最高ね!ってちょっ、トウカ!押さないでくれる!?」

「んーっ!」

「わ、わわっ・・・!二人ともっ、喧嘩はダメっ――ひゃんっ!?」

妥協案として彼女に抱き着くトウカとは逆側からエレナが抱き着き、二体仲良く彼女を抱き締めるというものとなった。

「あっ!?ごめんなさい、主君!トウカが邪魔してくるからつい力を込めちゃった、平気?」

「あぅ、うんっ。大丈夫だよ、ちょっと(胸が)圧迫されただけだから」

ホッと安堵の息を吐いたエレナは鋭い視線をトウカに向ける、しかし当の本人は気にした様子もなく涼しい顔を彼女の膨らみの間にうずめて耳を押し当てる。

「もしかして、昨日のことが気に入ったの?(大したものでもないと思うけど・・・)」

「んぅーっ、んんっ」

彼女の問いかけに確かな心音を感じながら頷きを返すトウカは、身をよじるように抱き着く力を強めてさらに密着度を上げる。

「むっ・・・よい、しょっと」

トウカの動きを感じ取ったエレナは、負けじと彼女の首に回す腕の力を締めすぎない程度に強める。

「ぁわわっ!?ええっ、エレナ!?あのえと、その近くない・・・!?」

それにより彼女の肩に顎を乗せる態勢となったエレナに、彼女はいつもより近くで眺めるエレナの表情に胸の高鳴りを感じて狼狽する。

「? これくらい普通だと思うけど・・・もう、主君。アタシたちはもう番なんだから、この程度で動揺してたら身が持たないわよ?」

「んっ」

エレナの言葉に賛同するように相槌を打つトウカ、二体の竜族のその姿に彼女は慌てながらも頬を朱に染めながら呟くように声を漏らす。

「えぅっ、あの・・・ぜ、善処します・・・」

彼女の返事に嬉しそうな表情を浮かべる二体の竜族、そんな表情を向けられた彼女は恥ずかしさと共に求められることに嬉しさを感じて自然と頬が緩む。

「あらっ?ネネ、それに二人も。街道の真ん中で抱き合って何をしているの?とっても大胆ね」

「―――ひやっ!?」

突然第三者から声をかけられた彼女は大きく肩を震わせ、勢いよく振り返った視線の先が知り合いだったことに安堵の息を吐く。

「お、驚かせないでくださいよ・・・ラメさん」

「普通に声をかけたつもりなんだけど・・・まぁ、いいわ。こうして会うことができたんだし、これから依頼を受けるのよね?」

彼女の反応に疑問符を浮かべながらも、この後の予定を確認するラメに彼女は小首を傾げながら頷きを返す。

「なら少しだけ小耳に入れてほしいことがあるわ、実はね?」

彼女の肩に優しく手を置いて耳に口を近づけるラメに二体の竜族は視線を鋭くする、それを感じたラメは苦笑を浮かべながら囁くように口を開く。

「ここ最近、魔物の動きが活発になっているの。それに合わせて、今まで姿を見せていなかった魔族も現れるようになったのよ・・・何が目的かはわからないけど、十分に気を付けておいてね?」

ラメから告げられた言葉にキュッと唇を噛みしめる彼女、それに気付いたトウカは握る手の力を強め、エレナは興味ないとばかりに彼女を抱き締める腕に力を込める。

「あっ・・・ふふっ」

トウカとエレナの温もりを感じて安心感を得た彼女は、落ち着いた様子で自身の考えを口にする。

「えっと、魔族・・・っということは、魔王の復活が近いんでしょうか?」

「いえ、まだそこまでではないと思うわ。けど魔族が活発になる理由となると、少し前に召喚された勇者に気付いたかあるいは・・・大きな戦力になる何かを見つけたか」

ラメの推測を耳にして彼女はトウカとエレナに視線を向ける、それを受けた二体の竜族はどちらも胸を張るようにして得意気な表情を浮かべる。

「んー、んっ!」

「トウカの言う通りね。心配しなくても主君のことはアタシたちが護るわよ!''絶対にね,,」

そう言い切ったエレナに頷きで同意するトウカを見た彼女は薄く微笑みを浮かべて口を開く。

「ありがとう、二人とも。えっと、ゴメンね?私が弱いせいで手間をかけちゃって・・・」

「手間なんて思ってないわよっ!むしろ頼ってもらえて嬉しいぐらいだし、だからどんどんアタシを頼ってね!主君っ!」

「んっ、んんっ!んーんんっ!」

申し訳なさそうに眉を下げてそう口にする彼女に、エレナはすぐさま反論するように声をあげて抱き締め、トウカはムッとした様子で頬を膨らませて彼女の服を掴んで引っ張る。

「あ、わわっ・・・あんまり引っ張ったら危ないよっ、っとと・・・もっ、もう言わないから離してっ!?ここ、転んじゃうよっ――ひゃわっ」

グイグイと服を引っ張り続けるトウカに慌てて声をかけた彼女だが、足をひねるようにその場で体勢を崩してしまう。

「よっ、と・・・コラッ、トウカ!主君が怪我したらどうするのよっ!主君が自分を低く見てることが不満だったとしても、荒療治はダメよっ」

しかしすぐにエレナが支えたことで怪我することなく、注意を受けたトウカは彼女に縋るように掴んだ服を握り締める。

「あっ、ありがとう・・・トウカも私は気にしてないから、ねっ?」

「んー・・・」

エレナにお礼を口にしてから縋りつくトウカの頭を優しい手つきで撫でる彼女、心地良い温もりとくすぐったさに思わず目を細めて頬が緩みそうになるトウカだがどうにか抑えようとして妙な表情を浮かべていた。

「どうせ抑えられないくせに、無駄な努力してるわね。主君、アタシも撫でてほしいわ!さっき助けたお礼ということでっ」

「へっ・・・?う、うん。こんなことがお礼になるなら・・・」

彼女が困惑しながら優しい手つきで頭を撫でると、エレナは気持ち良さそうに頬を緩ませてもっともっとと言わんばかりに掌に頭を押し付ける。

「・・・んーっ」

エレナを撫でることに気を向けた彼女が自身を撫でることを疎かになり始めたので、トウカは寂しげな眼差しを彼女に向けて催促するように声を漏らす。

「あっ、トウカ?ゴメンね、よしよしっ」

「ん、んんーっ・・・んふーっ」

結局我慢できずに気持ち良さそうな息を吐いたトウカに、彼女は微笑ましげな視線を向けながら口元を緩ませた。



「・・・(なんだか入り込めない独特の空間が出来ちゃったわ、お願いすれば私も撫でてくれるかしら?)」

ラメは彼女と二体の竜族の触れ合いを眺めながら、蚊帳の外である寂しさと少しの期待を抱きながら一段落するまで眺め続けるのだった。

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