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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第六章 世界の澱
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6/64 底なし沼にはまり込む


 ソレイラが完全に動きを止めた。動揺しきっていることがとてつもなく伝わってきた。気持ちはわかる。衝撃の事実を衝撃のタイミングで暴露されて頭の中が真っ白になってしまった人間の図、そのものである。いうなれば『なん……だと……?』という状態だ。


 しかしここは戦場、光魔術でいったん魔物の群れは吹っ飛ばしたけれどもおかわりはどんどん来るっていうかぐいぐい来るっていうかむしろ勢いを増しましていらっしゃるので思考停止状態はダメだ。それは死亡へと突き進む第一歩でしかないので早急にソレイラには再起動をしてもらわなければならない。


 と、こうしている間にも。


 ――ドオオオオオォォッォォオオオオンンン―――――


 飛行系で火炎系の魔物の集団による一斉の火炎放射であった。なんという連携。魔物なのに。まあ相殺したけど。その際、顔面すれっすれを通り抜けた私の火魔術にさすがに正気付いたらしいソレイラである。間髪入れずに剣を振りぬいて飛ばした(・・・・)斬撃で飛行系魔物を屠ったのはさすがだろう。ナイス反射神経。


 しかし正気付いたソレイラはもちろん思考も再開されたわけで、周囲へ警戒を飛ばしながらも私へ強い視線を時折向けてくる。『説明しろ』とその威圧感が雄弁に語っていることが伝わった。これはそう、あの変態師匠連初エンカウントの折の説明in学院長室にて感じたものと同じ類のそれだ。相変わらず、ヤのつく自由業にいつでも転職できそうなガンたれである。凛々しい系美女のにらみ、迫力パない。


 しかし、変態ともチンピラとも、果ては『魔』たるものとも正面衝突をいとわない私は特に動じない。私、心、強い。


 ……まあたぶん、ガンたれさせたらうちのかわいい使用人さんたちの方が恐怖を覚える。あれは怖い。本当に怖い。主に私たちに関することでぶちぎれて発動するそれらは重すぎる愛の重さをひしひしと感じて押しつぶされそうである。そしてすぐに闇討ちを企画立案し実行しようとする困った子たちでもあるけど。いつからどうしてそうなってしまったのか。うちの使用人さんたちマジハイスペックアサシン。やめて。


 話がそれた。戻そう。


「まあ、信じる信じないは横に置いてちょうだい。本題はそこではないし。前提ではあるけれど」


 詳細を語るつもりは特にない私はそうソレイラに言う。訝しげに眉を顰めるのが見えた。しかしいくら私でもここで腰を据えて語るつもりはないのだ。


 ていうか両親の死因に関して語るとすると遠大で壮大でドロドロな策謀と国際問題が絡んでくるので話すのは無理である。そもそも先ほども言ったが両親が殺されたというのはエルも知らないしジルも知らない。エイヴァは……場合によっては知っているかもしれないが多分興味がないだろう。


 ともかくも、はっきり言うと私と国王くらいしか知らないし国王すら表面しか知らない話だったりする。そのうち機会があれば盛大に巻き込むかもしれないが、今はダメだ。ソレイラの話より多分重くなる。それじゃ意味ない。うん。ほんと意味ないわ。


「……前提、ですか」


 それはもう華麗に魔物をぶっ飛ばしながら、そのクール美女な顔を疑問に染めているソレイラは器用だと思う。しかし『本題ではない』と言い切った両親の死因についての詳細に踏み込むつもりはないのだろう。「では、本題は?」とその目は問いかけてきている。察しがよくて助かる。話が速い。さすがシルヴィナ様の保護者。有能騎士である。この間も殲滅の手は止めないし。なお、この時背後で、防音結界によって声は聞こえていないけど光景は普通に見えているエルが『この状況で重い話を本当にするんだ……』と遠い目をしていたことを後から知った。なんていうか、うん。次があるならもう少しTPOをわきまえようと思います。ごめんね。


 ともかくも、エルの心情までは知らなかった私も、魔物を焼き尽くしながら答えるのだ。


「前提よ。あなた、言ったわね。どうしたいのかも、どうすればいいのかもわからないって」

「……ええ」


 爆音と断末魔の中、聞こえた応えには間が開いていた。それは苦々しいと自分で思っているからだろうか。判りはしないけど、垣間見える横顔は澱んだ表情をしている。自責にさいなまれているかのような。


 でも、そんな顔をする必要はないと私は思う。――思うから、告げる。


「どうもしなくて、いいじゃない。許せないのでしょう。許さなくていいわ。だってそんなの仕方がないじゃない、感情なんて割り切れるものじゃないわよ。割り切らなくて、いいのよ」


 ソレイラが、魔物を切り伏せたその勢いのまま、振り返る。空色の瞳が、見開かれていた。


「――だって愛していたのでしょう?」


 なら、私は責めない。だって私も、同じ思いを知っている。


 『許せない』ものはある。私にも。


 愛するものを奪われてどうすれば奪った輩を許せるというのだろう。愛が深ければ深いほどに、なおさら。










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