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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第六章 世界の澱
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6/62 例えばしがらみがないとして、(ソレイラ視点)


「……っだっから! なんなのですかあなたは!? 規格外が過ぎる! なぜ常識の枠に収まって下さらないのですか! 凡人の気持ちが分からないのですか!」

「常識なんて人の数だけ千差万別なのよ! 人間すべて個性それぞれ、全ての人間が特別でしょう! 規格外が何? 時代が私についてこれないだけよ! がんばりなさいよ!」

「なんですかその極論!? というかがんばってますけど!? 凡人の努力舐めんなですよ!? というかあなたこそ、なぜ頑張るんです努力する天才ほんと嫌ですよ、胡坐かいて怠けまくって地に落ちればいいんですよほんとにもおおおおお!」

「いやよ、私は常に頂点を行く女よ! 努力するわよ、研究するわよ、だって楽しいじゃない! 己の欲望のためならどこまでも頑張れるわよ私は! そしてソレイラ、あなたが凡人だなんて私は認めないわ。絶対に。凡人、魔物、吹き飛ばさない。凡人は魔物に吹き飛ばされれるのよ!」

「わ・た・し・は・ぼ・ん・じ・ん、ですよおおおおお! 努力する凡人が私なんです努力して極めたんです、凡人の期待の星ですよ、まだまだ上り詰めてやりますけど何かぁ!?」

「はははは、それでこそソレイラね、待っているわよ、上り詰めてきなさいよ! 返り討ちにしてやるわよ、私はあなたの先を行く!」

「むっかつきますね本当にあなた様は……!? 自重、謙遜という言葉をご存じないのか!? ますます追い落としてやりたい、首を洗って待っていてくださいね!」

「知っているわよ、特に気にしないだけよ! そして迎え撃たれる覚悟を持つことねソレイラ! 私は容赦しないわよ!」

「上等ですよ、後で泣いても知りませんからね、追い詰めますよ、私は執念深いのですよ!」

「知ってるわよそんなこと! 二十年近くいろんな感情拗らせた挙句表面上は何事もなかったような顔ができるクールな熱血女騎士ですものねえ、ええ私、わかってる!」

「いやなところをわかられていますね本当にいいいい! 忘れろください!」

「いやよ」

「なんでそこだけ真顔で冷静に断言ですか? 本気度がうかがえますね。本当嫌です。シャーロット様」


 ――以上、魔力を回復された私と、黒炎をまといし刀を装備したシャーロット様の会話である。現在、まだ戦場。叫びながら背中合わせに私が剣を一閃すれば直線状にいた魔物はすべて吹き飛び、シャーロット様が刀を振れば扇状に魔物が焼き尽くされる。


 私たちの背後で再び援護に回ったエルシオ殿は言った。


「……吹っ切ったね。狂気しか感じないよ。僕帰りたい」


 ここで罪悪感を抱いたらきっと私の負けだろう。そう、吹っ切れた。ゆえにもうこのまま突き進むしかないのだ。平常心を思い出せば私は恥ずかしさに穴を掘って緩やかな自決をしたいと考える気がする。それはダメだ。だから私は考えないことにしたのである。


 その間も、殲滅の手は止めない。シャーロット様はだんと踏み切って宙に駆けあがり、重力、あるいは空気を操作してさらに高く飛ぶと、刀を握るのとは逆の腕を薙ぐように振り切る。氷の刃が無数の飛行型の魔物を打ち落としてゆく――と、私は魔術を放ち終えて舞い降りてくるシャーロット様めがけて……、否。その背後、シャーロット様のうち漏らした魔物の大きく開いた口めがけて、剣撃を飛ばして(・・・・)撃ち落とす。


「油断ですかっ!?」


 叫べば、しかし少女は余裕しゃくしゃく、笑うと同時、私の右斜め後方至近距離で爆音。シャーロット様の手が光弾を放ち、私を背後から襲撃しようとしていた魔物を滅していた。


「……誰が?」

「……っ、上等!」


 そして私たちは、再び背中を合わせ、襲い来る魔物たちを殲滅し続ける。


 ――実に息が合った動きであったと我ながら思う。そして双方遠慮が消え去っていると自覚している。特に私だ。割と最初からシャーロット様に遠慮はなかった。あのお方は常に自由である。


 そして私と彼女がこのようにもはや無礼だとか非礼だとか言いつのることが無意味であろうというような怒鳴りあい、もとい会話をするようになったきっかけも、そんな自由に過ぎるシャーロット様の発言が発端である。


 あの時、結界が解けていき、戦場に舞い戻らんとした時。シャーロット様は言ったのだ。


「そういえば、ここ、どうせ誰も聞いていないもの。エルは流してくれるだろうし、いい機会だわ。言いたいことを言い合いましょう」

「……は?」

「正直ソレイラ、あなた面倒くさいわ。身分とか肩書とかが邪魔をしているのもわかるわよ? でもそれを踏まえて、面倒くさいわ。もう正面切って言ってちょうだい。どんと来いよ。大丈夫よ、私、心も強いから、言い返すわ。返り討ちよ」

「は?」

「ため込みすぎると体にも悪いのよ。もっとぐいぐい来ていいのよ。というか、来なさい。クール美女騎士の仮面なんかこの際捨てなさい。そんなものは最初からなかったことにしましょう。あなたは今から正直者の熱血騎士よ。さあ行きましょう」

「……………は?」


 私は混乱した。しかしシャーロット様はいい笑顔だった。前方を見れば魔物が押し寄せてきていた。援護に回るために下がってきたエルシオ殿はシャーロット様の顔を見て一瞬だけ引きつり切った顔をしたが、特に何も言いはしなかった。


 そして私は、流された。


 結果が怒鳴りあいである。どうしてこうなったのだろう……なんて、私は考えない。考えたら、負けなのである。








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