表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵令嬢は我が道を行く  作者: 月圭
第六章 世界の澱
289/661

6/56 闇色をした未知のモノ(ソレイラ視点)


 規格外だろう、ふざけている。


 繰り広げられる光景に、私はついそう毒づいてしまう。


 迫りくる魔物をなぎ倒し、吹き飛ばし、切り伏せ、そのかぎづめを躱し、瘴気をよけ、間合いを測ってまた切りかかる。


 それをどれほど繰り返したのか。実際はさほどの時間は経ってはいないのかもしれない。しかし湧き出てくる魔物はきりがなく、絶え間もなく、襲い来ては牙をむく。それが感覚を狂わせる。吐き気を催す異臭と毒々しい極彩色と、赤子が無理やり『生物』を作ったかのような異形の姿。


 おぞましいもの。害悪たる存在。


 ありえないと思う。その巨体も、強靭さも。……初めの一撃で三十以上の魔物を吹き飛ばした。しかし常であるならば、あの初撃でその倍は吹き飛ばせていたはずなのだ。それが半分。私の調子が悪かったわけでも、腕がなまったわけでもない。ただ獲物の肉体が、重く、強かった。それだけだ。


 そのうえ、この状況。知られる限りのかつてから今まで、一度も魔物の氾濫(スタンピード)の起こったことのない『森』で、起こった異常。今後、周辺諸国には激震が走るだろう。我らがヴァルキア帝国も含めて。……最も対応を迫られるのは、『森』とじかに接するここ、メイソード王国なのだろうが。


 また、化け物を切り捨てる。だみ声の濁った悲鳴を上げて崩れていく巨体、紫色の血液が飛び散るのをよけざまさらに別の個体を切り伏せる。急所を確実に、首を落とし、届かないなら足から崩し、背後に回ってまとめて吹き飛ばす。


 肩で息をするも、止まっていられるほど戦況は甘くはない。しかし身体強化も無限に使用できるわけではない。根底に魔力を使用しているのだから、魔力量のさほど多くはない私には限界がある。


 ――それでも、現在まで致命的な傷もなく、むしろ優勢を保って戦線を維持していられるのは、目の前の化け物ども以上の『ありえない』を体現する子供たちの、おかげだろう。


 漆黒の髪をたなびかせ、駆ける少女はあらゆる広範囲殲滅魔術を撃ちまくっている。それはもうその魔力に底などないのだろうかと思うほどに乱射している。最初に放たれた光魔術による光線だけではなく、天空を飛来する鳥型のあるいは蟲型の魔物は炎の巨鳥が迎え撃ち、氷の龍が撃ち落とす。かと思えば地上でも紫電をまとったゴーレムが居並んで魔物どもを屠ってゆく。あるいは何もないところで異形が切り刻まれてゆく現象に目を凝らせば鋭利な風刃が渦を巻いている。


 少女は笑っていた。


「あははははははははは! まだまだ行くわよ?」


 狂気を感じた。


 そしてその少女のすぐ後ろでは黄土の柔らかな髪を揺らした少年が控えている。風の魔術に光魔術。時には火の魔術を駆使して、少女によって築き上げられる魔物の残骸を間髪入れずに浄化し続ける。


 少年は困ったように眉を下げていた。


「シャロン、楽しそうだね。すごく、怖いよ」


 正直だな、と思った。しかし私はこの少年も少年で普通ではないと気づいている。その浄化魔術の緻密さもであるが、魔力量に不安のある私がいまだ 身体強化を駆使できるのは彼のサポートによるところが大きいだろう。私の身を覆う治癒の魔術が身体への負担を軽減している。多少のけがも癒えていく。それはすなわち集中力の低下を防ぐ意味もあるし、体力の低下を防ぐ意味もある。それらのおかげでかつてないほど効率よく身体強化を使用できている現状がある。


 まさに、規格外。たった三人でこの魔物の軍勢を相手にして優勢に立てるという非常識。魔物の氾濫(スタンピード)というのは、通常国軍が動いて対処をする緊急事態だというのに。

ありえない。


 そう思う。目の前で現実として視認しながら、それでもなお『ありえない』と思ってしまう。


 それは、この期に及んで私が、彼女たちを……いいや、シャーロット・ランスリー公爵令嬢を認めたくないからなのだろうか。


 強い、と思う。その実力はここにきても未知数であると感じるほどに、彼女は強い。判っている。わかっているのに。


 彼女の存在を認められない。


 認めたくない。


 子供の癇癪だなんていわれなくても自覚をしている。大人にならなければならない。事実私は彼女よりも大人であるはずなのだから。彼女の方がよほど冷静に私に接していても。


 あの少女に罪なんてないのに。


 でも、だって、それでは。



 ……私は、何を、許せないのだろう。













評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ