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公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第六章 世界の澱
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6/60 届かないなら、どうすればいい?(ソレイラ視点)


 死ぬのか。


 真っ白になった脳裏を駆け巡ったのは単純な未来予想だった。反射で動いた腕は、身体強化も切れた状態では何の意味もなくそれ以前に間に合うはずがないのろさで、


 姫様に、どう謝ればいいのか、と。思った時だった。



「ソレイラアアアアアアアアアアアアアア!」



 降ってきた声と、迫るかぎづめとの間に割り込んだ、漆黒の影。同時に吹き飛ぶ無数の異形に、私はあっけにとられてそれを見つめていた。


 その漆黒は、


「戦場で意識を散らすな! 死にたいのか!」


 射干玉の髪を揺らす、紫の瞳の美しい少女。いつの間に、そしてどこから取り出したのか、黒い剣……いや、黒炎をまとったわずかに反った形状の片刃の……おそらくは刀、を手にした、シャーロット・ランスリー嬢だった。


 吹き飛んだ魔物は間髪入れずに、同様にどこからともなく降ってきたエルシオ殿によってその邪気を浄化されて、この一帯に一時的に清浄な空間が出来上がる。


「大丈夫ですか!?」

「けがはないわね!?」

「っ、はい!」


 私を背に、前方をにらみ据えながらも叫ばれる問いに、私は反射的に回答する。間一髪、というタイミングで割り込んだランスリー嬢のおかげで、私にかぎづめは、届かなかった。


 救われた。


 そのたった数言の短い会話を経て、実感した。まだ、生きている、と。しかし、安堵には程遠かった。なぜなら、危機には変わりがない。先ほど切れた、身体強化。もはや私の魔力は尽きかけている。これでは、反撃どころか己の身を守ることもままならない。撤退すらも私だけでは難しい。現に今も、守られている。……どうあがいても、足手まといにしか、なれないのだ。


「……魔力切れね……っ」


 ちっと、令嬢らしからぬ舌打ちをかましたランスリー嬢は、一目で私の状態を見抜いたようである。ここで二手に分かれ、私を結界内に連れていくことも、私をかばいつつ戦い続けることも、破られる可能性があるのに貴重な魔力を割いて私を結界で守ることも、悪手でしかない。それを考えられる程度の頭の回転は戻ってきていた。だから、私は。


「ランスリー嬢、エルシオ殿、私のことは、」


 捨て置け、と言おうとしたのだ。


 しかしそんな私の言葉など耳にも入らないかのように、ランスリー姉弟の動きは迅速だった。


「エル! いけるわね!?」

「任せて!」


 ざっと、一瞬で、二人は立ち位置を入れ替えた。すなわち、これまでランスリー嬢に従うようにやや後方に控えていたエルシオ殿が前面に立ち、逆に下がったランスリー嬢が私に向き合ったのだ。二人の立ち位置は、背中合わせ。


「――三分。いける?」

「五分。持たせるよ」


 私には理解のできない短い会話だ。


「何を――!?」


 思わず、私は声を上げるが、先ほどランスリー嬢が退けた魔物の群れは既に迫り来ていて答えはどちらからも返っては来ない。代わりに、その行動で示された。


「光と水よ――幻影反射結界、展開!」


 ランスリー嬢の唱えた魔術。それは幻想的な光と水の粒子が、私とランスリー嬢を覆いつくし、おそらくは、物理的な攻撃から守ると同時に、目くらましの効力も持つ結界なのだろう。先ほどまでこちらを注視していた濁った魔物の瞳が、目的を失ったかのように反らされていく。代わりに標的となったのは、もちろんその結界の外側にいるエルシオ殿であった。しかし。


「炎と光よ――」


 唱えた言霊、顕現したのは……天を覆うような数え切れぬほどの炎の華。それが光の粒子を巻き込み、無数に魔物に降り注いだ。


 ―――――――――――――――――お゛ゴア゛アアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――――


 その火華に触れた魔物はすべからく聖なるほむらに焼き尽くされていく。そのあまりに幻想的なさまを見た、私は。


 なるほど、この義姉弟、どちらもおかしかったな。


 そう思った。つまり、一周回って冷静になった。サポートばかりしていたからエルシオ殿が攻撃ができないなどと、いつから錯覚していたのだろうか……? 思えばエルシオ殿は光と風と火に適性を持つバランス型であると聞き及んでいる。目の前の光景は多分何も問題ないのだろう。少々その規模と威力と反応速度と状況判断能力が常識を逸脱しているだけだ。


 そう私は納得した。納得、したことにした。そうでないとやっていられない。


 しかし驚愕が一周回った私にさらなる驚愕をもたらすのがランスリー嬢という存在であった。


 彼女は言った。


「さて、それじゃ、あなたの魔力を回復するわよ、ソレイラ」


 ……は?






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