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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
エピローグ
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∞/5 女大公は我が道を行く


 無事、私の手紙は斗海へと渡ったようだ。ルーに聞いた。あきらめたように、普通に教えてくれた。


 どうも、前に盛大に情報漏洩したので、もう小夏と斗海に関しては無駄に足搔くのをやめて素直に答えることにしたようだ。賢明である。その流れで、二人が天寿を全うしたら私に教えてくれるよう確約もした。ま、何かない限り、時間の流れはこちらの世界の方が早いから、『シャーロット・ランスリー』の方が先に寿命を迎えて、私自身が神界に戻ると思うけどね。


 そのルーとは、ほかにもいろいろと話し合っていたりする。世界滅亡イベントを乗り越えたことで方々に影響が出ているので、その帳尻合わせというか、対処のためだ。もちろん、エーも引っ張って参加させた。


 例えば、魔物。これは世界の歪みから発生していたものなので、歪みがすべて修復された今、きれいに消えている。そうするとどうなるか。魔物を倒すことがメインだった冒険者たちが、唐突に半失業状態に陥るのである。これはまずいと緊急会議を開いた結果……魔獣を発生させることにした。というか、なんか放っておいても発生しそうだったのを、ちょっと手助けすることにした。


 魔獣とは、魔物とはまた違って、魔素を過剰に摂取した動物が変異し、魔術を使用したりただの動物は持っていない固有能力を持ったりといった生き物だ。魔物を模した生き物を発生させてもいいのでは? という意見もあったが、却下した。下手に似たものを創ると違いが浮き彫りになって矛盾するし、混乱から冒険者の死亡率を無駄に上げてしまう可能性が高い。ならいっそ、『神の怒り』という噂がある今、神によって魔物は滅び、代わりにあふれた魔素から魔獣が自然と生まれた、とした方がいい。


 そのほか、私たちが結界を張って世界を守護した時、黒い光の柱が歪みの大きいところを補強したが、その跡地に黒と青と白の薔薇が群生したという問題についても話し合った。


 何が問題って、ただの薔薇じゃなかったからだ。そんな意図は特になかったのだが、抜こうが燃やそうが直ちに生い茂ってくるこの薔薇、一定範囲以上は繁殖しないのだが、消えもしない。そして調べてみれば、黒薔薇はすべてのステータス上昇、青薔薇は精神安定、白薔薇は治癒の力を秘めていることが判明した。……神々の力が宿った薔薇だからね。仕方ないね。回収してもよかったが、それぞれの効果は人間に与えるには過分というほど劇的ではなかったので、置いておくことに。


 ただ、完全放置もいただけない、という話になったのだ。


「あの薔薇、放置すると誤解を生みそうよね」

『聖域とか、逆に呪われた土地とか言われそうだな。もしくは、あれを巡った聖戦と称してまた戦が起こりそうだ』

「うむ、せっかく面白い効果があるのだから、みんなで使えばよいのにな!」


 私、ルー、エーの意見は一致した。ランスリー公爵家やメイソード王国としてはこれ以上動きたくないというか、そんな余裕はかけらもないので、ほかの誰かにやってもらいたいという意見も通った。


 まあ、人間の自主性に任せて放置でもいいのでは? という意見もちらっと出たけれど、あの世界滅亡イベントは、完全に神々がこの世界を巻き込んで迷惑をかけた形なので、罪悪感からその選択肢はなくなった。


「神託、しちゃう?」

『神託、するか』

「神託だな、ロー姉、ルー兄!」


 団結した私たちは、次期聖王猊下であるマラカヴィト大司教に、『あの薔薇はこうこうこういうものだから、仲良く有効活用してね、争ったらおこだよ!』とルーからの天の声()を聞かせて、丸投げした。『危なくないよ! 神様からのプレゼントだよ!』っていうのを厳かに伝えたのである。私たちはやり切った感満載だった。


 聖リュゼラーガ国では、マラカヴィト大司教周辺が大騒ぎになり、その後バタバタの大混乱になったらしいが、頑張ってほしい。ノーミーから聞くに、マラカヴィト大司教はなかなかに肝の太い面を持つようなので、どうにか乗り越えるだろう。


 そのほか、エルやジルまで巻き込んで、今後もし、エーが『方舟(アーク)』を創造することになった場合の対応策を考えたりもした。二度目がないとは言い切れない中、何の対策ももたずにいることはできない。まさかの長い長い神々の制裁part2が始まってしまっては目も当てられない。


 ともかく。こんな感じで、大公となっても特にランスリー公爵邸から出ていくわけでもなく、今まで通り仕事に忙殺される勤労学院生をやっていた私やそのほかの面々である。


 ちなみに、私の『大公』叙爵は秋に行われる『焔の祭り』と同時に発表され、国中が祝福してくれた。ランスリー公爵領に至っては、「我々のお嬢様がついにそこまで登り詰めた!」とそれはもう温かく、暑苦しく、重たい愛情表現で祝ってくれた。エルの公爵襲名に勝るとも劣らないヤバさだった。


 なお、大公になったことに伴って、潮が引くように求婚状が届かなくなった。何でも、「畏れ多くて無理」らしい。よかった。私は、旦那にする相手としてルーしか眼中にないからね。これまでのうんざりするほど繰り返した人間生で、一度もほかの男にうつつを抜かしたことはないぐらい、記憶がなかろうとも誠実な女だよ、私は。


 ――そうして。あっという間に季節は巡り、春。ジルとリーナ様がご卒業され、私とエル、無事こちらに戻ってきたシルゥ様が最高回生へと進級したころ。


 惜しみない祝福を受けながら、ラルファイス王太子殿下と、リーナ様の結婚式が執り行われた。春に行われる『神祭り』と共に。


 荘厳な式、美しい花嫁、咲き誇る花々、そして盛大な宴。教会から献上されたのは、くだんの黒青白の薔薇だったりもした。これから、この薔薇――『神花』として認定されたらしい――が『神祭り』=『花祭り』のマストになるかもしれない。


 そんなことを思いつつ、私も祝福の言葉を伝える。


「おめでとうございます、ラルファイス殿下、リーナ様!」

「ありがとう、シャーロット嬢」

「うふふ。シャロン様~、ありがとうございます~!」


 本当に幸せそうに、お二人は笑っていた。私も自然と笑顔になる。


 振り向けば、同じく微笑むエル。その隣にはジルが、シルゥ様と並んで口喧嘩をはさみつつ楽しそうに話しているし、シルゥ様の背後に控えたソレイラはドレーク卿といつものやり取り。そのそばではシア様がキラキラした瞳をリーナ様に向け、それからエルを見てほほを染めている。そんなシア様を微笑ましく見守るリズ様とアーノルド様のターナル子爵夫妻。エーもちゃっかり参加して、エルに色々質問をしている。広間の階上、王族席では国王様とアリス様もお二人で微笑みあいながら、安心したようにこちらを見ていた。メリィやアリィ、ルフやマンダ、ディーネやノーミーといった『影』の面々も、影ながら護衛しつつ、式からずっと見守っていることを知っている。



 ああ、騒がしくも愛おしい、私の護りたかったものたちだ。



 シャーロット・ランスリーとして、人生はまだ長い。その後も『ローヴァ』として長く長く存在していく。ここにいるみんなが輪廻にのっても、ずっと。


 私が本当に、『終わり』を迎え、いつかの原初のように消えゆくまで。


 だから、私は、エルたちが……愛おしい彼らが人生を謳歌するのを見守り、見送ることになる。一緒に時を重ねながら。でも悲観はしない。絶望もしない。



 いつでもどこでも、何者になろうとも――すべてを楽しむべく、私は私の思うままに、生きるのだ。








『公爵令嬢は我が道を行く』、完結です!

書き始めた時はこんなに長くなるとは思いもしませんでしたが、ここまでお読みくださり、ありがとうございました!

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