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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第六章 世界の澱
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6/63 だから誰かの所為にする(ソレイラ視点)


 考えたら負けだ。ならばもう、突き進むだけだ。


 剣を振り、叫ぶ。心のわだかまりをたたきつけるように。私の中の、最大の因縁さえ、吐き出してみる。多分それを、促している。『面倒くさい』とまで言われたのだから。この際、彼女の考えにとことん流されよう。


 正直になろう。今だけは。今を逃せば、言えないと思うから。


「……本当に、嫌ですけど! 私は! あなたの実力を認めている! あなた様は強い、私が知る誰よりも! あなたに背中を預けられる! 今も!」


 言葉を区切るたび、斬る。魔物が吹き飛ぶ。背後では雷に貫かれた魔物が断末魔を上げる。


「……それを信頼と呼んでいいと私は思う! それでも何かが許せない! その『何か』が何なのかさえも、わからないけれど!」

「……」


 沈黙を守るシャーロット様は刀を振るいながら、同時に魔術で風の刃を操っている。けれど、決して聞いていないわけではないのだろう。エルシオ殿に、わずか目配せをして、受けたエルシオ殿はうなずいていた。同時に彼は自身を覆うように何か薄い膜――結界を張る。それは以前にも見たことがあるもので、おそらくは防音の効果があるものだ。先ほどまでの怒鳴りあいでは見られなかったそれ。彼はここから、ただ『聞き流す』だけではなく、『聞かないで』いてくれようと、しているのだと察した。


 優しい、人たちなのだ。本当に。私はまた目の前の魔物を吹き飛ばしながら、自問自答するように、叫ぶ。


「祖父があなたの父君に殺されたことが許せないのか? でもそれはあなたには直接関係がない! だってあなたは生まれてさえいない! ランスリー公がこの世を去ったことが許せないのか? それはお門違いの憤りだろう?」


 わかっているのに、心のうちのわだかまりが解けないのだ。


 ……祖父を失った後。事態を理解するにつれ、『ランスリー』が憎くなった。アドルフ・ランスリーを恨んだ。仇だと思った。いつかこの手で、と思ったこともある。でも現実を理解して、立場を自覚して、そして今は亡き『ランスリー公』を見かけて。


 『憎しみ』がいつから、どこから変質したのかはわからない。いや、たぶんその『憎しみ』や『恨み』が消えたなんてことはないのだ。ただそれ以上に純粋に私は強くなりたくて、ただ『アドルフ・ランスリー』を倒したくて、


 目標だったのだ。

 でも、彼は死んだ。


 そして、目の前の彼女は『アドルフ・ランスリー』と同じ瞳を持つ、ただ一人の残された子供で。ランスリー公と同じように、強い、人。


 似ている。でも、別人だ。


 行き場のない感情が凝っている。変質した自分の感情を持て余している。宙ぶらりんのまま放置されている。


 許せない。アドルフ・ランスリーが。許せない。『紫の瞳』を持つ天才が。許せない。強くあれない自分が許せない。

 認めたくない。『ランスリー』だけれど、『彼』ではない、よく似ているけど別人の『彼女』を。認めたくない。喪失感に打ちひしがれる自分を。


 そのどれもが正しくて、どれもがどこか的外れな気がする。この心のもやもやをつかみきれない。わからない。判らないのが気持ち悪くて仕方がない。それがまた、彼女への嫌悪に拍車をかけた。


 でもそんなの、子供みたいなわがままじゃないか。


「どうしたいのかも、どうすればいいのかも、今の私にはわからないんですよ……!」


 叫ぶ。それこそ子供のように。それと同時に魔物の首が吹き飛ぶのがあまりにもシュールな光景だと他人事みたいに思う。あたりは死屍累々、しかしすかさずエルシオ殿の浄化がいきわたってそれらは消滅していく。


 そして背後では同じように魔物を吹き飛ばすシャーロット様だけが、私の叫びを聞いていて。


「……まったく、仕方のない子ね」


 かろうじて聞こえたそのつぶやきと同時に、その無尽蔵の魔力をいかんなく発揮して、またしても地平線の端から端まで、光線を走らせる。美しい彼女の横顔が、陰影を深く照らされた。


 私は一瞬だけ動きを止めて、彼女を注視する。彼女も、油断なく周囲を警戒しながらも、私を見た。


「ひとつ、教えておくわ。極秘事項よ。このことは、エルも知らない。ジルも、知らないでしょうね」


 だから誰にも言ってはダメよ、と少女はとても平坦な声で言った。


 そうして、告げられたのは、





「――ランスリー公爵夫妻、つまり私の両親は、殺された。病死じゃないのよ、本当は。そう見せかけられただけ」










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